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ゼフィロス・クロニクル ―二つの運命―  作者: 影山御影


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第1話 選定の剣


 石畳の道を踏みしめるたび、乾いた音が軽やかに響いた。

見上げれば、空を切り取るようにそびえ立つ城壁と塔。

行き交う人の数も、聞こえてくる声の多さも、すべてがこれまでの村とは違っていた。

「すっげぇ……!なあレオン見ろよ、あの塔!めちゃくちゃ高くね!?」

カイルは目を輝かせながら、あちこちを指差しては立ち止まる。

「ちょっと、落ち着いてよ。そんなにキョロキョロしてたら迷子になるよ」

「迷子になるかよ!……たぶん!」

自信満々に言い切ったかと思えば、すぐに屋台の並ぶ通りへ視線を奪われる。

焼き立ての肉の匂いに、思わず足も止まった。

「うわ、いい匂い……王都ってこんなのばっかあるのかよ」

「観光に来たわけじゃないんだけど」

「分かってるって!でもさ――」

カイルはぐっと拳を握りしめ、前を見据える。

「ここで俺、冒険者になるんだよな」

その声には、抑えきれない期待と高揚が滲んでいた。

レオンは少しだけ目を細めて、その横顔を見る。

「……うん。だからまずは準備だね」

視線の先、武具を掲げた看板が目に入る。

「おっ、あれか!?武器屋!」

「そうだと思うよ」

「よし、行こうぜレオン!」

カイルは迷いなく駆け出し、その背をレオンが少し呆れたように追いかけた。

そうして辿り着いたのは、重厚な扉を構えた一軒の武器屋だった。

 

 武器屋に足を踏み入れた瞬間、金属の匂いが鼻をついた。

 壁一面に並べられた剣や槍が、鈍い光を反射している。

「すごいな……全部本物か」

 隣でカイルが目を輝かせる。

 その声に、僕――レオンは小さく頷いた。

 冒険者になる。

 そのために、僕たちはここに来た。

 店主が奥から顔を出し、俺たちを一瞥する。

「見るだけなら自由だ。だが、触るときは覚悟しな」

その言葉に、カイルは一瞬だけきょとんとしたあと、すぐに笑った。

「覚悟って……武器だろ?」

「ただの武器なら、な」

店主はそれ以上何も言わず、奥へと引っ込んでいく。

「なんか意味深だな……」

カイルはそう言いながらも、壁に並ぶ剣へと手を伸ばしかけて――

「ちょっと待って」

思わず、声が出た。

「……ん?」

「いや、なんでもない。ただ……」

言葉にしきれない違和感が、胸の奥に引っかかる。

武器たちが、こちらを“見ている”ような気がした。

「……気のせい、か」

次の瞬間だった。

――カシャン。

 乾いた音が店内に響いた。

 一本の剣が、壁の留め具から外れ、床を滑るように動いたのだ。

 まっすぐに。迷いなく。

「……え?」

 次の瞬間、その剣はカイルの足元で止まった。

 柄の根元に埋め込まれた水晶が、淡い水色に輝いている。

 誰も動かない。

店内の空気が、凍りついたように静まり返った。

カイルも、僕も、ただその剣を見つめている。

――カタン。

奥の方で、何かがぶつかる音がした。

「今の音は……」

重い足音が近づいてくる。

そして――奥の扉が開いた。

「……おい。」

姿を現した店主は、床に落ちた剣と、その前に立つカイルを見て、わずかに目を細めた。

しばしの沈黙。

やがて、低く息を吐く。

「――選ばれたな。」

 それが、アドラバースト剣だった。

 

 カイルは、しばらく無言のまま剣を見つめていた。

「……これ、俺に?」

誰に向けたわけでもない呟き。

けれど、その声はどこか震えていた。

「触るなら覚悟しろ」

店主の低い声が、背後から落ちる。

「その剣は、お前を選んだ。だが――従うとは限らねえ」

カイルは一瞬だけ目を伏せ、そして小さく笑った。

「……上等だよ」

ゆっくりと手を伸ばす。

指先が、柄に触れた――その瞬間。

――ドクン。

心臓の鼓動が、やけに大きく響いた。

水晶が、強く光を放つ。

淡い水色だったそれは、一瞬だけ赤く揺らめき――

風が、吹いた。

店内にいるはずなのに、どこからともなく。

カイルの髪が揺れ、外套がはためく。

「っ……!」

握った瞬間、剣の重みが腕に伝わる。

ただの鉄の塊じゃない。

何かが――“意志”のようなものが、流れ込んでくる。

(……すげえ)

恐怖よりも先に、興奮が勝った。

カイルはゆっくりと剣を持ち上げる。

すると、不思議なことに――

先ほどまで感じていた重さが、嘘のように消えていた。

「軽い……いや、違う」

手に馴染む。

まるで最初から、自分のものだったみたいに。

店主が、低く呟く。

「……完全に“適合”したな」

カイルの目は輝き、剣へと手を伸ばす。

剣を拾い上げたあと、彼は僕の方を見て、どこか気まずそうに笑った。

「……別に気にしなくていいよ。カイルの方が剣の才能あるのは確かだし。それに――僕の背中、守ってくれるんでしょ」

「ああ」

短い返事だったけれど、その声は迷っていなかった。

「じゃあ、僕はその分、全力でサポートするよ」

口にした言葉とは裏腹に、胸の奥がちくりと痛む。

けれど、その痛みを握りつぶすように、僕は目を伏せた。

――剣が選ばなかったのなら、別のやり方で、隣に立てばいい。


武器屋の店主から、それぞれの武器の特徴と注意点を一通り聞き、僕たちは店の外へ出た。

武器屋を出ると、王都の喧騒が一気に押し寄せてきた。

さっきまでの静けさが、嘘みたいだった。

「なあレオン、見たか今の!」

カイルは興奮冷めやらぬ様子で、何度も剣を見下ろしている。

「見てたよ。というか、目の前で起きたし」

「だよな!?勝手に動いてさ、俺のとこ来てさ!」

「うん、ちゃんと見てた」

「これ、マジでアドラバーストなんだよな……」

カイルは少しだけ声を落とし、剣の水晶に視線を落とす。

まだ、淡く光っているような気がした。

「……すごいよ、カイル」

自然と、言葉が出た。

「え?」

「選ばれるなんて、簡単なことじゃない」

「……そう、なのか?」

「うん。たぶんね」

カイルは少しだけ黙り込んで、そして――

「……へへ」

照れくさそうに笑った。

「じゃあさ」

ぐっと剣を握り直す。

「俺が前に出るから、お前は後ろ頼むな!」

「……もう決まってるんだ」

「当たり前だろ」

即答だった。

「レオンがいないと、意味ねえし」

一瞬、言葉に詰まる。

けれど――

「……そっか」

それ以上は、何も言えなかった。

王都の大通りを抜けた先、ひときわ大きな建物が見えてくる。

「あれが……冒険者ギルド」

「よし、行こうぜ!」

カイルは迷いなく歩き出す。

その背を見つめながら、僕は小さく息を吐いた。

(……隣に立てるように)

一歩、踏み出す。

 

 こうして、カイルはアドラバーストを持つ者となり、

 僕は、その隣に立つことになった。

 だが――

 冒険者ギルドで告げられた現実は、予想よりも厳しかった。

「二人? 無理だな」

 受付の女性は即答した。

「パーティを組むなら、最低四人。規則だから」

「……四人」

思っていたよりも、遠い条件だった。

カイルは少しだけ驚いた顔をしたあと、すぐに笑う。

「じゃあ、あと二人探せばいいってことだろ?」

「……簡単に言うね」

「だって、ここ王都だぞ?強いやつなんていくらでもいるだろ」

その言葉に、僕は小さく息を吐いた。

(確かに――いるはずだ)

けれど同時に、思う。

(そんな都合よく、僕たちと組んでくれる人がいるのか?)

不安は消えない。

それでも――

「……やるしかないね」

カイルが頷く。

「ああ。探そうぜ」

王都の喧騒の中へ、僕たちは再び足を踏み出した。

まだ見ぬ仲間を探すために。

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