第66話 「再び動き出す“斉藤もも”と、外の世界」
朝・もう一つの顔の準備
「今日、撮影だよね」
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水上颯太がコーヒーを飲みながら言う。
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桜井桃華は軽く頷く。
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「うん、久しぶりに“しっかりした現場”」
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その言葉の意味は分かっている。
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“桜井桃華”ではなく――
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“斉藤もも”としての仕事。
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切り替え
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鏡の前。
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眼鏡を外す。
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髪を整える。
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表情が少し変わる。
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完全に別人ではない。
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でも、“見せる顔”に近づいていく。
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(久しぶりだな)
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桃華は心の中で呟く。
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出発前
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「いってきます」
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子どもたちに向けた声は、いつも通りの“母”。
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「いってらっしゃい!」
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三人の声。
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その背中を見てから――
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桃華は玄関を出る。
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現場・空気の違い
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スタジオ。
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「斉藤ももさん、おはようございます」
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スタッフの声。
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その呼び方。
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一瞬で切り替わる。
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「おはようございます」
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柔らかい笑顔。
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でも、そこには“仕事の顔”がある。
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再評価
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マネージャーの岸田ほのかが近づく。
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「復帰後、かなり注目されています」
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「今日の現場も期待値高いです」
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桃華は短く答える。
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「やることは変わりません」
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カメラの前
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撮影開始。
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ライト。
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カメラ。
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スタッフの視線。
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その中心に立つ。
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“斉藤もも”。
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迷いはない。
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ブランクを感じさせない動き。
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(やっぱり……戻ってきた)
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一方・颯太
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大学の帰り道。
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スマホに通知。
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ネットニュース。
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「人気女優・斉藤もも 本格復帰」
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思わず立ち止まる。
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(やっぱり来たな)
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外の世界の反応
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SNSでは話題。
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コメント、拡散、評価。
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“斉藤もも”という存在が、
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再び広がっていく。
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夜・帰宅
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「ただいま」
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玄関の声は、いつもの桃華。
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颯太が振り向く。
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「おかえり」
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一瞬だけ見つめ合う。
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そこにあるのは、
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“どちらでもない彼女”。
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確認
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「どうだった?」
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桃華は少しだけ笑う。
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「ちゃんとやれた」
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短い答え。
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でも、それで十分だった。
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締め
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家族の中の“桜井桃華”。
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外の世界の“斉藤もも”。
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二つは分かれているようで、
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確かに繋がっている。
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桃華が小さく言う。
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「また忙しくなるかも」
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颯太は頷く。
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「その分、ちゃんと戻ってこいよ」
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桃華は微笑む。
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「当たり前でしょ」
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