第34話「名前と、新しい日常の始まり」
病室・朝
「決めたよ」
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桜井桃華が、静かに言う。
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ベッドの横には小さなベビーベッド。
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そこに並ぶ三つの命。
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名前の発表
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「男の子は」
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桃華が颯太を見る。
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「“颯”」
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颯太の目が少し見開く。
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「俺の名前から……?」
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桃華は小さく頷く。
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「うん」
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「颯太の“颯”」
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「……いいな、それ」
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颯太は少し笑う。
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「女の子は?」
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「うん」
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桃華はもう一度赤ちゃんを見る。
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「“桜”」
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「私の名前から」
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そしてもう一人。
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「“桃佳”」
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颯太が小さく息を呑む。
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「桃華の“桃”か」
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桃華は照れくさそうに笑う。
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「うん」
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「全部、つながってる名前にしたかった」
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静かな沈黙
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三人の名前が並ぶ。
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颯太はしばらく見つめてから言う。
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「完璧だな」
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桃華は小さく頷く。
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「うん」
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午後・病室
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看護師が言う。
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「順調ですね」
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「もう少しで退院準備に入れます」
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桃華は窓を見る。
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「外……久しぶりだな」
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数日後
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病院の廊下。
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ゆっくり歩く桃華。
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カーテン越しの光。
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「……空、こんなだったっけ」
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小さく呟く。
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颯太が隣を歩く。
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「ずっと中にいたもんな」
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外に出る。
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風。
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光。
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音。
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「……怖い」
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桃華が正直に言う。
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「大丈夫」
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颯太がすぐに答える。
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「一緒だから」
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その言葉に、少しだけ肩の力が抜ける。
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水上家へ連絡
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颯太はスマホを握る。
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「母さん」
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電話。
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「子供、産まれた」
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一瞬の沈黙。
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「……え?」
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「三人」
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さらに沈黙。
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「えぇぇぇ!?」
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母・**水上阿利佐**の声が響く。
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「今すぐ行く!」
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即答だった。
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数時間後
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病室。
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「あなたが……」
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阿利佐が赤ちゃんを見る。
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「……ほんとに孫?」
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颯太が笑う。
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「そう」
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阿利佐は涙ぐむ。
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「大変だったでしょう……」
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桃華は少し笑う。
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「でも、幸せです」
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同時刻・別室
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桃華はスマホを握る。
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「岸田さん」
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マネージャー・岸田ほのか。
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「産まれました」
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一瞬の沈黙。
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「……え?」
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「三人です」
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「えぇぇぇ!?」
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ほのかも同じ反応だった。
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「ちょっと、待って……!」
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「整理するから……!」
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桃華は小さく笑う。
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「元気です」
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ほのかの声が少し震える。
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「よかった……本当に」
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病室・夜
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家族が増えた病室。
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三つの小さな寝息。
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颯太はそれを見ている。
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「……すげぇな」
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桃華が隣で言う。
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「ね」
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颯太は続ける。
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「もう戻れないな」
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桃華は少し笑う。
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「戻らなくていいよ」
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静かな夜。
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でも確かに“家族”がそこにあった。
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