第51話「子どもの社会性と、“初めての外の壁”」
朝・少し違う空気
「……そろそろだな」
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水上颯太は、三つ子を見ながら呟いた。
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颯、桜、桃佳。
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日常は安定している。
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だが“安定=停滞”ではないことも、もう分かっていた。
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「保育園、見学行く日だね」
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桜井桃華がスケジュール帳を見ながら言う。
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颯太は頷く。
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「外に出る第一段階か」
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午前・保育園見学
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施設の前。
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小さな子どもたちの声が響いている。
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門の前で、颯太は一度立ち止まる。
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「ここからだな」
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桃華が横で聞く。
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「何が?」
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颯太は少し笑う。
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「親じゃなくなる瞬間が増えるってこと」
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桃華は首をかしげる。
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「親じゃなくなる?」
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颯太は頷く。
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「守るだけじゃなくて」
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「外の世界に預ける時間が増える」
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“壁”の存在
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園内見学。
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先生の説明を聞く中で、桃華は少しだけ表情が変わる。
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(ここに預ける)
(ここから外の世界が始まる)
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その実感が、ゆっくりと重さを持ち始めていた。
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子どもの反応
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颯は興味深そうに周囲を見ている。
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桜は少し警戒気味。
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桃佳は人見知りせず笑う。
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三者三様。
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「やっぱり分かれるね」
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桃華が小さく言う。
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颯太は頷く。
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「性格そのまま出てるな」
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午後・帰り道
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車の中。
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少し静か。
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桃華がぽつりと言う。
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「なんかさ」
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「手放す感じするね」
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颯太は即答しない。
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少し考えてから言う。
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「手放すんじゃない」
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「広げるだけだろ」
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桃華はその言葉を繰り返す。
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「広げる……」
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阿利佐の視点
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帰宅後、阿利佐が言う。
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「いいじゃない」
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「子どもは外で育つ時間が必要よ」
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桃華は頷く。
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「でも少し怖いです」
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阿利佐は笑う。
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「怖いくらいでちょうどいいのよ」
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夜・変わり始めた感覚
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子どもたちが寝る。
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リビング。
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桃華はソファに座る。
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「ねえ」
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颯太が隣に座る。
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「ん?」
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桃華は少し考える。
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「私たち、また一段階変わるね」
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颯太は頷く。
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「だな」
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桃華は続ける。
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「守るだけじゃなくなる」
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颯太は静かに言う。
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「育てるだけでもなくなる」
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“親の進化”
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桃華は窓の外を見る。
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「なんかさ」
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「親ってずっと変わるんだね」
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颯太は頷く。
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「そりゃそうだろ」
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「子どもが変わるんだから」
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桃華は少し笑う。
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「それもそうか」
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夜の締め
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静かな家。
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でも中身は確実に変化している。
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“守る世界”から
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“外へ出す世界”へ。
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桃華が小さく言う。
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「じゃあ次は本番だね」
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颯太は頷く。
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「ここからが親だろ」
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