〈2〉大好物のドンピシャだったので、最高に推すしかありません
私には前世で大好きだった乙女ゲームの記憶があります。
それが『乙女と禁断の恋』……略して『乙禁』なのです。
ヒロインはとある国の王女が産んだ一人娘のマリーベル。父親についてはぼかされており、誰なのか、今もいるのかいないのかわからなかったのですが……今回の事でハッキリとわかりました。マリーベルの父親はあの元婚約者……ウェルド様です。
父親がアレならば、どうせなにかやらかして処分されたんだろうと想像がつきました。
そう、そのヒロインとは……今まさに王女様が身籠っている赤ちゃんです。ヒロインがまだ産まれていない世界。ここは、『乙禁』の過去の世界なのです。
せっかく大好きな乙女ゲームの世界に転生出来たはずなのにまだゲームは始まってもおらず、私自身もゲームには何の関係も無いただのモブ令嬢だとわかった時はガッカリしてしまいましたが……。見た目だってどこにでもいるような癖っ毛のある茶髪に暗い緑色の瞳でモブそのものなんですもの。
だって流行りの転生モノといえば、悪役令嬢かヒロインに転生するのが定番ではないんですか?まぁ、『乙禁』の悪役令嬢は禁断の愛など言語道断と正論を振りかざして理不尽に断罪されたり、正義感故に騙されて操られ殺される可哀想な役なので、なりたかったかといえば微妙なところですけれど。だって、攻略対象者の1人がなんと悪役令嬢の……いえ、今はゲームのネタバレをしている場合ではありませんわね。
ともかく、まさかヒロイン誕生のきっかけに関われるなんて(ある意味で)感動ものでした。ウェルド様の浮気相手が王女様だと知った時の衝撃たるや。……だって目の前でふんぞり返ってる王女様のお腹にはすでにヒロインがいると思ったら、ねぇ?
まぁ、確かにその時はちょっと興奮したんですけど、すぐに「すんっ」となりましたけどね。
王女様は私のことを婚約者を奪われてショックを受けている負け犬女のように扱いたかったようですが……全然大丈夫ですよ。ほんとマジで。とにかく後はヒロインが無事に生まれてくれればいいので出産を頑張ってください!
それにヒロインが大きくなってゲームが始まる頃には私はもう現役引退しているだろうし、それなら最初から隠居しようかと思っていたのにまさかの結婚話が舞い降りたのです。
ゲームの中で、とある少年の姿絵が1度出てきた事があります。それはエキゾチックな黒髪とルビーのような深い赤色の瞳をした悲しげな美少年でした。ラスボスが最初に心に傷を負った頃の姿で、プロローグの中でほんの一瞬だけ見えただけでしたが……それを私の心のカメラが連写して目の奥の網膜にしっかりと焼き付けたのは言うまでもありません。ぶっちゃけ前世の自分がどんな人間だったかとか死因などはまったく(興味もなかったので)覚えていませんが、この時の美少年に関してならまつ毛の長さから顔の角度まではっきりと覚えています。
そう、彼こそが第三王子クロード様なのですわ。
王族は皆、金髪に青い目をしているのですがクロード様だけ毛色が違うからと毛嫌いされてしまいます。幼少期に親の愛を受けられなかった彼は荒んでしまい禁忌とされる黒魔術に手を出して、世間体を気にした国王に塔に隔離されてしまうのです。
簡単にあらすじを言うと、クロード様は自分と違い皆に愛されるヒロインに嫉妬します。それが“初恋”だとは気付かず拗らせたままありとあらゆる手を使ってヒロインと攻略対象者の邪魔をするのです。ルートによっては悪役令嬢もクロード様の手駒として使われていました。
どのルートでもヒロインが3人いる攻略対象者たちと結ばれた後、彼はラスボスとしてヒロインたちの前に立ちはだかります。だいたいが黒魔術で厄災を起こそうとするクロード様を殺してハッピーエンド。その後はヒロインが女王になったり聖女として旅に出たり……その辺は分岐点によって様々ですね。
そしてすべてのルートを解放した後に出現するシークレットルートではそのクロード様を攻略出来るのですが、これがまた激ムズです。タイトル通りの叔父と姪の“禁断の恋モード”ですからね。攻略対象者たちもそれぞれ禁断というかあまり祝福されない恋なのでドロドロ略奪好きにはたまらないはずです。そんじょそこらの昼ドラにも負けてませんから!可愛い顔してヒロインもかなりのやり手ですね!
そんな暗い過去を持ち、ヒロインに翻弄されてしまう未来のラスボス。そんな人が今、まさに私の目の前にいます。
元々ラスボスは“キャラ推し”として好きでしたが……もっと推せる!実物は私の好みにさらにドンピシャ大好物なんですけど?!リアル美少年ショタ最高ーっ!これはもう、最推しに決定するしかありません!ワッショーイ!!
「はじめまして、お嫁に参りましたわ」
「…………」
内心の荒ぶる気持ちを抑え込んで、にっこりとそう言えば怪訝そうな顔で私を睨んできたのはリスティル王国第三王子である通称「悪魔王子」ことクロード殿下です。現在12歳のまだ幼さの残る可愛らしいお顔なのに何をそんなにしかめてらっしゃるのかしら。でもしかめっ面も最&高!
それにしても本物です。姿絵なんかより100倍素敵です。あのまますぐにクロード様のところへ行ってせめてご挨拶だけでもしたいと落ち込んだ顔つきで懇願したかいがありました。王女様が意気揚々と許可をくれましたよ。ここまで案内してくれた使用人の前でも暗い顔をしてバッチリ印象づけておきましたから、これでこの婚姻は確定ですね!“婚約破棄されて王命に逆らえず嫌な縁談を受けるしかない惨めなキズモノ令嬢”の姿に、今頃は王女様も高笑いが止まらないことでしょう。
だって、下手に時間を空けて私が喜んでいると王女様にバレたら、やっぱり無効にするとかなんとか言われかねませんもの。
ちなみに私の心のカメラがまたもや連写している最中です。眼福すぎます!
「誰だ、お前は……」
まるで警戒する猫のように威嚇してきますが全然怖くありません。ちょっと怯えているのかしら……懐かない野良猫って萌えますよね。じゅるり。
「私は────あら?クロード様、背中に背負ってらっしゃるそのモヤはなんですか?」
「……モヤ、だと?おい!お前の右目が光ってるぞ?!」
なんてことでしょう。なんだか突然、右目にだけ、クロード様の背後に黒いモヤモヤしたモノが見え始めたのです。ゲームではラスボスにこんな設定なかったはずなのに……。
私の瞳────どうしちゃったのかしら?




