第4章 メディアミックスとIPは同じなのか?
ここまで考えてきて、ようやく引っかかっていたものが少し見えてきた。
昔から作品を映画にしたり、漫画にしたり、玩具を出したりしていた。だから「複数の媒体に展開する」という点だけを見れば、今のIPビジネスと昔のメディアミックスにそれほど大きな違いはない。
それでも、どうも同じものには思えない。
たぶん違うのは、何を中心に考えているかなんだと思う。
メディアミックスという言葉から俺が思い浮かべるのは、まず作品がある。その作品を漫画にしたり、アニメにしたり、映画にしたり、音楽やゲームに広げたりする。
つまり、ひとつの作品をどう広げるかという話だ。
一方、最近よく聞く「IPを育てる」という言い方は、少し違う。
そこでは一つ一つの作品よりも、その作品名やキャラクター、世界観、ブランドそのものが中心に置かれているように見える。
映画を作るのも、ゲームを出すのも、玩具を売るのも、そのIPを長く生かしていくための手段のひとつになる。
そう考えると、主語が変わっている。
昔なら「この作品を映画化する」「この作品をゲームにする」と言っていたものが、今では「このIPをどう展開するか」「このIPの価値をどう高めるか」という話になる。
やっていることは似ている。でも、見ている時間の長さが違う。
ひとつの作品がヒットしたから次の商品を作る、というだけではなく、十年後、二十年後にも使えるものとして残していく。
もちろん昔の人たちだって、長く売れることを考えていなかったわけではないだろう。むしろ仮面ライダーやウルトラマン、ガンダムなんかを見れば、結果として何十年も続く仕組みを作っている。
ただ、今はそれを最初から経営の言葉として扱っている。
「作品を作る」のではなく、「IPを育てる」。
この言い方を初めて意識したとき、少し変な感じがした。
作品は普通、作って、発表して、終わるものだと思っていた。
もちろん続編ができたり、シリーズ化したりすることはある。でも、その作品そのものを何十年も使い続ける前提で「育てる」と言われると、急に生き物か資産のように見えてくる。
実際、企業からすればその両方なのかもしれない。
人気が落ちればテコ入れする。しばらく休ませる。別の形で復活させる。若い世代に向けて新しい入口を作る。昔からのファン向けの商品も出す。
ひとつの作品を売るというより、長い時間をかけて名前そのものの価値を維持する。
そう考えると、さっきのパトレイバーも少し違って見えてくる。
新作が作られていない時期が長くあっても、「パトレイバー」という名前と世界が完全に消えたわけではなかった。だから何十年後でも、もう一度そこから作品を作れる。
ここでようやく、メディアミックスとIPの違いが自分なりに整理できた。
メディアミックスは、作品をどう広げるか。
IPは、その作品を生み出せる“何か”を、どう長く残すか。
もちろん実際にはもっと複雑だろうし、両者がきれいに分かれているわけでもない。
それでも、このくらいに考えると、最近なぜ「シリーズ」より「IP」という言葉をよく聞くようになったのか、少し分かる気がする。
そして、この話を考えるとき、たぶん一番分かりやすい例がある。
ガンダムだ。
あれはもう、「ひとつの作品のシリーズ」というだけでは説明しにくいところまで来ている。




