25 さよならのあと (END)
長袖のシャツに長ズボン、ブーツという恰好に、愛用の革製リュックを背負う。
長い黒髪を結い上げ、つばの広い帽子を被った恰好で、リトは山の頂上付近に来ていた。
天然の魔動石を拾い麻袋いっぱいに詰め、口を縛る。
肩口に背負い、山を下る。
トーカの好物である薄紫の実を収穫しつつ。
今日はこれをつかってパイでも焼こう。
とりあえず帰ったら昼食作りだ。
途中湧水を汲み、薬草を摘み、シーツを回収して家に戻る。
結構な大荷物。
いつものことだ。
これでいい。
猛反対する家族をどうにか説得して、取り戻した平穏な日々。
会いたい、だなんて思ってはいけない。
だって自分で選んだのだから。
「あれ、」
結界が切れてる?
出掛け前に一応かけたはずの結界が、解除されている。
「って、何でいるの!?」
しかも勢ぞろい。
そして何故ティーセットが出ているのか。
「さすがリトの張った結界だね。疲れたよ」
ヴァン……。
いや確かに解けそうなのはヴァンくらいだけど。
「そろそろ寂しがっているんじゃないかと思ってな」
ナルシー、髪の毛掻きあげないで。
笑いが止まらなくなるから。
「リト、お菓子ないの?」
「……食料庫に昨日作ったパルミエがあるわ」
ヴィーレ、相変わらずの甘党ね。
「あ、そろそろ昼食ですね。手伝います」
食べること前提で話してるし。
まぁ手伝ってもらうけど。
大きな寸胴でパスタを茹でる。
別鍋に作り置きのトマトソースを煮立て、具材を投入。
あとは茹で上ったパスタと和えるだけ。
ガラス容器に入ったフレーバーウォーターと、トーストとサラダと用意して完了。
他のものはさすがに材料不足で作れない。
「で? 何でいるの?」
「貴方が城に来れないのなら、会いに行きたいと王子たちが。私はお目付け役ですね」
「…………」
「来るなとは言われてません」
確かに。
リゲルは城へ行くなとは言ったが、王子たちが来てはいけないとは言わなかった。
だがそれは単なる屁理屈ではないだろうか。
「いいじゃないですか。貴方に会えないと私も寂しい」
面と向って言われると照れる。
「僕も寂しいよ」
便乗して王子たちも口々に寂しいと訴える。
「私も……寂しかった」
だからつい、リトも本音を漏らす。
「来てくれて、嬉しい」
穏やかに嬉しそうに微笑むリトを見て、彼らの心情は一致。
しかしリトはひとりしかいないわけで。
すでにこの中のひとりがリトの心を掴んでいるわけだが、知る由もなく。
これから繰り広げられる日々に、平穏が取り戻せていないとリトが気付くのはそう遅くない未来の話。