第32話「破水の瞬間と、選択の連続」
病室・夜
「……っ」
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その違和感は、突然だった。
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ベッドの上で、桜井桃華が息を詰める。
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「……え?」
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次の瞬間。
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「……っ、颯太くん」
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声が変わる。
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颯太がすぐに顔を上げる。
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「どうした?」
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「なんか……」
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言い切る前に――
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表情が固まる。
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「……破水、かも」
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一瞬で空気が凍る。
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「……っ!」
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颯太の動きが跳ねるように早くなる。
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「ナースコール!」
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即座に押す。
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数秒後
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「どうしました!」
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看護師が駆け込んでくる。
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桃華の状態を見る。
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「破水の可能性があります、すぐ処置室へ!」
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緊急搬送
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「颯太さんはここで待機を!」
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「いや、俺も――」
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「付き添いは無理です!」
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強い声。
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桃華が運ばれる。
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「颯太くん……!」
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その声だけが残る。
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「大丈夫!」
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颯太は叫ぶ。
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「絶対、大丈夫だから!」
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扉が閉まる。
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廊下
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颯太はその場に立ち尽くす。
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(来た……)
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頭が真っ白になる。
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でも――
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(守るって言った)
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拳を握る。
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震えている。
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でも止まらない。
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処置室
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医師の声。
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「落ち着いてください」
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「三つ子なので、慎重に進めます」
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桃華は呼吸を整える。
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「……颯太くん」
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小さく呟く。
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外では、颯太が待っている。
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廊下・颯太
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「……頼む」
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小さく呟く。
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「頼むから……」
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初めて見せる“本気の恐怖”。
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でも――
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目は離さない。
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処置室内
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「準備できました」
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医師の声。
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「これから出産に入ります」
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桃華は目を閉じる。
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そして――
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小さく息を吐く。
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「……うん」
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(行くしかない)
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廊下
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遠くから、声が聞こえる気がした。
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「……大丈夫」
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颯太は自分に言い聞かせる。
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「絶対、大丈夫」
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夜は長い。
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そして――
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“家族が生まれる時間”が始まろうとしていた。
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