19 怪我とお風呂と魔法少女
温泉に浸かりながら、ツミキちゃんはいろんなことを教えてくれた。
「ティコの湯は全国にあるっていうのは知ってるよねっ!!入口で鍵を使えばね、魔力を戻してくれる温泉に入れるんだ☆☆
これは他のとこも一緒なの!!!」
「なるほど…じゃあ鍵を使わなければ普通の温泉にも入れるんですね」
「そう☆☆
でもね、ふつーの温泉は魔法がかかってないからたぶんスライムの髪の毛は今日の朝みたいにバクハツするかも!!」
そういえばそうだ、朝シャワーを浴びた時は水分を含んだ髪の毛がもこもこと膨張した。でも今は全然、なんともなってない。
「え〜〜、……部屋のお風呂もこのお湯がよかったです…」
むう、とむくれる私を見てツミキちゃんはえへへと笑ったあと少しだけ考え込んだ。
「たしかね〜〜、いくらかお金を払えば…部屋に温泉を引けたような?…引けなかったような……」
「それは…んー…とても高そうです………」
2人でごにょごにょ話し、風呂から上がった。
魔法少女の服に着替えてから瓶の牛乳を買って座敷に座る。
今はあまり人がいない。座敷はガラガラで、奥に座布団を一列に並べてその上で漫画を読んでいる鳥の羽根の生えた魔法少女がいるだけだった。
ツミキちゃんは周りを眺めてから奥にあった、"傷修復"と書かれたついたてを見て、あっ!と声を上げた。
「あのついたての向こう側はね、怪我した魔法少女が入る壺風呂になってるよ☆☆
どれぐらい怪我してるかによるけど〜、ちょっっとした擦り傷とかだったら部屋のベッドで寝たら明日には治ってるの!!
でもそのお風呂なら10分で直るし……」
「ちょ、ちょっと待ってください!部屋にあったあのベッドってそんな効果があったんですか!?」
そういえばメディカル器具のようななにかが周りに付属されていた気がする。
今思えば、昨日が魔法少女も一人暮らしも初日でベッドに横になりながらドキドキで眠れるか不安を感じていたのに5分もしないうちに眠気がきて翌朝まで快眠だった。
「きちんと8時間寝ちゃえば魔力もしっかり戻って小さい傷ならキレイに消えるよん☆
ベッドじゃ治りきらない傷とか早く治したい傷はここで治したり、あとは…、……」
モゴモゴしはじめたツミキちゃんの顔を覗き込むと、怖い話をするときの表情で目を細めて薄く笑っていた。
「今から怖い話しちゃうね…
魔法省の中に保健室というか実験室みたいな部屋があって、培養ポットって言えばいいのかな、縦長の水槽みたいなのにさっきのお湯みたいな緑色のがたっぷり入ってて………」
ごくりと息を呑んで次の言葉を待った。
手にしている牛乳瓶を眺めていたツミキちゃんはゆっくりこちらに目線をやり口を開く。
「その中には体がバラバラになった魔法少女が…」
「わーー!!!」
「ひぃ…っ!」
「わあっ!きっかちゅん☆☆☆」
私の真後ろに悪戯っぽく笑う桔佳がいた。突然の登場と脅かしにびっくりして心臓がばくばくしている。ツミキちゃんも少し驚いたようでツインテールがぴょんと跳ねたあと、ふにゃりと笑って私を抱きしめた。
「は、反則ですよ…、」
「こら、桔佳ったら……ごめんね奏ちゃん」
遅れて来た千尋さんが私の背中を撫でながら桔佳を窘めた。
へへ、ごめんごめんと笑って謝罪する桔佳はあまり申し訳ないと思ってなさそうだった。
「ところで、今のって保健室の話じゃんね?
噂で聞いただけだけど……」
「桔佳も知ってるんですか…?」
「噂で聞いただけだけどね〜
バラバラになった魔法少女………想像しただけで寒気する…」
桔佳が自分の体を抱きしめて両腕をさすると、千尋さんは少しだけ言い淀んだあと小さく頷いて息を呑み言った。
「一度だけ、その水槽に入ったことがあるわね…もう20年近く前のことだけど…」
えっ…と絶句した表情で全員が千尋さんを見た。
「人間なら死んでしまっていたほどの怪我を負ったときに入る場所なのよ、まぁ…今はもうなかなか入ることのない場所じゃないかしら」
そんな怪我を負うほどの死闘、背筋が凍ったあと胸が痛む。空になった牛乳瓶の底をぼんやり見つめて少し握りしめると、そんな顔をしないでと千尋さんは言った。
「ポース・マーザが弾けたのはたった50年前の話でしょう。
みんなが産まれる前、この辺りは本当の地雷原になっていたし、周りの目も厳しかった。
でも、私たち魔法少女がその短い期間でたくさん頑張ったから今ではこんなに発展した街になっているの」
この街にきたときにタクシーの運転手さんが"どれもこれも魔法少女のおかげ"と話していた。
はっとして顔を上げると千尋さんは幸せそうに笑っていた。




