10 そろそろお暇ティータイム
「つるバラが、誰か来るって言ってます」
師弟さんの一人がお給仕する手をぴたりと止めて、入り口の方を見た。
私とツミキちゃんはお互いの顔を見合わせる。
「気ぃついたのは一人かい……。
そもそも、…つるバラの前に高麗芝がずっと教えてくれとった。
まだまだ修行が足りひんな」
しゅんとした師弟さん3人を千尋さんが慰めているのをよそ目に、入り口の方を見ているとスーツ姿の長髪が見えた。
「佐野さん!」
桔佳とツミキちゃんがパタパタと手を振って迎え、それを受けた佐野さんも笑顔でペコリと頭を下げた。
「きょうびは、えらいたくさん人がきよるなぁ…」
みやこさんが長いため息をついて背もたれにもたれた。
師弟さんがお茶を淹れようとするのを佐野さんは静止して、私の前に立った。
ふと顔を見て似た顔を思い出す、まのんさんのこと忘れてた…!!!
「あっ、日比谷のところへ行くのは今はやめた方がいいですよ。
始末書の作成とバグの原因究明を命じられてピリついてましたから」
それよりも、と佐野さんは前置きする。
「荷物が届きました。
今日から住まれるお部屋の鍵も渡したいので一度受付へ来てください」
「わかりました、すぐ行きます。
みやこさん、師弟さん、カモミールティーとっても美味しかったです…!ごちそうさまでした」
私が深々と一礼すると、いえいえ、と師弟さん達は微笑んだ。
「それなら私達もそろそろお暇しましょうか」
千尋さんと桔佳は立ち上がる。ツミキちゃんは私についてきてくれるらしい。
みやこさん達に挨拶をして温室を後にする。
「奏はん、おきばりやす」
柔らかく微笑んで手を小さく振るみやこさんに私はまた深く礼をした。
温室を出ると、少しだけ乾燥した冷たくはない空気が体に抜けていくのを感じる。
私達は魔法省へと向かい歩いた。
「そういえば、佐野さんが言ってたバグってなんの話?」
桔佳に問われた私は事の経緯を説明した。
ほんとうは魔術派をに所属するのを希望していたこと、原因不明のバグにより宇宙派になってしまったこと、その究明はエンジニアの日比谷まのんさんが対応してくれていること…。
一通り説明し終えたあと、それを聞いていた千尋さんはおろおろと不安げな顔をしていた。
「それは…、はやく解明したいわね……。
それこそ、派閥で揉めかねないし…」
「派閥?」
桔佳が千尋さんの隣で頷いて言った。
「流派によって魔法に対する考え方が大きく違うじゃん?そのせいで揉めることが時折あるんだよねぇ。
魔術派なんか特に酷くてさー、正直いって人当たりいいの千尋ぐらいだよ」
「そ、それは言い過ぎじゃないかしら…、
ねぇ佐野さん…?」
千尋さんは桔佳をたしなめつつ、佐野さんに目線をやった。
「あー…魔術派の界隈は魔法を重んじすぎる一面がありますから…。
何と言いますか……過激な方は本当に過激ですよね」
目を逸らしながら言葉を選ぶ佐野さんに、うんうんと皆が頷いている。
千尋さんは大きなため息を吐いて頭を抱えていた。




