EP7『ただ復讐を』
結論から言って、この首都攻略の橋頭保確保作戦は肩透かしに終わった。
戦闘は散発的で小規模で、張り切った僕でさえシミュラクラ1機、歩兵を15人、装甲車を2台、無礼にも地上目標に水平射してきた対空機関砲を一基を確定破壊したにとどまる。
戦術戦略統合AIの目論見では今回の戦域にざっと1個戦車大隊、2個歩兵連隊ほどはいるだろうという計算だったのに、僕らが相手にしたのはそれよりもっと少ない。S-175の推測では1個シミュラクラ小隊に随伴歩兵大隊と防空中隊、そして司令部がせいぜいだろうということだ。捕虜はざっと数えて60人ほど取れたので、これがどういうことなのかというのは誰かさんが聞き出してくれるに違いない。
そういうことだから、僕らは弾と電力を無駄に消耗し、八つの町のうちの一つに揚陸艇〈ヴェパール〉と整備中隊を移して再度補給と休養に入っている。残念なことに首都攻略戦は自由パーシュミリア連邦軍とサンベルナール共和国軍、そしてイベリア連合王国軍を主力とした部隊がすでに編制済みで、自由ニルドリッヒ軍に出番はない。これは政治的な背景もある、とウォルポート連合王国の情報将校は凄まじい嫌悪感を剥き出しにした表情で断言していた。そんなこと言っていいのかなと僕はあっさり聞き流してしまったのだけど。
「………マリアネス連合って足並みガタガタなんだね」
部隊で一番細いからと表面張力が生じるほどに盛られたごった煮のスープのようなものをスプーンでつつきながら、僕はぼそりと言った。
メスホールというほど整っている場所ではない。ただの廃墟になったフランチャイズのファミレスの座席で、僕たちの部隊は温かい昼食を取っている。軍と言えばレーションかと思ったのだけれども、あれは他に食うものがない時に食う保存食のようなものなのだとか。というか、そもそもが常食となるように設計されていない代物もあるのだと僕はついさっき知った。
「連合っては言うけど、数十年前は企業連合体から始まってそっから国家体制に移行した連中だからなぁ。利権やメンツに限ったらこの星で帝国と肩を並べるぜ」
答えたのは、対面で二人分の席を使ってテーブルに軍靴を乗っけて具がたっぷりのスープを食べているメアリー・ラッセルズ少尉だ。
「義務教育で習うことだがよ、あいつらはもともとこの星の土地を買い取って入植した企業系開拓団が元だ。シュリーフェンはその対極っつーか、そもテラフォーム事業を起こしたのがシュリーフェンだから、もともとはご同類だな」
「じゃあ、パーシュミリアとニルドリッヒは?」
「オレたちのご先祖さまとここらの奴らは移民船団出だ。開拓しただけ土地が貰えるが、開拓用の機材や入植費用のローンがたんまり。だから独立するまではシュリーフェン帝国の領地だったんだが、そのローンも払い終えたしな」
「へぇ……」
「これも義務教育で習うんだけどよ、オメーはそういうのねえもんなぁ」
「あ、すいません」
「別に皮肉ってるわけじゃねえよ。オレらはそういうのもあって戦うけどよ、オメーはそういうのねえのに戦うんだなって思っただけさ」
からん、と空になった食器に先割れスプーンを放り投げ、メアリーは机に足を乗っけて珍しく神妙な顔つきで言う。
「オレたちは祖国のために、国土のために戦ってる。オメーは、なんのために戦ってんだ?」
―――――
復讐、ただそれだけだ。
僕はそう答えた。メアリーはきょとんとした顔をしてから、不敵な笑みを浮かべながら小さくこう言っただけだった。
「若いねぇ」
なにが若いんだろうかと、その後に僕はずっともやもやしながら誰もいない町をとぼとぼと歩いていた。
僕が戦う理由は、本筋的には復讐だ。僕をこんな目に合わせて、僕たちをこんな目に合わせて、貴族然として名誉だの義務だのなんだのとのたまっている連中が許せない。
ただ、それだけのはずだ。それだけで十分なはずだ。憎しみがあれば、憎悪すれば、人を殺すのにそれ以上のなにかが必要なのだろうか。それだけで、人は人を殺せるものではないのか。
人として殺されるのではなく、ただの物として殺されることにたいしての憎しみ、憎悪、憤怒。腸が煮えくり返り、血管が沸騰し、脳が膨張する。その行き先は、ぶつけ先は、帝国人以外にありえない。
「それ以外に、何があるっていうんだ」
ぽつねんと呟きながら、僕は雲と青が半々の何とも言えない空を見上げる。
僕が戦う理由は、僕が生きる理由と同義だ。僕は戦うために目覚めさせられ、復讐するために戦った。戦う義理はないが、戦う理由ならあるのだ。それが生きる理由でもある。
それ以上の望みがないと言えば噓になる。僕はS-175が好きだ、大好きだ、愛している。彼と共に死ぬまで一緒にいたい。それが叶うのは戦場だけなのだから、僕には戦う以外の生き方がない。
だから、僕にはそれ以上もそれ以外もない。S-175といたいからシミュラクラに乗り、帝国に復讐をしたいからシミュラクラに乗る。そこに躊躇いも迷いもない。
僕は、何十人の屍の上に立つ、人間もどきの少女もどき。
そのもどきがなにをできるか、なにをしでかすか、たっぷりと帝国の野郎共に教えてやりたい。
僕はなにも期待していない。ただ、帝国に敵対するという行為が、僕を満たしてくれるのだ。
太陽を雲が隠し、びゅうっと風が吹く。
その風は埃と汚水と油と、火薬の匂いがした。




