第28話「重なる真実と、二人だけの確信」
病室・夕方
「……さっきの人」
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静かな空気の中で、桜井桃華がぽつりと呟く。
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「やっぱり、気づいてるよね」
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「うん」
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水上颯太も、隠さず頷く。
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「完全じゃないけど」
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「かなり近い」
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重い現実。
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でも――
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「大丈夫」
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颯太が、静かに言う。
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「まだ“確信”はない」
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「……どうして分かるの?」
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桃華が少し不安そうに聞く。
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颯太は、少しだけ考えてから言った。
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二人の違い
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「“斉藤もも”と“桜井桃華”は、ちゃんと違う」
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「……え?」
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「例えば」
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少しだけ指を立てる。
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「ももは、右目の下に涙袋がはっきりある」
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「……」
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「それと」
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少しだけ声を落とす。
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「胸の……目立たないところに、黒いほくろがある」
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「えっ……!?」
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桃華の顔が、一気に赤くなる。
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「ちょ、ちょっと……!」
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思わず顔を背ける。
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「なんでそんなとこまで……」
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恥ずかしさで声が小さくなる。
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颯太は、少しだけ苦笑する。
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「全部見てるから」
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「……」
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「最初から、全部」
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その言葉に、桃華はさらに赤くなる。
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「でも」
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颯太は続ける。
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「桃華は違う」
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「……?」
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「眼鏡かけてるし」
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「首にほくろがある」
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「雰囲気も、全然違う」
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はっきりと言い切る。
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「だから」
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少しだけ真剣な目。
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「“別人”として通せる」
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沈黙
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桃華は、じっと颯太を見る。
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(この人……)
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どれだけ、自分を見てきたのか。
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どれだけ、“斉藤もも”を好きでいてくれたのか。
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そして今――
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“桜井桃華”としても、見てくれている。
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「……そんなに」
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小さく呟く。
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「見てくれてるんだ」
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その声は、どこか嬉しそうだった。
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颯太は、少しだけ照れながら言う。
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「当たり前だろ」
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「ずっと好きだったんだから」
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次の瞬間
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桃華が、ゆっくりと顔を近づける。
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「……っ」
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颯太が少し驚く。
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そして――
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唇が重なる。
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静かで、長いキス。
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強く、確かめるように。
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「……ん……」
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短く息が混ざる。
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それは――
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“推し”と“ファン”じゃない。
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“夫婦”としてのキス。
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数秒後。
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ゆっくりと離れる。
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「……ありがとう」
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桃華が、小さく微笑む。
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病室の静けさ
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外の世界では、疑いが動いている。
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でも――
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この部屋の中だけは、違った。
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「絶対守る」
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颯太が、もう一度言う。
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「うん」
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桃華も、迷わず頷く。
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“正体”は、まだ守られている。
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でも――
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その境界線は、確実に薄くなっていた。
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