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異世界の勇者、なぜかモブ男子高校生に転生する。~ざまぁした奴らが改心して気付いたら一大勢力のボスになっていた~  作者: マナシロカナタ(かなたん)★ネコタマ3巻&恋AIフラグ1巻★発売
第2章 高校生活(スローライフ)〜クラス統一編〜

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第20話 勇太、熊谷を諭す(1)

「はぁ、はぁ、はぁ……伊佐美」


「よ、熊谷。ナイスラン」


 俺は軽く右手を挙げて、走り終えた熊谷をねぎらった。


「はぁ、はぁ……あれだけ圧勝しておいてなんだそれ。嫌味かよ」


「まさか、賞賛だ」


「はぁ、はぁ……賞賛だって?」

 荒い息を吐きながら怪訝な顔を向けてくる熊谷。


「特に最後はいい粘りだったぞ。どれだけ離されても最後まで諦めなかった。最後まで負けてたまるかって気迫が伝わってきた。本当にナイスランだった」


 そのせいで俺は目立ちたくないってのに、4分を切る記録を出さなくてはいけなくなってしまったのだ。

 まったくいい迷惑だよ(とか思いつつ、ちょっと嬉しくもある俺だ)。


 俺はこういう諦めの悪い奴が嫌いじゃないんだ。


「はぁ、はぁ、はぁ……。それマジで言ってんのかよ?」


「もちろん大真面目だ。いい走りだったぞ」


 俺は改めて熊谷に賞賛の言葉を送るとともに、右手でサムズアップした。


「……チッ、なんか調子狂うな。つーか、なんでそんなに速いんだよ。わけわかんねぇよ。オレはマジで長距離走には自信があったんだぞ。陸上部の長距離専門の奴にだった負けたことはなかったんだ」


「こう見えて運動は得意なんだ。意外だろ?」


「得意とか意外とかそういうレベルじゃなかったろ。先生にタイムを聞いたら3分台だって言ってたぞ。ああクソ、そんな速い相手なら勝てるわけねーよな。まったくバカな勝負を持ち掛けちまったもんだぜ」


 何気ない一言。

 だが俺はそこに潜む問題点を鋭く指摘した。


「違うな。お前は俺じゃなくて、自分との戦いに負けたんだ」


「えっ?」


 きょとんとした顔を見せる熊谷に、俺は言葉を続ける。


「お前は俺が香澄を名前で呼ぶのに難癖をつけた。自分が上へと進もうとするんじゃなく、俺を自分と同じところまで引きずり降ろそうとした。そもそもそれが間違いだ。お前は俺に負けたんじゃない。他人の足を引っ張ってやろうっていう、お前自身の弱い心に負けたのさ」


「あ――」


「世の中、上には上がいる。当たり前だ、世界は広い。サッカーならメッシやエムベパ、ハーランド。挙げればキリがないだろ? ステージが上がれば強いヤツとはいくらでもぶつかる。お前はそのたびに相手を引きずり降ろそうとするのか?」


「それは――」


 痛いところを突かれた自覚があるんだろう、熊谷が視線を泳がせた。


「強いヤツと当たったら、相手を引きずり下ろすんじゃなくて自分を高めろ。お前にはそのための才能がある。その素晴らしい才能を、諦めない粘り強い闘争心を、もっと真っすぐに伸ばしてやろうぜ?」


 熊谷の運動能力の高さは、俺を除けばぶっちぎりの速さでゴールしたのを見れば一目瞭然だ。


 なにより気持ちが強いヤツは何をやっても成功する。

 これは勇者として長年・最前線で戦ってきた俺の持論だった。


 極限状態において、強い意思は時に圧倒的な技術差すらも覆してしまう。


「伊佐美――」


「競技中の取り組み自体は間違っていない。だからそれ以外、たとえば競技に入る前だったり、普段の行いや日常の過ごし方を少しだけ変えてみないか?」


「…………」


「強いヤツは強いだけだ。でもカッコいい奴は、強くなくてもカッコいいんだ。せっかくなら、強くてカッコいい奴になってみないか?」


「強くてカッコいいやつ――」


「俺が言いたいのはこんなとこかな」


 伝えたいことを全て伝えた俺は、そこで口を閉ざした。

 上辺だけでなく熊谷の心に伝わればいいなと思って、後はただただ熊谷の目をしっかりと見つめた。


 熊谷も俺を見つめ返してくる。


 男同士で見つめ合うこと数秒、

 わずかな沈黙の後に、


「伊佐美の言うとおりだ。オレが間違ってた。調子に乗っていたのはオレの方だった。いろいろムカつくことを言っちまって悪かった。この通りだ」


 熊谷はキリッとしたいい顔で言うと、ガバっと頭を下げた。

お読みいただきありがとうございます。

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