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この世界 3

 ◇


 その日は朝日と共にやってきた。


「えー、ではこれより、ヴェンス村衛士隊採用選考会を実施する。まず始めは徒手格闘形式の模擬試合から行う。なお試験の評価に関しては各自説明を受けたと思うが、ここまでで質問のある者は?」


 壇上に上がったミールス騎士団団長パトリック・シュトラウスの手短な開会宣言が始まり、選考会参加者たちは緊張した面持ちで整列していた。

 この場に立つ者たちにとって、今日という日が特別な日になることは間違いなかった。

 それもそのはずで、今日は衛士隊選考会の日であるからだ。


 多数の者が神妙な面持ちで整列している。

 その中には当然大和の姿もあった。

 彼は彼なりに緊張しているのか、強張った表情を浮かべており、チラチラと周りの様子を確かめるように視線を泳がしている。


 ここに集まった参加者たちはいずれも、このヴェンス村の住人で、大和と面識のある者も少なくはない。

 その中でも現役騎士団員で騎士団幹部の倅であるリハルド・サラミスは今回の選考会でも注目の有望株だった。

 年齢18歳にして、身長193センチ体重101キロという恵まれた体格を持ち、鍛冶師の見習いとして働く傍ら、父親の仕込みもあってか現役騎士をも凌ぐ剣術を持つという。


 しかしなぜその様な人材がボランティアである衛士隊に応募しているか、という疑問が残るがこれは彼の為人が原因だった。


 聞けばリハルドは昔からやんちゃ坊主だったという。

 その恵まれた体格から、気に食わないことは力で解決するようになり、彼が物心つく頃には村の完全なごろつきとして認知されるようになっていた。

 そんな素行不良な息子を何とか更生させたいと考えた父親は息子を騎士団に入団させるべく、彼に剣術を教え、少しでも騎士となれる可能性をあげるようあの手この手を駆使したのだったが、いずれの採用試験であっても能力以前の問題に彼の素行が仇となり、全て不合格となってしまっていたのだ。

 そんな息子が挽回できる機会として、おあつらえ向きだったのがこの衛士隊増員の件だった。

 衛士隊ならば、騎士団のような厳格な試験があるでもなく、その採用基準は比較的軽いものだったので、戦闘能力に秀でたリハルドなら確実に合格できると考えた次第だった。

 また衛士隊で一定の功績が認められれば、試験を経ることなく騎士となることが出来るため、父親にとってもリハルドにとっても絶好のチャンスと言えた。

 恐らくはこの選考会に参加している者の大半は騎士を志望してのことだったのだろうが、リハルドのような大男をライバルとして扱わなければならない周りの者たちは、半ば諦めにも似た感情を持っていた。


 その他の参加者に関しては石工の倅だとか、狩人だとか、パン職人だとか様々な背景を持った者たちだったが、やはりリハルド以外には有望な者はいないと言えた。


「質問はない様子だな。では早速だが、試験を開始する。まず最初の組み合わせは石工のライアンとリハルド・サラミスからである。各自、準備せよ。」


 その名を呼ばれたリハルドは両手の拳を突き合わせると、自信ありげな顔で言う。


「おしっ! やっと始まりやがったな! とっとと終わらせてやるぜ!」


 そんな彼は笑いながら、試験場となっている騎士団練兵場の中央まで進んでいく。

 するとそこには、さながらボクシングリングの簡易版といった場が設けられており、その周囲にはしっかり観戦席が用意されている。


 観戦席の前方中央には既に騎士団幹部たちが座しており、その中にはシュトラウスの他、明らかにリハルドの父親と見られる幹部団員がソワソワしながら、リハルドを見詰めていた。


「父上! 今日こそは親孝行させてもらうぜ!」


 リハルドは父親にそう言うと、颯爽とリング上に上がっていく。


 一方、リハルドの対戦相手となる石工のライアンは初戦の相手があの狂犬と有名なリハルドだとは想定していなかったらしく、泣きそうな顔でリング前で立ち止まっていた。


「石工のライアン、速やかにリングへ上がれ。」


 試験監督官の騎士団員がライアンにそう言う。

 しかしライアンは膝をガタガタと震わすだけだ。


「だ、だって相手は、あの狂犬だぞ...俺なんか敵いっこない...」


「ライアン、再度警告する。リングに上がれ。さもなくば―」


「試験官、そいつはもう無理だぜ。―おい、そこのヘタレ、これ以上俺を待たせるな。やるかやらないか、どっちなんだよっ!?」


 試験官の言葉を遮り、リハルドはライアンに凄んだ。

 彼の顔は先程までの穏やかな表情ではなく、凶悪な雰囲気を帯びていた。


「ひいっ!」


 情けなくも、ライアンはリハルドの凄みに耐えきれず、慌ててその場から駆け出した。

 向かっていった先は当然、練兵場の出口だった。


「おいライアン!? 試験はまだ終わってないぞ!」


 試験官は走り去るライアンの背中に対し言うが、時すでに遅し。

 彼は脚力はなかなかあるらしく、既に練兵場を出ようかというところだった。


「まあ良い。このぐらいの圧力に耐えれん者など、鼻から衛士たる資格などない。試験官そのまま続けよ」


 そう言ったのはシュトラウスだ。

 彼は渋い表情を浮かべ、練兵場の出口を見詰めている。


「承知致しました。―それではただ今の試験は石工のライアン、試験辞退に伴いリハルド・サラミスの不戦勝とする。」


 試験官が声を張り、そう告げるとリハルドは不敵な笑みを浮かべながら、リングから降りていく。


 初戦からの波乱の幕開けで、選考会場は一気に騒がしくなった。






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