第52話「保育開始と、“初めての離れる時間”」
朝・いつもと違う準備
「……なんか緊張するな」
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水上颯太は、小さなリュックを並べながら呟いた。
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颯、桜、桃佳。
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三つ子それぞれに用意された持ち物。
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名前のタグ。
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着替え。
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「準備は完璧なのにね」
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桜井桃華が苦笑する。
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颯太は頷く。
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「準備と気持ちは別だな」
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初めての登園
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保育園の門の前。
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昨日よりも現実感がある。
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桃華は少ししゃがみ、三人に目線を合わせる。
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「いってらっしゃい」
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颯はじっと見返す。
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桜は少しだけ不安そう。
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桃佳は笑っている。
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先生が優しく抱き上げる。
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その瞬間――
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桃華の指先がわずかに止まる。
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“離れる”という感覚
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園の扉が閉まる。
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静かになる。
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「……行ったな」
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颯太が小さく言う。
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桃華はすぐに答えられない。
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「うん……」
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空白の時間
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帰り道。
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二人だけの時間。
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久しぶりの“子どもがいない空間”。
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桃華がぽつりと言う。
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「変な感じ」
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颯太は苦笑する。
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「静かすぎるな」
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午前・それぞれの時間
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桃華は家で資料を広げる。
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仕事の確認。
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颯太は大学へ向かう。
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講義のノート。
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“個人の時間”が戻ってきた。
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でも消えない感覚
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桃華はふと手を止める。
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(今、何してるかな)
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颯太も講義中にふと考える。
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(泣いてないか)
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完全には切り離せない。
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お迎えの時間
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夕方。
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保育園の前。
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桃華と颯太は少し早めに着いていた。
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扉が開く。
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颯が最初に気づく。
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桜が少し遅れて反応。
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桃佳は笑顔で手を伸ばす。
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「……普通にしてるな」
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颯太が呟く。
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桃華は少し安心したように笑う。
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「思ってたより大丈夫そう」
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小さな報告
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先生が言う。
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「今日はよく頑張ってくれましたよ」
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「少しだけ泣きましたけど、すぐ慣れました」
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桃華は深く頷く。
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「ありがとうございます」
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夜・戻る日常
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家に帰る。
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いつものリビング。
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でもどこか少しだけ違う。
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“外の時間”を持った子どもたち。
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桃華がぽつりと言う。
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「今日、初めて外で過ごしたんだよね」
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颯太は頷く。
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「俺たちがいない場所でな」
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“親の変化”
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桃華は静かに言う。
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「なんかさ」
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「ちょっと寂しいけど」
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「ちょっと誇らしい」
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颯太は少し笑う。
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「それが親だろ」
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夜の締め
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三つ子はすぐに眠りにつく。
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疲れていたのか、深い眠り。
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桃華はその寝顔を見る。
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「ちゃんと進んでるね」
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颯太は頷く。
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「止まってない」
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小さな確信
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この家はもう、
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“閉じた世界”ではない。
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外とつながりながら、
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それでも崩れない場所になっている。
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