閑話⑧(後編)「 “ 斉藤もも ” 新作DVDを鑑賞 ⑵ 」
夜・テレビを消したあと
部屋に静けさが戻る。
⸻
さっきまで映っていた“斉藤もも”の気配だけが、まだ空気の端に残っているようだった。
⸻
桃華はソファに背を預ける。
⸻
「……変な感じ」
⸻
⸻
颯太は隣で軽く肩をすくめる。
⸻
「何が」
⸻
⸻
桃華は少し間を置いて言う。
⸻
「自分の過去を、今の自分と一緒に見られるって」
⸻
⸻
“切り離せない過去”
⸻
颯太はすぐに否定しない。
⸻
少し考えてから言う。
⸻
「切り離す必要ないだろ」
⸻
⸻
桃華が顔を上げる。
⸻
⸻
「でもさ」
⸻
「普通は隠すとか、忘れるとかするじゃない」
⸻
⸻
颯太は首を振る。
⸻
「普通って何だよ」
⸻
⸻
その一言は軽いけど、核心を突いていた。
⸻
⸻
桃華は少しだけ笑う。
⸻
「確かに」
⸻
⸻
颯太の視点
⸻
颯太は静かに続ける。
⸻
「俺はさ」
⸻
⸻
「“斉藤もも”を見て好きになったわけじゃない」
⸻
⸻
桃華は少し目を細める。
⸻
⸻
「じゃあ何?」
⸻
⸻
颯太は迷わず言う。
⸻
「全部知る前から好きだったし」
⸻
「全部知ったあとでも変わらなかった」
⸻
⸻
その言葉は、淡々としているのに重かった。
⸻
⸻
桃華の沈黙
⸻
桃華はしばらく黙る。
⸻
視線を落とす。
⸻
⸻
「……それ、ずるいね」
⸻
⸻
颯太が聞く。
⸻
「何が?」
⸻
⸻
桃華は少し笑う。
⸻
「逃げ道なくなるじゃん」
⸻
⸻
“理解されること”の重さ
⸻
颯太は少しだけ視線を外す。
⸻
「逃げる必要あるか?」
⸻
⸻
その問いは優しいけど逃げ場がない。
⸻
⸻
桃華は小さく息を吐く。
⸻
「ないけど」
⸻
⸻
「ちょっと怖いよね」
⸻
⸻
颯太は静かに言う。
⸻
「怖くてもいいだろ」
⸻
⸻
「一人じゃないんだから」
⸻
⸻
その言葉で、桃華の肩の力が少し抜ける。
⸻
⸻
“今の自分”の確認
⸻
桃華はぽつりと言う。
⸻
「私さ」
⸻
⸻
「斉藤ももとして見られてるときと」
⸻
「桜井桃華として見られてるときと」
⸻
⸻
「どっちが本当かわからなくなる時ある」
⸻
⸻
颯太は即答しない。
⸻
少しだけ間を置いて言う。
⸻
「どっちもだろ」
⸻
⸻
桃華は顔を上げる。
⸻
⸻
颯太は続ける。
⸻
「でも今は」
⸻
⸻
「桜井桃華の方が中心だろ」
⸻
⸻
桃華はゆっくり頷く。
⸻
⸻
キスの意味
⸻
颯太は軽く桃華の肩に手を置く。
⸻
そしてもう一度だけ、短くキスをする。
⸻
⸻
さっきのような“確認”ではない。
⸻
⸻
少しだけ深い、でも重くないもの。
⸻
⸻
桃華は目を閉じる。
⸻
「……落ち着くね」
⸻
⸻
颯太は小さく笑う。
⸻
「そっちが本体だしな」
⸻
⸻
桃華は吹き出す。
⸻
「言い方」
⸻
⸻
夜の整理
⸻
部屋の空気が完全に落ち着く。
⸻
テレビの残像はもうない。
⸻
⸻
残っているのは、
⸻
過去でもなく、作品でもなく、
⸻
“今の関係”だった。
⸻
⸻
桃華は静かに言う。
⸻
「これでいいんだよね」
⸻
⸻
颯太は頷く。
⸻
「これがいいんだろ」
⸻
⸻
締め
⸻
照明は落ちたまま。
⸻
三つの寝息のある家へ戻る時間。
⸻
⸻
過去は消えない。
⸻
でも今の生活を壊すものでもない。
⸻
⸻
ただ“理解された上で、同居しているだけ”。
⸻
⸻
それがこの家の答えだった。
⸻
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




