〈3〉私が新たな扉を開いてしまったのは、あなたが可愛い過ぎるからです
私の異変に驚いた顔を見せるクロード様が食い入るように私の顔を覗き込んできました。それは、ラスボスがゲーム内では見せたことのないような素敵なお顔でしたわ。
あら、可愛い。なんですか、その年相応のピュアで純真そうなお顔は……。目をキラキラと輝かせて可愛すぎます。瞳がまるでルビーのようでドキドキしてしまい、私の心臓が跳ね上がりそうです。
あー、かわいい。好き。見れば見るほどめちゃくちゃ推せます。可愛いは正義ですね!
「僕の後ろにモヤが見えるだと……?それに、そんな神秘的な色をした瞳を見たのは初めてだ……まるで、七色に輝く真珠みたいな……」
「クロード様……そんなに可愛いお顔をこんなに近付けてくるなんて……キスしてもいいんですか?」
あまりに至近距離なクロード様の可愛らしい表情に、私は思わず本能丸出しな本音をポロリと呟いてしまいました。だって、もう一歩踏み出せば触れてしまいそうなほどに近いんですもの。事故チューならアリかしら?
するとそれまで私の瞳に夢中だったクロード様のお顔がポカン顔に変貌し、それから一気に現実に戻ったのか、ものすごい早さで離れてしまいました。あら残念。
「おま、お前、なんっ?!」
あ、違うわ。まだ混乱しているようですね。えっやだ、やっぱり可愛い。めちゃくちゃ可愛い!どうしよう、愛でたいわ……!私の中に新たな扉を発見して一気に抉じ開けてしまった気分です。
なんていうか……あのほっぺをムニュムニュして、はむはむぺろぺろしたい衝動が高まってきました……!実は私って肉食女子だったみたいですね。クロード様のおかげで、これはまた意外な発見をしてしまいましたわ。
「あら、つい私の中の本能が顔を出してしまったみたいですわ。失礼いたしました。……あら、モヤがまるで動揺したかのように激しく上下左右に揺れていますわよ?もしかしてこのモヤはクロード様の感情に左右されているのかもしれませんわね……さぁさぁクロード様、確かめてみますからもっと近くで見せてくださいな?
さぁほら、出し惜しみせずにぐいっとぺろっとポロっと!」
思わず両手の指をワキワキと動かしながらクロード様に一歩近づくと、今度はあからさまに怯えた顔をしたクロード様が一歩後ろに下がり出します。これではまるで、獲物を追い詰めるハンターのような気分になってしまうではないですか。
……なんでしょうか、ものすごく楽しいです。────あれ?覚えてはいませんが、前世でもこんなシチュエーションがあったような、なかったような……。いえ、やっぱりわかりませんね。
するとクロード様が遮るように私の前に両手を広げて突きだしてきました。その手は少し震えています。もしかしてこれで抵抗しているつもりなんでしょうか?こんなの私を煽っているだけですわ。
「ちょ、ちょっとまて!モヤとかその瞳のことはとりあえず置いといて、まずはお前がなんなんだ?!そもそもなぜここにいる?!鼻息を荒くして僕に近づくな!」
あら、けっこう重要な事だと思いますのに横に置いておかれてしまいました。まぁでも、確かにこっちも重要な話でしたわね。というか、本命の話はこちらでしたわ。いくら楽しくなってしまったとはいえ、クロード様を襲っている場合ではありませんわ。
私はこの場を整えるために軽く咳払いをして姿勢を正しました。
「そうでしたわ。つい、楽しくなってしまって止められませんでしたの。────人間は本能には逆らえないって本当ですわね。では、続きは後でゆっくりするとして「しないぞ?!」あら、残念」
クロード様が反射的にツッコミを入れてくれたことになんだか嬉しくなり、頬が緩みます。だって今のクロード様はゲームのラスボスクロード様とは違って、とても表情豊かで楽しいんですもの。だからついからかってしまうと言ったら怒るかしら?
「では寝込みを襲うまでですが「襲うなよ!?」それではつまらな……ゲフン。いえ、簡単に説明しますと、つまり私はカクカクシカジカであなた様の嫁となった者ですわ」
「さてはお前、僕をからかってるな?!というか、カクカクシカジカでわかるかぁ────っ!」
ついニヤけてしまったのがバレたのか、やっぱり怒られてしまいました……。でもぷんすかと怒った顔も本当に可愛い。超絶推せます!
異性を見てこんな感情が湧き上がるなんて……もしかしたらクロード様が初めてかもしれません。だとしたら、クロード様は私の“初恋”ですわね。なーんて。
それにしても確かラスボスのクロード様は陰のあるクールなキャラのはずでしたのに、少年時代はこんなに感情豊かだっただなんて設定資料集にも書いていませんでした。それはつまり、私だけが知っているクロード様の秘密ってことでいいのかしら?それって、すごいことじゃないでしょうか。
そう思ったら……これはなんだか、背中がムズムズするような……ちょっと恥ずかしいような……。私としたことが、そんな不思議な気持ちになってしまいましたわ。
もしかして私、照れてるのかしら?さっきまでクロード様をからかって楽しんでいたくせに、急に恥ずかしくなるなんて……私もまだまだです。
「……?」
すると、少し不貞腐れた顔をしながら眉をひそめるクロード様とバチッと視線が重なります。私が黙ってしまったので気になったのかしら?
とりあえずこの場は誤魔化さなくてはいけませんよね。そしてなにがなんでも私との結婚を承諾してもらわないといけません。話はそれからです。
「えーと、ほらまぁ、細かいことはいいじゃないですか。とにかく、今日から私はクロード様の妻になるのですわ!よろしくお願いしますわね」
にっこりとそう告げる私を見て、クロード様がその場でがっくりと膝を付きました。今度はなぜそんなに絶望的なお顔をなされているのかしら?モヤもなんだか元気なさげにしょんぼりしてるじゃないですか。
でも……コロコロと表情が変わって……やっぱりクロード様は超絶的に可愛いです!
「……だから、結局お前は何者なんだって……」
だから、あなたの嫁ですってば?
首を傾げた私に、クロード様が大きなため息をついたのでした。
こうして私とクロード様の、甘く切なくも激しく楽しいワッショイな新婚生活が始まるはず……だったんだけどなぁ。人生とはなかなかうまくいかないようです。




