EP8『狂気の発露』
それは突然で、余波こそ大きいが一瞬の出来事であった。
いくつもの光芒が太陽の光と同化する。
その光がなんなのかという答えを得られる人は、幸いである。
そうでないものは、すでにこの世から消えてしまったからだ。
自由パーシュミリア連邦軍とサンベルナール共和国軍、そしてイベリア連合王国軍がパーシュミリア首都ビュークの制圧を終えた直後、首都環状線上でTNT換算で一〇〇キロトンの爆発が、複数発生した。
凄まじい光の暴風が一帯を真っ白に染め上げた。発生した熱波によって後、柱状の煙と環状の煙が合わさった禍々しいキノコ雲が立ち昇った。無形の衝撃波があらゆるものを吹き飛ばし、なぎ倒し、破壊し、無に帰す。
二度の首都攻防戦の傷跡が残るビル群は強烈な熱によって燃え出したかと思えば、続けてやって来た衝撃波によってその火とガラスのありったけを周囲にまき散らした。全身に渡る熱傷に藻掻く人々の上にそれは降り注ぐ。
首都ビュークが砂煙の雲の中、巨大な爆煙の柱に囲まれる情景は、狂気を現実に落とし込んだようなものだった。
その狂気の情景はパーシュミリア解放作戦に参加する将兵ならば、どこからでも見ることができた。無視することは不可能だった。それはあまりに巨大な狂気だった。
錯綜する情報をウォルポート連合王国の参謀たちが整理し終わった時には、狂気の犠牲もまたあまりに巨大なものとなることが分かった。無言の中で、ただ一人の呟きがやけに大きく響いた。
「………化物め」
参加兵力、自由パーシュミリア連邦軍とサンベルナール共和国軍、そしてイベリア連合王国軍の混成連合軍二万五千人の全滅。
首都ビュークに留まるパーシュミリア市民及び現地抵抗組織の全滅。今後二週間以内に確実に死亡する者を含めた推定死者数は、軍民合わせて最低三十五万、最大で四十二万人。
《《当然だ》》、という声がある。
一〇〇キロトンの戦術核兵器、あるいは代替戦術兵器が生み出した火球は、半径五〇〇メートル内のものを瞬時に蒸発させ、半径一キロの近代的建造物の尽くを破壊する。生存確率はゼロと言っていい。
その戦術兵器が首都環状線上で合計七発、起爆した。首都を取り囲む円に沿って、爆心地のマーカーと暫定的な放射線及び圧力及び熱線での色分けされた被害半径を参謀たちはマークしていった。その結果が、最大四十二万人だ。
何が起きた、と誰もが思った。簡単だ、戦術兵器による攻撃だ。
何故こうなった、と誰もが思った。答えはない。答えようがない。
いかに訓練されていても、どれだけ想定シナリオを実践したとしても、それ以上の狂気が存在すると仮定したとしても、この狂気には敵わない。
―――この光芒の中で、四十万以上の人々が無差別に死に、死んでいくのだ。




