第30話「暴かれる真実か、守り抜く嘘か」
病院・廊下
「……少しだけ、時間いいですか」
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再び現れた、あの記者。
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今度は病室の外。
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逃げ場のない状況。
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「ここで話します」
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水上颯太が、桃華を背にして前に出る。
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「彼女には関係ない話なんで」
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その一言に、記者は少し目を細める。
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「……分かりました」
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静かな対峙
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「単刀直入に言います」
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記者が切り出す。
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「彼女、“斉藤もも”さんですよね?」
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沈黙。
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数秒。
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そして――
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「違います」
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颯太は、迷いなく言い切った。
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反論
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「根拠は?」
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すぐに返される質問。
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その瞬間――
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颯太は、一歩踏み出した。
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「いくらでもあります」
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その目は、本気だった。
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違いの列挙
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「まず、顔の印象」
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「斉藤ももは華やかで、メイクも濃い」
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「でも桃華はナチュラルで、普段は眼鏡」
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「次に、仕草」
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「ももはカメラを意識した動きが多い」
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「でも桃華は、普通の学生の動き」
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「体型」
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「ももはグラビア体型で、はっきりしたライン」
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「桃華はもっと自然体」
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そして――
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少しだけ声を落とす。
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「決定的なのは」
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記者の視線が集中する。
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「特徴です」
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「斉藤ももには」
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「胸の目立たない位置に、大きめのほくろがある」
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「それも、はっきり分かるレベルで」
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一瞬、空気が止まる。
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「……」
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記者が言葉を失う。
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「それに加えて」
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「細かい特徴も、何十個も違う」
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「涙袋の形、肌の質感、声のトーン、表情の癖」
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「全部違う」
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一気に言い切る。
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沈黙
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記者は、何も言えない。
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論理的に、崩された。
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「……そこまで言うなら」
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少しだけ息を吐く。
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「あなたは、相当詳しいんですね」
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颯太は、少しだけ笑う。
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「ファンなんで」
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その一言。
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「だから分かるんです」
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「“別人”だって」
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記者の決断
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数秒の沈黙の後。
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「……分かりました」
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小さく頷く。
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「今回は、引きます」
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その言葉に、空気が緩む。
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「ご迷惑をおかけしました」
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そう言って、記者は去っていった。
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病室
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「……はぁ……」
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桃華が、大きく息を吐く。
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「大丈夫だった?」
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颯太が戻る。
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「……うん」
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でも――
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顔は真っ赤だった。
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「さっきの……」
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小さな声。
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「……なに?」
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「ほくろの話……」
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さらに顔が赤くなる。
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「ちょっと……」
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視線を逸らす。
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「恥ずかしいんだけど……」
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颯太は、少しだけ困ったように笑う。
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「ごめん」
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「でも、あれが一番説得力あったから」
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「……もう」
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小さく頬を膨らませる。
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でも――
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その表情は、どこか嬉しそうだった。
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次の瞬間
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「……ありがと」
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桃華が、静かに言う。
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そして――
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そっと、颯太に近づく。
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唇が重なる。
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深く、ゆっくりと。
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感謝を込めるように。
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「……ん……」
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短く息が混ざる。
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それは――
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言葉よりも強い、“ありがとう”。
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ゆっくりと離れる。
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「……これ、プレゼント」
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少し照れた笑顔。
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颯太は、一瞬驚いて――
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「……最高すぎるだろ」
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思わずそう呟く。
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病室の静寂
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外の脅威は、去った。
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今はまだ。
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でも――
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「また来るかもな」
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颯太が呟く。
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「うん……」
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桃華も頷く。
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“完全な安全”じゃない。
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でも――
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二人でなら、乗り越えられる。
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“守る”という覚悟は、さらに強くなった。
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