〈5〉ご褒美を手に入れたので、私のテンションは右肩上がりノンストップです
「……リゼル、なぜか早馬で王家からの王命の知らせとマクシミリアン侯爵家から婚約破棄の書類が同時に届いたのだが……。なんで王命で婚約破棄させられてるの?どゆこと?
あと、そんな婚約破棄の書類と一緒になぜかお前と第三王子の婚姻届が付いてきてるのだけど……え、なにこれ?夢でも見てる?」
「あら、珍しく仕事が早いですわね。さすがに王命の威力は強いですわ。えぇ、……確かにウェルド様から婚約破棄をされましたわ。なんでも王女様と真実の愛を育んだとかなんとか戯言を仰って人前で宣言なさっておりました。その姿があまりに滑稽で、私ったら“すんっ”て、してしまったほどですのよ(笑)
あっ、それと……ついでにそのまま第三王子であるクロード様と婚姻するように国王陛下から仰せつかりましたので、急遽嫁入りすることになりましたの。勢いのままにクロード様とは顔合せも済ませ、嫁入りオッケーの言質も(無理矢理ですが)取ってきましたのでご安心くださいませ。あらこれは、いわゆる交際0日のスピード婚になるのでは……これはこれで萌えますわね!」
実家に帰った私に弱々しく声をかける人影があったので、私はすぐさま握りしめた拳を天高く掲げて言い切りました。やはり他の誰かに伝えると現実味がでてきますわ。
そんな私を見て、口をあんぐり開けたまま目を白黒させているのは私のお父様であるヴィッツ伯爵ですわ。伴侶であるお母様が数年前に流行り病で亡くなってからは男手ひとつで私と弟を育ててくれた頼りがいのあるお父様ですが……あらあら、若々しさが自慢のはずでしたのに一気に老け込まれてしまわれましたわね。この瞬間に白髪が増えましたか?……そんなに喜んでいただけたなんて私もとても嬉しいです。これも親孝行になるでしょうか。うふ。
「いや、ちょっと待ってくれ……情報内容が過激すぎて頭が追い付かないんだが……」
そう言って、書類を握り締めながらフラフラとしているお父様ですが……あら、混乱なさっていましたのね。それならば私の必殺技ですべて解決ですわ。
「つまり……カクカクシカジカ。ですわ!」
「なるほど……陛下に嵌められたな」
さすがは私のお父様です。カクカクシカジカでの方がキッチリ伝わりましたわ。でもなぜか、伝わった瞬間にお父様の頭皮から髪の毛がハラリと地に落ちました。あら、ストレスですか?
「でも、誤解だけはなさらないで下さい。私は決して王命だとかそんなくだらないことに無理矢理従わされて嫁にいくわけではありませんわ。今回のことについては心の底から喜んでおりますのよ。なんていうか、今なら逆立ちして螺旋階段をツーステップで踊りながら転がり落ちられる気分なのですわ。
────まさかクロード様と結婚できることになるなんて……ちょっとだけテンション爆上げマックスですのよ!というか、そう!パラメーターが突き抜けましたわ!」
「お前は幼い頃から言動が少し変わった子供だったが……だが、ダメだ!いきなり結婚なんて……!寂しいじゃないか!
まずは婚約者になって実家から通いなさい!パパはそんなの許しませんーっ!」
私の本気度を知った上で、ジタバタと幼子が駄々をこねるように暴れ出すお父様。こんなおじさんが伯爵家の当主なんて世も末ですわね。というか、侯爵家との婚約を破棄された事はもうよろしいのかしら?一応政略結婚のはずでしたが。
「父上……、まずは侯爵家との婚約破棄の件を始末しないといけませんので落ち着いて下さい「ごふぁっ?!」……落ち着きました?」
あら、どこからともなく現れた我が家で唯一マトモな弟が眉を顰めてお父様の動きを拳で止めていました。どうやら執事が呼びに行ってくれていたみたいですね。お父様の頭には大きなたんこぶが仕上がりましたが、さすがは我が弟です。ああなったお父様は物理的にでしか止められないとよくわかっていますわね。まだ15歳ですのに、本当にしっかりしています。顔立ちや髪や瞳の色といい、見た目は私と似ているのに中身はまったく似ていないとよく言われたものですわ。その成長に天国でお母様も喜んでおられることでしょう。
「あいたた……だがヘンリー、国王陛下がわざわざそんな真似をしたのなら婚約破棄はもう決定事項だ。それにきっと慰謝料の請求も出来ないだろう。陛下は王女を守るためにその辺も抜かりなくされているだろうさ。こんな成金なだけの伯爵家が何をわめいても余計に立場が悪くなるだけだ。
それに、クロード殿下との事もリゼルが納得しているのなら仕方があるまい。端から見れば王家と伯爵家の縁談と言う破格の待遇なのだしな」
あらお父様、駄々をこねていたわりにはわかっていらっしゃるではないですか。そうです、この縁談は私にとってご褒美です。まさに猫にマタタビ状態なのですわ。
「……そうなんです。クロード様は超絶美少年でとても可愛らしくて……元々(ラスボスが)かなり“推し”でしたが、お会いした瞬間“最推し”になりました。これは運命ですわ……私、是非ともクロード様をはむはむぺろぺろしたいと荒ぶる気持ちを抑えるのが大変ですの!」
「姉上はセクハラ発言を止めてください。婚姻が成立する前にクロード殿下から訴えられますよ」
我が弟が冷たい視線を私に向けてきます。ヘンリーもクロード様と同世代くらいの歳なのに、こっちの年下は全く可愛くありませんわ。
「ヘンリーは、もっとクロード様の可愛らしさを見習うべきですわよ!」
「やかましい、このバカ姉。いえ、姉上。とりあえず父上の言うとおりまずはクロード殿下の婚約者として振る舞ってください。あくまでも、《《婚約者》》としてですからね!でないと田舎の領地から叔母様を呼んで厳しく淑女教育をやり直してもらいますよ?!それこそクロード殿下が成人するまで会えなくなるくらいきっびしいやつを!!」
「ぬぐぐっ……!なんて卑怯な……!」
私は叔母様が苦手だったので、ここはひとまず引き下がるしかありませんでした。ヘンリーには、恋する乙女心というのがわからないのです!
「ヘンリーの、鬼!悪魔!人でなし!もう、わかったわよ!────でもそれなら、少し手を貸してちょうだい。相談したいことがあるのよ。……クロード様のために」
妻なら簡単でも、婚約者の立場では出来ることにも制限がありますからね。こうなったらヘンリーを巻き込むことにします。
「……で、何を企んでいるんですか?姉上」
「企むなんて失礼な……ただの“可愛いワガママ”、でしてよ?」
姉バカかもしれませんが、仕事の出来る頼りになる弟なのは確かなのですわ。可愛くはないですけどね!




