第38話「復帰初仕事と、止まらない視線」
朝・自宅
「今日から、現場戻ります」
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桜井桃華の声は落ち着いていた。
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でも、少しだけ緊張が混じる。
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颯太はミルクを作りながら頷く。
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「無理はするなよ」
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桃華は小さく笑う。
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「うん。ちゃんと線引きする」
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三つ子はまだ寝ている。
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その静けさが逆に現実感を強くする。
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撮影現場・復帰日
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久しぶりのスタジオ。
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スタッフがざわつく。
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「本物だ……」
「戻ってきたのか」
「やっぱりオーラ違う」
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桃華は軽く頭を下げる。
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「よろしくお願いします」
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空気が一気に仕事モードに切り替わる。
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業界の反応
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控室ではスタッフが小声で話す。
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「出産後すぐ復帰ってすごいな」
「メンタル強い」
「でも話題性えぐい」
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ほのかからメッセージが届く。
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(想定以上に注目されています。慎重に進めます)
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桃華はスマホを見て、小さく頷く。
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現場・撮影前
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監督が声をかける。
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「無理はしないでいいです」
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桃華は一瞬だけ間を置いて答える。
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「大丈夫です」
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でもその目は、以前より静かだった。
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颯太・同時刻
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大学の講義中。
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スマホが震える。
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《現場復帰初日、撮影開始》
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颯太は一瞬だけ画面を見て、すぐ閉じる。
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「……頑張れよ」
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小さく呟く。
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SNSの加熱
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再び拡散。
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* 「復帰早すぎない?」
* 「体調大丈夫?」
* 「でも見たい」
* 「相変わらず美しすぎる」
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コメントが止まらない。
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現場・撮影中
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カメラが回る。
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照明が熱を持つ。
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桃華は役に入り込む。
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でもどこか、以前とは違う。
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「……少し抑えてください」
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監督の声。
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桃華は頷く。
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「はい」
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休憩室
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スタッフがざわつく。
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「やっぱり母親になったからか雰囲気変わったな」
「落ち着いたというか」
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桃華は水を飲む。
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静かに息を吐く。
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(戻ってきた)
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(でも“前と同じ”じゃない)
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夜・帰宅
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家に戻ると、三つの泣き声。
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「はいはい、来た来た」
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颯太がすぐ立つ。
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桃華は玄関で少し笑う。
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「現実だね」
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颯太も笑う。
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「こっちの方が大変だわ」
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静かな会話
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子どもを寝かしつけた後。
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ソファ。
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「どうだった?」
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颯太が聞く。
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桃華は少し考える。
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「怖くはない」
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「でも、見られてる感じはする」
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颯太は頷く。
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「そりゃな」
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不穏な気配
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その時、ほのかから連絡。
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(週刊誌系が動いています。撮影現場周辺の張り込み確認)
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颯太の表情が変わる。
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「……来たか」
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桃華は静かに言う。
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「まただね」
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颯太はスマホを握る。
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「守る」
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短く、強く。
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桃華も頷く。
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「うん」
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外の世界は、再び彼女を見つけ始めていた。
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でもこの家だけは――
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まだ壊れていない。
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