第18話 体力テスト(2)vs熊谷 ~圧倒~
自信過剰な相手を黙らせる一番簡単な方法、それはそいつの得意分野で捻じ伏せること。
走りに絶対の自信があるらしい熊谷を、1500m走で上回るのが今回のミッションだ。
周りには取り巻き以外の男子生徒以外にも、クラスメイトがわんさかいる。
証人には困らない。
俺と熊谷はスタートラインに並んだ。
1周200mのグラウンドなので7周半する計算だ。
「マジで飛ばすからな。ま、頑張って付いてこいよ。ついてこられるもんならな。ちなみに俺は1500mを4分20秒台で走れるんだ」
「そうか」
「ははっ、頷くしかできないとか、今さらビビッてんのか? どうせお前は5分台ですら走れないんだろ? 帰宅部だしな」
「いや、ちょっと考え事をしていた」
「あ? 考え事だと?」
「俺にもいろいろあるんだよ」
熊谷の挑発を受け流しながら、俺は昨日調べた高校1年生の日本記録を思い出す。
高1の日本記録は3分44秒、これを上回らないようにしないといけない。
でないと大変なことになる。
同時に熊谷にワカラセるために力は見せつけないといけない。
どちらもクリアするには1500mを4分ちょいくらいか?
グラウンドが1周200m、計7周半するわけだから、1周をおおよそ33秒で走れば大丈夫だな。
そんな計算をしていると、体育教師のスタートの号令がかかり、俺たちはいっせいに走り始めた。
大集団から真っ先に抜け出たのは、もちろん俺と熊谷だ。
俺と熊谷は他の生徒とか明らかに違うハイペースで、後続をぐんぐんと引き離していく。
「おいおい、伊佐美。帰宅部なのに最初からそんなに飛ばしていいのか? いや、最初だけ全力で走って目立つ魂胆か? ま、帰宅部の考えそうなことだな」
熊谷が並走しながら声をかけてくる。
「お前こそ、結構なペースなのに喋っている余裕があるのか?」
「はんっ! 舐めんな! すぐに突き放してやるさ!」
熊谷がさらにペースを上げて俺を抜きに来る――が、俺もペースアップして熊谷との並走を続ける。
そのまま1周、2周、3周、4周と周回を重ねていくと、次第に熊谷の口数が少なくなってきた。
「はっ、はっ、はっ! くそっ! こいつ、もう後半だってのにいつまで体力が持つんだ!? はっ、はっ、はっ!」
息が乱れているのが明らかに分かる。
顔が苦痛ににじみ、時折わき腹を押さえていた。
たいして俺の息はほとんど乱れてはいない。
まだまだ余裕だ。
5周目、6周目とマイペース(1周33秒)で走り続ける俺に、必死に追いすがろうとする熊谷。
「はっ、はっ、はっ! ま、負けるかよ……!」
ふむ、なかなか根性はあるみたいだな。
だがそれもここまでだ。
7周目に入って残りは1周半、距離にして300メートル。
「さてと、そろそろラストスパートといくか」
「――は?」
茫然とした声をあげた熊谷を尻目に、俺は一気にペースを上げた。
ぐいぐいと加速して、熊谷を置き去りにする。
「く、クソが――! このオレが帰宅部なんかに負けてたまるかっての!」
熊谷が追って来ようとするが、まだまだ余力を残している俺とは違って、熊谷にはもう抗うだけの末脚は残ってはいなかった。
「なっ、バカな!? なんで帰宅部がこんなに速いんだよ! 俺はサッカー部の1年生エースなんだぞ!」
それでも必死の形相で懸命に手を振り、残された最後の力を振り絞って俺を追おうとするが、その差はぐんぐんと開いていく。
「俺は速いんだ! 陸上部にだって負けやしない! それがなんで帰宅部なんかに負けるんだよ――! クソっ! クソッ! クソ――っ! だめだ、追いつけねぇ! こいつはマジで速すぎる……!」
息も絶え絶えに喚きながら、それでも最後まで追いすがろうとする熊谷に構うことなく、俺は完全な独走状態に入ると悠々と1位フィニッシュを決めた。
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