〈6〉弟が私をやたら変態扱いするのですが、これって褒められているのですか?
あの騒ぎから3日。《《色々と》》手間取りましたが、やっとクロード様に会いに来る事ができました。もうクロード様が足りなくて窒息寸前でしたのよ。
ですが、もはや私が来てもお茶すら出てきません。どうやら王女様から「もてなす価値はない」と言われたようですわね。私を見てニヤニヤと笑っている使用人たちの顔にそう書いてありますもの。
「────と、言うわけでして。せっかくすぐさま嫁入りして初夜になだれ込もうと思っておりましたのにおあずけでございます。お父様ったら王命だから仕方がないけれど、侯爵家との婚約破棄とクロード様との結婚を承諾する代わりにクロード様が成人なさるまでは婚約者扱いとして(クロード様に)おさわり禁止だなんて……私の目の前に人参がぶら下がっているのに手を出してはダメだなんてまるで拷問ですわ。酷いと思いませんか?」
「僕は人参なのか」
「クロード様も残念でございましょう?」
「いや、君の父君に心の底より感謝する」
クロード様ったら、そんなに心底ホッとしたお顔をなさるなんて……とても可愛いですわ。
「まぁ!娘可愛さにクロード様への嫁入りを阻止してきたあのような父になんて慈悲深いお言葉を……。ですが成人するまでですのよ?クロード様は現在12歳……いえ、もうすぐ13歳になられますわね。この約束をクロード様にも適用なさるなら、この国での成人は18歳からですから、クロード様はあと5年も私におさわり出来ないってことですのよ?年頃の男子として我慢できまして?」
「だからっ!お前こそ年頃の令嬢のくせになんてこと口にするんだっ?!そんっ、さ、触るわけないだろ?!」
あら、顔を真っ赤にして慌ててそんなことをおっしゃるなんて……。私のことをちゃんと“年頃の令嬢”だと認識していてくださいましたのね。
「そうですわね。障壁がある方が萌えますわよね。でも、あんな父との約束など気にせず触りたくなったらいつでもおっしゃってくださいませ。ちなみに私はすでにものすごく触りたいです。その柔らかそうな美しい髪を撫でて摘んで(匂いを)嗅いでもよろしいですか?」
「いいわけあるかぁ!!」
全力で拒否られました。残念です。
「お許しいただけたら、せっかくあれやこれやと計画していましたのに……。とにかく、今日から正式に婚約者としてこちらに通わせて頂きますわね。“通い妻”というのも、それはそれで萌えポイントでございますしね」
「……一体何をする気だったんだ」
「そんな事、口には出せませんわ」
あら、なぜクロード様はがっくりと肩を落としていらっしゃるのかしら?なにやらお疲れのご様子ですし……。もしかしたら眠いのかもしれませんわね。
「お昼寝なさるなら添い寝いたしますわよ?それともクロード様的には膝枕の方がポイント高いですか?」
「子供扱いするな。と言うか添い寝しようとするな。膝枕もいらない!……おい、何をジリジリと近づいてこようとしている?!」
「こうなったら、もういっそ一気に「はい姉上、そこまで!」……なぜあなたがここにいるの?ヘンリー」
クロード様に近寄ろうとする私の顔にやたら分厚い書類の束がぶつかってきました。せっかくクロード様と2人きりだと思っていましたのにとんだお邪魔虫がいたものですわ。我が弟ながら空気を読むってことを知りませんの?
「人に仕事を頼んでおいてなにをしているんですか?使用人たちが困っていますから、はしたない真似はやめてください。姉上」
そう言ってヘンリーが視線を動かした先には《《伯爵家から連れてきた》》執事や侍女たちがずらりと並んでいました。
そうでした、執事や侍女がいましたわね。これは失礼。あら、元々いた使用人たちがいつの間にかいなくなっていますわ。え、全員捕まえて廊下に転がしている?よくやりましたわ。それはそれとして……。
「でも、私の目にはクロード様しか映っていないのですから仕方がないのですわ!」
「その獲物を狙うハンターな目にですか?」
「そうよ。私の旦那様はこの世で1番素敵ですもの!」
「その《《未来の》》旦那様にセクハラで訴えられる前におとなしくしていないとロープで縛って穴に埋めますよ」
「クロード様が望むなら特殊プレイだってどんとこーい!「いいから黙れ、バカ姉」……ごめんなさい」
ヘンリーは本気で怒ると怖いのですわ。これ以上ふざけたら(本気ですけれど)本当にぐるぐる巻きにされてその辺に転がされてしまう気がします。だって、ヘンリーが連れてきてくれた執事の手に頑丈そうなロープが握られていますもの。すでに“私対策”を教え込んでるようですわね。
全く、あの子は私をなんだと思っているのかしら?(たぶん変態だと思われている)
「お初にお目にかかります、クロード殿下。弟のヘンリーと申します。この姉は、ちょっと思考が斜め上のテンション高めで暴走気味な変態ですが、クロード殿下を想う気持ちに嘘はないので……どうかよろしくお願いします。では、さっそく《《掃除》》に取りかかりますのでこの書類にサインだけいただけますか?」
「い、いや、僕の方こそ……。え、掃除?」
「はい、《《掃除》》ですわ」
にっこりと笑顔のヘンリーの隣に立ち、私も同じ笑顔を並べます。私たち姉弟は笑顔がそっくりだといわれますのよ。
「まずはこの塔の“空気”の入れ替えをしますわ。これは私の……“婚約者の可愛いワガママ”ですのよ。聞き入れてくださいますでしょう?クロード様」
クロード様は、私の言葉に黙ったまま書類に目を通してくださいました。そしてすぐに私が何をするつもりなのかわかったようですね。
「これは……。だがこんな予算、陛下が僕のために出すわけが……」
もちろん知っています。クロード様に割り振られている王族としての予算が最低限以下だということも、そのわずかなお金すら書類上だけのやりとりで、クロード様のもとへは金貨1枚もやってきていないことも。誰かがそのお金を横領しているだろうことも。ちょっと調べればすぐにわかることです。
でも、クロード様はそれをあえて口には出されませんでした。そうすることで、もっと自分の立場が悪くなるのではないかと危惧されているのですわ。
「だからこそ、これは私の“ワガママ”なのですわ。それに、父が交渉して陛下からも勝手にする分には好きにすればいいと言質をとっておりますのよ」
「我が姉は《《ワガママ》》が酷くて……でも、姉上が自分の資産を使って勝手にアレコレするものですから弟としては逆らえないのです。クロード殿下もお嫌かもしれませんが、ここは我慢してください。そうですね……きっと、王女様あたりには“第三王子の婚約者になったリゼル嬢は元婚約者に振られた腹いせに塔で好き勝手している。第三王子もそんなリゼル嬢を疎ましく思っているが王命だから仕方がないと諦めている”……なんて噂が届くはずです」
「まさかクロード様相手に“推し活”が出来るなんて夢のようですわ!ここでならこれまで反対されていた推しグッズを作っても(ヘンリーに)怒られませんし、(ゲームとの)コラボメニューを開発しても楽しそうですわね!……それにしても、元々塔で働いていた第三王子の大切な使用人たちを全員追い出したり、模様替えやなんやとクロード様にご迷惑をかけて好き放題……あら、私ったらまるで物語の悪女みたいじゃありませんこと?」
「お似合いですよ、姉上」
クロード様は状況が飲み込めないのか、私とヘンリーの軽口を聞きながら狼狽えておられるご様子ですわね。よく見ればモヤもソワソワするかのごとく動いていますわ。
「クロード殿下、ヴィッツ伯爵家が金があるだけの成金伯爵家と中傷されているのはご存知ですか?」
「それは、一応……。今代の当主になってから成り上がったと「正確には、姉上が生まれてからです」えっ……?」
「それまではギリギリ爵位に縋り付いているような弱小伯爵家でしたが、この姉リゼルは物心が付いた頃から変わり者……いえ、変態の頭角を現しました。それまで誰も考えもしなかったアイデアを突如叫び出したんです。……まぁ、それを真に受けて商品化する父も変なんですけどね。ですがそれが大成功して領地は潤い、ヴィッツ伯爵家には“成金”と言われるほどの資産が転がり込んできたということです。もちろん姉のことは極秘扱いですし、このことは王家にも伝えておりません。それに姉自身も、なぜそれを知っているのかは分からないけれどなんか知っているから!……なんて意味不明なことを口にしますから手に負えないのです。しかしもう資産はじゅうぶんにありますし、あまり目立つと王家から目をつけられても困ります。ですから──────クロード殿下はあのじゃじゃ馬の手綱を握ってしっかりと調教してくださいね?」
長々と語っていたヘンリーがクロード様の耳元に顔を近づけたと思うと、最後に何かボソッと呟いたようでした。推し活について妄想するのが楽しくてよく聞こえませんでしたが、クロード様の顔色がちょっぴり悪いような気がします。やっぱり不安なのでしょうか?
でも、ご安心くださいませ。“最推し”の平穏な生活は、私が守りますから!
まずは──レッツ、お掃除!ですわ!




