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閑話⑨(後編) 「“本気”の意味と、二人だけの答え」


夜・扉の向こう側


静かな廊下。



寝息は三つ、確かにある。



その先――



リビングの灯りが、少しだけ落ちている。




桃華は立ち止まる。



深く息を吸う。




「……行くよ」



小さく、自分に言い聞かせるように。




“切り替え”ではない



部屋に入る。



颯太は何も言わない。



ただ、見ている。




桃華は一歩、前に出る。




その瞬間――



空気が変わる。




“斉藤もも”の気配。



でも、それは完全な演技ではない。




“桜井桃華”が選んだ在り方。




向き合う距離



「……どう?」




桃華が静かに問いかける。




颯太はすぐには答えない。




その代わりに、ゆっくり近づく。




「ちゃんと来てるな」




その一言は、評価ではなく“確認”だった。




本気の意味



桃華は目を逸らさない。




「これが私の“本気”」




「隠さないし、ごまかさない」




「全部、見せる」




その言葉は、強くもあり、少しだけ怖さも含んでいた。




受け止める側



颯太は、そのまま距離を詰める。




逃げない。




目を逸らさない。




「……ちゃんと見てる」




それだけで十分だった。




重なる瞬間



触れる距離。




自然に手が重なる。




そして、静かに唇が触れる。




長くはない。



でも、浅くもない。




“確かめる”キス。




桃華は目を閉じる。




(ちゃんと、伝わってる)




言葉の代わり



離れたあと。




どちらもすぐに言葉を出さない。




必要がないから。




空気で分かる。




“見せた”



“受け取った”




それだけで成立している。




小さな変化



桃華がふっと笑う。




「思ったより、怖くなかった」




颯太も少し笑う。




「思ったより、普通だったな」




境界の消え方



桃華はソファに座る。




「さっきまでさ」




「分けなきゃって思ってた」




「仕事と、私生活」




颯太は隣に座る。




「今は?」




桃華は少し考えてから言う。




「分ける必要、なかったかも」




二人だけの答え



颯太は頷く。




「混ざっても壊れないなら、それでいい」




桃華は静かに笑う。




「それが、この家のやり方だね」




締め



夜は深くなる。




三つの寝息。



変わらない日常。




でも、その中心にある“二人の理解”は、



また一つ深くなった。




桃華が小さく言う。




「これが“本気”なら」




颯太は答える。




「ちゃんと受け取った」




それ以上の言葉は、必要なかった。


⸻  


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