第19話 体力テスト(3)ごきげんの香澄
予定通りに1位でゴールし、
「さ、3分56秒だと!? 伊佐美、お前これ高1の全国トップレベルだぞ!?」
大きく目を見開いた驚きの表情で、ストップウォッチと俺の顔を何度も行ったり来たりさせる体育教師に、
「今日は調子が良かったみたいです。普段はもっと遅いんですけど。熊谷と競り合ったから、それも要因だと思います。自分でもビックリですね」
「伊佐美は中学は陸上をやってたのか?」
「生まれてこの方ずっと帰宅部です」
「とてもそうは思えないんだが……」
「本当にたまたまです。それではクールダウンに行ってきます。頑張りすぎて体中に疲労が溜まっているんですよ」
「あ、ああ……身体のケアは念入りにな……」
俺は終始、適当な言い訳を続けると、驚きから困惑へと反応を変えた体育教師を残して、そそくさとその場を離れた。
うーむ、ぶっちゃけちょっと速く走りすぎたか。
4分を切るつもりはなかったんだがな。
でもまぁギリギリ許容範囲だろ?
高校一年生の日本記録は破ってはいないし。
というのも熊谷がかなり粘ってきたんで、俺もスピードを緩めるわけにはいかなかったのだ。
あいつ、言うだけあってかなり速かったし、喰らいついてくる根性もあった。
正直、見直した。
そんな熊谷を完膚なきまでに叩き潰すには、4分を切るようなハイペースで走り続けるしかなかったのだ。
そんなことを考えながら俺が軽く息を整えていると。
「ちょっとちょっと勇太くんってば、めっちゃ速いじゃん! やっば!」
香澄がテテテっ! と駆け寄ってきて、興奮した面持ちで言った。
両手が胸の前でギュッと握られている。
「まぁな」
「もー、そんなに走るのが速いなら教えてくれたよかったのに」
「や、あんまり自慢することでもないかなって」
実を言うと、下手に目立たないように本当はもう少しゆっくり走るつもりだったのだ。
だが熊谷をワカラセるために、圧倒的に勝つ必要があって、こうなってしまったわけで。
だがそのあたりのことは熊谷の名誉のために言わないでおこう。
俺はちょっとイキったサッカー部エースを小バカにするほど、人間が腐ってはいない。
「勇太くんってケンカが強いのも隠してるし、言う時は言うし。実は能ある鷹は爪を隠す系男子だったりする?」
尋ねながら、香澄が小首をかしげる。
実に可愛らしい。
「マジな話そういうつもりじゃないんだが、まぁ全部成り行きだな」
「もっとそういうの見せたらいいんじゃないかな? モテると思うよ?」
「や、俺はそういうのはいいんだ」
「やーん、クール~♪」
勇者時代はいろいろと目立ちすぎて大変だったから、今度は目立たずにゆるりと適当に生きたい。
俺は本気でそう思っている。
そんな話をしていると、
「香澄ー! 女子の1000m走始まるよー!」
遠くから香澄を呼ぶ声が聞こえてくる。
「わっ、やばっ! じゃ、アタシも行ってくるね。残念ながら勇太くんとはちがって、アタシはいい結果は望み薄だけどー」
「大事なのは結果じゃない、自分なりに頑張ることさ」
「わっ、また先生みたーい! うん、じゃあがんばってみるね! 応援よろー♪」
「了解」
俺が右手を挙げて軽く握ると、香澄はこくんとうなずいて、
テテテッ!
小走りにスタート地点へと向かっていった。
そして香澄と入れ替わるようにして、熊谷が汗びっしょりで、口は半開きのまま、肩で息をしながら、俺のところへとやってきた。
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