第36話「日常の崩壊と、静かな再構築」
朝・水上家
「……起きてる?」
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小さな声と同時に、リビングから泣き声が重なる。
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「うわ、同時か……」
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水上颯太は目をこすりながら立ち上がる。
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ベビーベッド三つ。
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颯、桜、桃佳。
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同時に泣いている。
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「はいはい、今行くって」
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育児の現実
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ミルク。
おむつ。
抱っこ。
寝かしつけ。
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一つ終わったと思ったら、もう一つが泣く。
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「これ無限ループじゃん……」
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颯太が小さく呟く。
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そこへ母・阿利佐が入ってくる。
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「だから言ったでしょ」
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「三つ子はこうなるって」
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颯太は苦笑する。
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「予想以上なんだけど」
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桃華はソファに座ったまま、少しだけ笑う。
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「でも……なんか慣れてきた」
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午前・静かな時間
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やっと三人が寝た。
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家の中に静けさが戻る。
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「……静かすぎて怖いな」
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颯太が言う。
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桃華は小さく頷く。
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「さっきまで地獄だったのにね」
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颯太は笑う。
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「地獄って言うなよ」
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現実の話
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「で」
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颯太が真面目な顔になる。
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「大学どうする?」
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桃華は少し黙る。
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「行く」
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「でも、フルでは無理」
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「だよな」
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颯太が頷く。
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阿利佐が横から言う。
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「通学は無理しない」
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「リモートも使いなさい」
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桃華は少し驚く。
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「そんなことできるんですか?」
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「できるようにするの」
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即答。
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生活の再構築
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颯太が言う。
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「仕事は?」
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桃華は少し間を置く。
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「完全復帰はしない」
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「でも、少しずつ戻す」
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ほのかからのメッセージが入る。
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(調整完了しました。徐々に段階復帰で進めます)
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颯太はスマホを見て笑う。
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「優秀だな、あの人」
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桃華も笑う。
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「ほんと助かってる」
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午後・買い物
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颯太と桃華は近所のスーパーへ。
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久しぶりの外出。
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「普通の買い物って久しぶりだな」
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颯太が言う。
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桃華はカートを押しながら答える。
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「前は全部、仕事だったもんね」
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すれ違う人は普通の家族。
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その中に、自分たちもいる。
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夜
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また騒がしくなる時間。
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三人同時に泣く。
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「来た来た来た……」
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颯太が慌てる。
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桃華は笑いながら立ち上がる。
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「もうチーム戦だね」
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颯太も笑う。
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「だな」
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静かな瞬間
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全員が寝た後。
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ソファに並んで座る二人。
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「……これが日常か」
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颯太が言う。
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桃華は頷く。
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「うん」
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「大変だけど」
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「嫌じゃない」
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颯太は少し笑う。
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「同じ」
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窓の外は静か。
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でもこの家の中は、ずっと動いている。
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それでも――
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壊れていない。
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むしろ、少しずつ形になっていく。
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