〈7〉推しのためならば、お掃除だって徹底的にやりましょう
さて、なぜかずっと戸惑っているクロード様からとりあえずサインをもらうことができましたのでさっそくお掃除を始めたいと思います。
え、なにをしたのかって?まずは宣言通りに廊下に転がしておいた元使用人たちを全員解雇しました。陛下からも自由にしていいと言われておりますので反論は認めません。それでも一応慈悲は与えましたのよ?これまでのことを反省してクロード様に謝罪するのならば紹介状くらい書いてあげるつもりでした。ですが、元使用人たちの口から出るのは悪態ばかり……さらに王女様に言いつけてやると脅してきました(笑)あの王女様が、あなたたちを守るとは思えませんけどね?
お望み通り、伯爵家から連れてきた護衛たちに頼んで下町へ放り出しましたよ。第三王子と伯爵令嬢に無礼を働いたのですから当然ですよね。一度城の外に追い出された元使用人が、王女様に謁見どころか新しい仕事先が見つかるとは思えませんが……クロード様を悲しませたのですからこれでも処分が甘いくらいですわ。
ちなみに横領をしていた使用人にはもっと厳しい罰が与えられますが……それはお父様にお任せしましたわ。こちらは塔の中を隅々までピカピカに磨き上げるのに忙しいので!
そして新たな使用人たち……伯爵家からやってきたみんなはクロード様に忠誠を誓ってくれました。
「ここにいる執事を筆頭に、みんな身分も確かですし仕事の能力もヴィッツ伯爵家が太鼓判を押しますわ!」
「なにせ、姉上の暴走に臨機応変に対応出来る者ばかりを集めましたからご安心ください」
「護衛の彼らも、元騎士ですからどんな暴漢からもクロード様を守ってみせますわ!」
「姉上がクロード殿下の寝室に忍び込もうとしても彼らならしっかり対処出来ます。姉上撃退用の罠も伝授していますので」
「りょ、料理人たちは庶民の味から高級料亭の味まですべて再現できますのよ!なんなら私の手料理を振る舞って差し上げますわ!」
「ちゃんと、姉上を料理場には立ち入り禁止にするようにいいつけてあります。さすがに媚薬を盛ったりはしないと思いますが、姉上の作った料理が人間の食べ物かどうかと問われたら答えはノーです。いいですか、殿下。命が惜しければ決して口にしてはいけません。一応、耐性のある毒見役を連れてきてはありますが、もしものときは逃げてください。姉上から」
「ちょっとヘンリー!さっきからなんなんですの?!まるで私が危険人物みたいではないですか?!」
「クロード殿下の貞操を狙うという意味で、危険人物でしょう?殿下が姉上の毒牙にかからないように対策を練るのも弟の役目です」
「あー言えばこー言う!だからヘンリーは可愛くないのですわ!」
「……ぷっ!あはははっ!」
私とヘンリーにとってはいつもの姉弟喧嘩でしたが、その言い合いを見ていたクロード様が笑い声をあげました。クロード様がこんなふうに笑うのを初めて見た気がします。
「す、すまない。でも、なんだか可笑しくて……。姉と弟か……いいものだな」
そう言って、目に翳りを浮かべる姿に胸がキュンとした気がしました。クロード様には姉がいて、兄もいるのに、きっと兄弟喧嘩などしたことがないのでしょう。
私は思わずクロード様に手を伸ばし、その手をそっと包むように握りました。使用人もヘンリーも止めようとはしません。
「……リゼル嬢」
「クロード様、以前もお伝えしたとおり私はクロード様をお慕いしております。それは信じていただけますか?」
クロード様が戸惑い気味に、こくんとうなずくのを見て抱き締めたい衝動に駆られますがここはぐっと我慢です。
「私はクロード様より年上ですし、すぐに恋愛対象にみられないのは仕方がないことですわ。でも、せめていつでも甘えられる家族のように想っていただけたら嬉しいです。こんな愚弟ですがヘンリーもいますし、兄弟喧嘩でもなんでもどんとこいですわ!」
私がそう言って微笑みを見せると、クロード様はもう一度こくんと頷いて……恥ずかしそうに頬を赤く染めた。
私は思わず目を細めてクロード様を見つめてしまいます。
もちろん例のモヤをよく見るためです。あのモヤはクロード様の感情によって動いているのは明らかですもの。だから、そのモヤの動きがわかれば逆にクロード様の考えていることがわかるかも……なんて下心があったりなかったりしますが。でも、なかなか集中出来ません。
決してクロード様の唇が可愛いとか、首筋が意外とセクシーだとかなんて思っていませんわよ。見た目は少年なのにその仕草は洗練されていて大人顔負けのフェロモンを醸し出しつつ、慌てたり動揺すると子供らしい可愛らしさを兼ね備えているなんてどれだけ私を萌えさせるのか。なんてことも思っていませんわ。
とにかく可愛過ぎますわ。完璧ドンピシャです。少年時代はこんなにかわいくて、大人になったらあんなに格好いいなんて反則ですわよ。おっと、思考が逸れましたわ。
えー……それはさておき、なんでしたっけ。そうそう、あのモヤでしたわね。
例のモヤは相変わらずクロード様の背後にユラユラと漂っています。今は少し小さめでしょうか。なぜ私にだけ見えるのかは謎ですが、私の中の直感が“これは呪いだ”と叫んでいるのです。
どうやら私の最推しであるクロード様は呪われているようですわね。間違いありません。もしもクロード様の今の状況がこの呪いのせいならば、許せませんわ。
え?なんで言い切れるのかって……勘ですが、なにか?
いえ、別に驕っているわけではなくたぶんですが私が転生者だからかもしれません。だって、クロード様にこんなモヤがついているなんて情報はゲームでは無かったんですもの。つまり転生者オプションとして私にクロード様のモヤが見える能力がついたのではと推測したのです。
ついでにクロード様の好感度メーターも見えたらいいのに。神様がいるとしたら気が利かないですわ。
まぁ、それはそれとして。あのモヤが呪いだとしたら……つまりクロード様は呪われているせいで将来ラスボス化するのでは?と推察いたしました。
あぁ、見れば見るほど推せます。こんなに可愛く素敵で可愛いクロード様。成長すればクールでセクシーな垂涎もののクロード様。
……そんなクロード様を、まだ産まれてすらいないとはいえヒロインに奪われるのはちょっと癪ですわね。
もしこの呪いの原因と思われるモヤをどうにかすれば……クロード様はラスボス化しないのでは?そうすれば、クロード様は少しだけでも私を見てくれるのかしら────。
「姉上、ずっと手を握ったまま黙っていますがどうかしたんですか?」
「────いえ……。ちょっとクロード様のお洋服の下はどんな風になっているのか妄想しておりました。想像と合っているかどうか確認してもよろしいですか?」
「?!」
その途端、クロード様が顔を赤くしたり青くしたりしながら自室に逃げてしまったのは言うまでもなく……私はヘンリーから正座を強要されお説教されてしまうのでした。




