〈12〉ギャップ萌えさせられた上に突然のご褒美でパニックです
珍しく塔から出てきたクロード様はとても険しい顔をされていました。ええっと、なんでそんなにあからさまに慌てているのでしょうか?なんだか鬼の形相みたいに見えるのですが……。
というか!その背後にはここ最近ではほとんど見なかったような────いえ、これまで見たことがないくらいな大きさの黒いモヤが激しく揺らめいているではないですか!?え、さっきまでそんなフラグとかどこにもなかったですよね?!
こ、こんなに大きなモヤが現れるなんて……。これは、クロード様と出会ってから初めて経験かもしれません。
それにしても……このモヤがクロード様の感情に左右されてるのだとすれば、今のクロード様は一体どんな感情でおられるのでしょうか?!
「ク、クロード様……!」
「今すぐこの手を離せ……!」
険しい顔をしたままのクロード様が、ウェルド様を睨みつけながらその手首を掴んで捻り上げました。なんとそこからバギィッと鈍いながらも何かが砕ける音がしたのです。
「ぎぃゃあっ?!」
あまりの痛さのせいでしょうか?私の手首から手を離したウェルド様が、なんだか獣のような叫び声をあげながら顔を激しく歪めています。まさか大きくなられたとはいえ細身のクロード様がこんなに力が強かったなんて驚きました。もしかして、あの服の下は筋肉が……え、クロード様ってば隠れ細マッチョ?!おっと、今はそれどころではありません。
それにしても、聞こえてしまった今の不穏な音は……もしかしなくても折れたのでは?いえ、まさか骨が粉々に砕けました?
なんてことでしょう……クロード様、これはやっぱり怒りの感情なのですわね……?だってこんなに険しい表情のクロード様なんて初めて見ましたもの。
でも確かに、いくら実姉の結婚相手だとはいえ、私と“婚約する羽目”になった原因が突然目の前に現れたんですものね。怒って当たり前です……。それに、クロード様は思春期真っ只中、思春期の男子は感情が昂りやすいと聞いていますわ。ですから、これまで燻っていた怒りの感情が一気に爆発したとしても仕方がないのかもしれません。……それくらいにクロード様が私との婚約を心の奥底で嫌がっていたということですものね。……うぅっ、自分で結論づけてものすごい落ち込むのですが。
でも、それにしたってモヤが大きすぎです。このモヤはラスボス化に繋がる可能性があるのですから、こんなに溢れていてはヤバい感じがしますわ!私は“視る”ことは出来ても、それをおさめるすべは知らないのですから。
ここはなんとか落ち着いてもらわないと、取り返しのつかないことになりそうな気がします!
「僕の婚約者に何をしているのかと聞いている。今すぐ答えろ……!」
「べ、別に何も……!そ、そうだ、オレはきさまの義理の兄だぞ……!?これが目上に対する態度なのか……?!」
さらに容赦無くウェルド様の手首を捻り上げたクロード様は「は?義理の兄だと?」とピクリと眉を動かしました。あっと、モヤの動きが少し止まったかしら?
そしてクロード様は、じーっとウェルド様の顔面をしかめっ面で睨むように見つめています。その間にもウェルド様の顔色はどんどん悪くなってますが、私からしたらモヤの方が気になるのでそっちは無視することにしました。
「……あぁ、姉上が結婚した男か。チッ!」
そして舌打ちをしてからやっと手を離しましたが……どうやら今までウェルド様だとは認識していなかったようですね。それにしてもクロード様が舌打ちだなんてワイルドなことをするなんて……これがギャップ萌えですか?!
……あれ?じゃあなんであんなに怒っていたのでしょうか?止まったと思ったモヤはまたもや出続けていますし、何が原因なのか逆にわからなくなってきました。ですが、とにかくウェルド様本人に反応しているのは間違い無い様子です。
「あ、あの、クロード様?私にしか見えていないとはいえ、例のモヤが出ています。しかも特大のが!どうか落ち着いてくださ「……リゼル嬢、ケガはしていないか?」え?」
とにかくモヤを抑えなくてはと顔を近付けて小声でそう言うと、クロード様が真剣な眼差しをこちらに向けてそう聞いてきました。
「えーと。あー、はい……たぶん?そんなには」
思わず自分の左手首を見ます。うーん、少し赤くなっているくらいでキズなどはありませんね。ズキズキと痛みはしますが、折れては無いようですし……これくらいなら……。
「だいじょ「重症だな」へ?」
これくらいなら大丈夫。そう言おうと口を開く前に、私の左手首を見たクロード様が重々しく口を開きました。重症って?いえ、少し赤くなってるだけで外傷は別に……。
「今すぐ医者を呼ぼう。とにかく中に戻って応急手当をしないと……あぁもう、こんな薄着で外に出るなんてあなたは正気か?!しかも、こんな男に見られるなんて────────というか、こいつ例の元婚約者じゃないか。姉上の夫でなければあの目玉をほじくりかえしてやるところなのに」
「へ?」
そして私はあっという間にクロード様に抱き上げられてしまい、そのまま塔の中に連れ戻されてしまったのでした。
え、薄着?確かに寝起きのままタチアナたちに愚痴っていましたので寝間着のままではありますが、そこまで薄着ではありませんよ?昨夜は肌寒かったのでお気に入りのモコモコワンピースですもの。肌なんか見えてません。これが薄着?だって、私がクロード様を誘惑しに行くときの、もっとヒラヒラでスケスケなナイトドレスを見せびらかしていたときは能面みたいな顔をして無反応だったじゃないですか?!
というか、なんだか今さっき、ボソッととんでもないことを言っていた気がするのですが……私もパニックになっているのでよくわかりません!
ちなみにウェルド様がものすごい形相でこっちを見ているようですが、私には今の自分の状況の方に精一杯なのでウェルド様に構っている余裕なんかありませんからぁ!
だって……この3年間、公式のパーティーでのエスコートやダンスなどでの義務的な最低限の触れ合いしかしてくれなかったクロード様からの突然のお姫様抱っこですのよ?!
これってなんのご褒美ですか?!




