第43話「安定した日々と、外から来る小さな波紋」
朝・水上家
「……今日、大学行くんでしょ?」
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水上颯太がミルクを作りながら声をかける。
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桜井桃華は軽く頷く。
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「うん。午前だけ」
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三つ子はまだ寝ている。
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その寝息の中で、日常は静かに回っていた。
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生活の安定
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育児の流れは完全にルーティン化されていた。
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泣く時間も、寝る時間も、少しずつ予測できるようになっている。
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「最初の頃が嘘みたいだな」
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颯太がぽつりと言う。
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桃華は笑う。
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「ほんと、戦場だったよね」
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今は“戦場”ではなく“生活”。
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大学・午後
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キャンパス。
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桃華は久しぶりに校舎を歩く。
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少し視線は集まるが、誰も深くは踏み込まない。
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授業後。
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一人の女性が近づく。
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「桃華!」
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春日千香。
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幼馴染。
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小学校からの付き合い。
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「久しぶり!」
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千香は笑顔で駆け寄る。
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桃華は少しだけ安心した表情を見せる。
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「久しぶり」
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カフェ
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二人で座る。
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千香は嬉しそうに話す。
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「ほんと久しぶりだよね」
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桃華は少し笑う。
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「うん、いろいろあってね」
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千香は首をかしげる。
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「結婚したのは知ってるけどさ」
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少し沈黙。
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「子どもって……本当?」
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桃華はスマホを取り出す。
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写真を見せる。
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三つ子。
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千香の目が見開く。
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「……え?」
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「三人?」
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桃華は小さく頷く。
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「うん」
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千香の混乱
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「え、待って」
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「結婚してすぐでしょ?」
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桃華は少し困ったように笑う。
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「うん、まぁ……色々あって」
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千香は頭を抱える。
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「情報量多すぎるんだけど」
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でも次の瞬間、表情が柔らかくなる。
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「でもさ」
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「幸せそうだね」
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桃華は少し驚く。
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そして小さく笑う。
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「うん」
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外の世界の“普通”
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千香は続ける。
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「大変そうだけどさ」
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「でも、ちゃんと家族してる感じする」
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桃華はその言葉に少し黙る。
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「……そう見える?」
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千香は即答する。
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「うん」
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「昔よりずっといい顔してる」
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桃華は少し目を伏せる。
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帰宅後
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夜。
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水上家。
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「ただいま」
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桃華が帰る。
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颯太が振り向く。
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「おかえり」
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桃華は少し笑う。
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「なんかね」
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「普通っていいね」
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颯太は少し笑う。
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「それ、前も言ってたな」
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桃華は頷く。
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「でも今日、ちょっと実感した」
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小さな波紋
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外の世界は完全に消えていない。
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でも、押し寄せてもいない。
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ただ、静かに存在しているだけ。
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颯太が言う。
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「このくらいならちょうどいいな」
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桃華も頷く。
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「うん」
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三つ子の寝息。
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家族の声。
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そして少しだけ続く“外の気配”。
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でもそれはもう、脅威ではなく――
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“日常の一部”になりつつあった。
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