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第9話「広がる距離と、忍び寄る影」


デートの日から、数日。



「ごめん、今日も無理そう」


スマホの画面に表示されたメッセージ。



送信者は――桜井桃華。



【桃華】

「撮影押してる。終わるの夜中になる」



【颯太】

「そっか、お疲れ様」



【桃華】

「ほんとごめんね」



画面を見つめながら、小さく息を吐く。



(仕方ない)



分かっている。


彼女の仕事が忙しいことも。

簡単に時間が作れないことも。



それでも――



(ちょっと、寂しいな)



そう思ってしまうのは、止められなかった。



数日後・大学


講義終わり。


廊下を歩いていると――



「水上くん、だよね?」



聞き慣れない女性の声。



振り向くと、そこにいたのは――


落ち着いた雰囲気の女性。



「えっと……」



「初めまして」


軽く頭を下げる。



「岸田ほのかって言います」



その名前に、一瞬で気づいた。



(マネージャー……)



以前、現場で見かけたことがある。


桃華のすぐ近くにいた人。



「少し、いいかな?」



その目は、柔らかいけど――


どこか鋭かった。



カフェ


大学近くのカフェ。


向かいに座る、岸田ほのか。



「単刀直入に聞くね」



コーヒーを一口飲んでから、彼女は言った。



「桃華と、どういう関係?」



心臓が、一瞬止まる。



(バレてる……?)



でも――



「大学の知り合いです」



そう答えるしかない。



数秒の沈黙。



「……そっか」



岸田は、じっとこちらを見る。



「現場、来てたよね?」



「……はい」



「普通のファンじゃ、あそこまで入れない」



図星だった。



「桃華が許したんでしょ?」



何も言えない。



すると彼女は、ふっと小さく笑った。



「安心して」



「怒ってるわけじゃない」



少しだけ、空気が緩む。



「ただね」



カップを置いて、真っ直ぐこちらを見る。



「桃華のこと、ちゃんと分かってる?」



その問いは、重かった。



「仕事も、立場も」



「……はい」



「それでも関わるって、どういう意味か」



言葉に詰まる。



でも――



「好きだからです」



はっきり言った。



岸田は、一瞬だけ目を細めた。



「……やっぱりね」



そして、小さく息を吐く。



「桃華、変わったと思った」



「え?」



「最近、少しだけ柔らかくなった」



その言葉に、胸がざわつく。



「あなたの影響かもね」



少しだけ、優しい声だった。



「でも」



空気が変わる。



「中途半端な覚悟なら、やめて」



その目は、本気だった。



「この世界、そんなに甘くないから」



その言葉が、深く刺さる。



「……分かってます」



「本当に?」



「はい」



短い沈黙。



そして――



「ならいい」



岸田は、少しだけ微笑んだ。



「桃華、よろしくね」



そう言って立ち上がる。



残された僕は、しばらく動けなかった。



その日の夕方


大学の中庭。



「颯太!」



明るい声。



振り向くと――



「やっと見つけた〜」



そこにいたのは、見知らぬ女性。


でも、どこか桃華に似た雰囲気。



「えっと……」



「私、春日千香」



笑顔で名乗る。



「桃華の幼馴染」



心臓が跳ねる。



「……え?」



「小学校からずーっと一緒」



「高校も大学も同じ」



つまり――



(めちゃくちゃ近い存在)



「ちょっといい?」



有無を言わさない感じで、腕を引かれる。



ベンチ


二人で座る。



「でさ」



千香が、ぐっと顔を近づける。



「颯太くん、だよね?」



「……はい」



「桃華と仲いいでしょ?」



核心に迫る質問。



「普通に友達です」



そう答えると――



「ふーん」



じっと見つめられる。



「嘘っぽい」



即バレだった。



「桃華ね」



少しだけ、真剣な顔になる。



「最近、すごく変わったの」



「え……」



「前より、楽しそう」



その言葉に、胸がざわつく。



「でね」



さらに顔を近づける。



「原因、あなただと思ってる」



逃げ場がない。



「別にいいんだけどさ」



少しだけ笑う。



「変なことしたら、許さないからね?」



その一言は、冗談じゃなかった。



「……はい」



思わず背筋が伸びる。



「でも」



千香は、少しだけ優しく笑った。



「桃華を笑わせてくれるなら、歓迎」



その言葉に、少しだけ救われる。



「ありがと」



「まだ認めてないけどね?」



そう言って立ち上がる。



「じゃ、またね」



軽く手を振って去っていく。



一人、残される。



(マネージャーに、幼馴染……)



一気に、“現実”が押し寄せてきた。



ただ好きなだけじゃ、いられない。



守るべきものが、増えていく。



そして――



夜。



【桃華】

「今日、ほのかさんと千香に会ったでしょ?」



スマホの画面を見て、固まる。



(全部、繋がってる)



【颯太】

「うん」



数秒後。



【桃華】

「ごめんね」



その一言に、胸が締め付けられる。



でも――



【颯太】

「大丈夫」



【颯太】

「全部含めて、桃華だから」



送信。



既読。



そして――



【桃華】

「……ほんと、ずるいよ」



その言葉の意味は、分からなかった。



でも――



確実に、何かが動き始めていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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