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私が最推ししているラスボス年下王子は、どうやら呪われているらしい  作者: As-me・com


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8/12

〈8〉元婚約者は、自分のお姉様たちにも迷惑をかけていたようです

 元婚約者の事を愛していたか?と聞かれれば、その答えは「ノー」です。えぇ、それはもう完璧に単なる政略結婚ですから。


 それなりの「情」はありましたけれど、決して「愛情」ではありませんでした。それに元はと言えばこの婚約はあちらの侯爵家から打診されたものですのよ。


 では元婚約者の、ケチで美人に弱い阿呆こと、ウェルド・マクシミリアン侯爵子息についてお話しましょうか。








 あの阿呆は……マクシミリアン侯爵の4人目の子供で末っ子長男というやつでした。マクシミリアン侯爵は奥様と大変仲が良く子宝にもすぐに恵まれましたが、立て続けに女児ばかり3人も生まれてしまい跡取り問題に頭を悩ませておられたそうです。もちろん3人の娘もとても可愛がっていましたがやはり男児がいないと────と、悩み続けて10年。とうとう生まれてしまったのです。あの阿呆が。


 かなりの高齢出産となった侯爵夫人でしたが、無事に生まれた念願の男児にそれはもう一族総出で喜んだそうな。……ですが、喜び過ぎたのですわ。


 高齢の両親はまるで孫を愛でるかのようにウェルド様を甘やかし、3人の姉君たちも歳の離れた弟をそれはもう可愛がりました。


 ちなみに長女のラナシア様はすでにご結婚なされて今は一児の母でございます。残りお二人も結婚適齢期(崖っぷち)なのですが……決まりかけていた縁談どうなったのかしら?


 そんな三姉妹様方とは、私もそれなりに仲良くさせていただいていました。幼い頃はひたすら可愛かった弟があんな残念な阿呆に育ってしまった事に責任を感じていたのか阿呆を引き取ってくれる希少な人物だと重宝してくださいましたわ。まぁ、姉君たちだけですが。


 マクシミリアン侯爵夫人がちょっとあれでしたのよね。いくら遅くに出来た念願の一人息子だからって、その息子の婚約者に嫉妬するのもどうかと思いますわ。だいたいあなた様の息子は婚約者である私の事をないがしろにして、さらには浮気した最低男でしてよ?


 そんな事を訴えても侯爵夫人は聞く耳を持ちませんので言うだけムダですけれどね。


 それにこの婚約破棄は王家も関わっているのですから、私に苦情を言われても困るのです。











「ほんっとうに、申し訳なさすぎて会わせる顔もないですわ……」


 少々やつれたお顔で肩を落としているのはあの阿呆のお姉様……長女のラナシア様です。あれから数日、私と実弟の婚約破棄騒動を聞いて《《急いで》》やって来てくれたのですわ。


 私たちは伯爵家の庭でお茶をしています。人払いしているので私たちだけですわ。いつもなら貴族愛用のオープンカフェで会ったりもするのですが、今はどこにいてもチラチラと私を見てくる人間がいますからね。落ち着きません。まぁ当然でしょう、侯爵家と伯爵家の婚約破棄は知らなくても、王家の婚約についてはすでに噂されていますから。なんでしたかしら……そうそう、『王女と侯爵子息の身分を越えた真実の愛』と『呪われた王子と権力にすり寄る愚かな伯爵令嬢』でしたか。どこの誰が流しているかは知りませんが、噂って怖いですわね。ほほほ。


「別にラナシア様のせいではありませんから、お気になさらないでください。お子様は元気ですか?」


「えぇ、悪戯ばかりで困りますけれど……とても元気ですわ。リゼル様に会いたいといつも言って────って、そんな事を言える立場ではないですわね、ごめんなさい」


 再び申し訳なさそうに頭を下げようとするラナシア様を手で制します。


「あら、確かにもう親戚にはなれませんけれどラナシア様は私のお友達ですもの。お友達のお子様ともたまには会って遊びたいですわ」


「リゼル様……」


 ラナシア様は侯爵家の長子として跡取り問題の渦中にいましたが、あの阿呆が産まれたおかげで解放されて意中の方と結ばれたそうです。その点についてだけは産まれてきた意味があったのでしょう。そのせいもあり余計に弟を甘やかしてしまったと、今は海より深く反省なさっているそうですわ。


「……こんなわたくしをお友達だと呼んでくださるなんて、その優しさに救われますわ。それなのに、母がこんな事をしでかすなんて……」


 眉根に皺を寄せ頭を抱えるラナシア様の手には一通の手紙が握り締められています。


 それはマクシミリアン侯爵夫人……そう、あの阿呆の母親から送られてきた抗議文ですわ。


「マクシミリアン侯爵夫人は、私が悪いからあの阿呆……ウェルド様が浮気をした。私がちゃんとしないからウェルド様を王女に取られた。だから婚約破棄の慰謝料を払え……そう仰っていますわ」


 なんでもウェルド様が王女様と結婚するにあたり、婿に入るかどうかでものすごく揉めているのだとか。知りませんよ、そんな事。まぁ、あのわがまま王女様が自ら降嫁して侯爵家に嫁入りするなんて口にするはずないですがね。


 それに、ゲームでのヒロインは確かに『王家の姫』でした。王女が降嫁して侯爵家に入ったならば『王家の血筋の侯爵令嬢』となるはずなので、たぶんウェルド様が婿入りするのでしょう。


「昔から弟には激甘な母でしたが、こんな訳のわからないことを言い出すなんて……。情けなさ過ぎて涙も出ませんわ。


 だいたい、領地の経営が上手くいかなくなった時にリゼル様のお父上に助けを求めておいて、その見返りにとこの婚約を纏めたのはお父様ですのに!1銭もお金を支払わずに侯爵家の嫁ならば伯爵令嬢にしてはとんだ大出世だろうと高笑いしていたのを目撃した時は我が父ながら殴り倒してやろうかと思いました」


 そうそう、私の父には経営の才があってそのおかげで領地がとても栄えていることになっております。裏では成金だと陰口を叩いていることは知っていますわよ。


 まぁ、それを羨んだ侯爵が父に取り入って来たんですのよねぇ。ウェルド様との婚約も「是非とも」とぐいぐい来られて断り切れなかったようですわ。侯爵の本心は「伯爵のおかげで領地の経営は持ち直したし、さらに儲けがでたがお礼のお金を渡すのは嫌だから侯爵家との婚約で恩を売っちゃえ☆」みたいでしたけど。お父様は腑に落ちないようでしたが格上の侯爵位からの求婚は断りにくいですし、確かに侯爵家の領地が使えると便利な点もありましたので了承したのです。


 ほら、物流って……運搬料も馬鹿にならないでしょう?全く関わりのない領地の道を使うと果てしない通行料を取られますが、婚約者の家の領地なら無料とまではいかなくても、かなり安く出来ます。というか、婚約するかわりにタダ同然の金額で通すように契約しましたからね。


「ちなみに五年の間に安くしていた分の領地通行料の差額も払えとのことです。

 なんでも私がクロード様と婚約した事も気に入らないらしく、実は私が浮気していたんだろうとかなんとか……。ラナシア様には申し訳ないのですが、あまりしつこいと血管が切れそうですわ」


 確かに通行料はタダ同然にしてもらいましたが、物流の売り上げの一部は定期的にお渡ししていましたし侯爵家もかなり潤っていたはずです。一時期侯爵夫人のドレスや装飾がかなり豪華になっていましたから使い道はわかりきっていますわね。


 それでも嫁入りすれば義理の母になる方ですし、侯爵家が新たな家になるのだからとウェルド様の教育や領地経営にも尽力してきたのですが……。


 少し冷めてしまったお茶をひとくち飲んで笑顔を見せましたが、たぶん目は笑っていませんわ。


「真相をご存じでして?」


「なんでも、両親がウェルドは侯爵家の跡取りだからと婿入りに難色を示したら『ならば相場の10倍の結納金を準備しろ。でなければ結婚しない。ウェルドは婚姻前の王女に無体を働いた罪に問われるぞ』と脅されたようですわね」


「結納金ですか……。その《《相場》》が王家から姫が降嫁されるときの10倍となるともう国家予算ですわね」


 それにしてもあの王女は本当に結婚したいのかしら?したくないのかしら?結婚しなければ自分の立場が危ういとわかっていらっしゃらないのでは?


「つまりお金がなくてなりふり構わずに私を脅した……ということですのね。お金があったとしてもあの王女がおとなしく降嫁なさるとは思えませんし、降嫁なさったらなさったで絶対にわがまま三昧で大変な目にあいますわよ」


「わたくしもそう思いますわ。1度だけ見たことがあるのですけれどお側仕えの方々がかわいそうでしたもの」


「ラナシア様の旦那様……エーゼルト辺境伯はなんと?」


「王命には従うしかないが、リゼル様に対して誠意を見せるべきだと説得して下さいましたがダメでした。わたくしの事も長女のくせに弟の幸せを祝えないのならば縁を切ると言われたので……両親の望み通りに致しますわ。もちろん夫も賛成して下さいました。わたくしは王都から離れます。ちょうど王都での仕事も終わりましたので」


「辺境伯様も書類仕事のために王城へ上がらねばならないなんて大変でしたわね。本当なら御本人が来る必要はないはずなのにこれも王女が指名したとか」


「うちの旦那様の顔がお気に召したらしくて、結婚後もちょっかいをかけに来ますのよ。弟との事も相談したいと言いながら『わたくしが他の男の物になって残念だったわね。今さら悔やんでも遅いのよ』と仰っていたそうですわ。もちろん旦那様はお祝いの言葉だけ述べて立ち去ったらしいですけれど」


「たぶん、それが癇に障って結納金などと言ってきたのですね。辺境伯様の妻はウェルド様の姉君……弟のためにお金で苦しめたかったのでは?」


「わたくしもそう思います。もちろん支援は断りました。辺境伯の持つ資金は領地のためのもの……リゼル様との結婚のためのお金ならまだしも、あんな王女との結婚のためになんて銅貨1枚だって渡したくありません」


 ラナシア様はすっかり冷めた紅茶をぐいっと飲み干し眉間に皺を寄せました。相当な言い合いがあったようですわね。


「妹君たち……タチアナ様とユーラリア様は?」


「ふたりとも似たような状況ですわね。婚約がまとまりそうだったのに母がその相手の家に娘が欲しければウェルドの為にお金を払えと……いくら侯爵家の娘とは言えヴィッツ伯爵家と縁を切った家の娘ではその価値は下がります。さらにはあの傲慢な態度……もちろん婚約の話はなくなりました。妹たちがかわいそうですわ」


「とんだとばっちりでしたわね」


「妹たちも実家とは縁を切りたいと言っています。ですがこのままでは平民として放り出される事になるので、どうしたものかと……」


 タチアナ様とユーラリア様はお二人ともお優しい素敵な淑女ですわ。もちろん私ともお友達です。ウェルド様のせいでお二人が不幸になるのは見過ごせません。が……。


「いいえ、ラナシア様。お二人には是非平民になっていただきましょう」


「リゼル様、それではあまりに……」


「大丈夫、良い考えがありますのよ」


 にっこりと笑いその真意を話せば、ラナシア様は快くうなずいてくれるのでした。








 

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