第27話「近づく出産と、忍び寄る外の影」
病室・朝
「……今日も、元気?」
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お腹に手を当てながら、桜井桃華が小さく呟く。
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(ぽこっ……ぽこっ)
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「……すごい」
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前よりも、はっきり分かる動き。
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三つの命。
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それぞれが、確かに“生きている”。
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「ちゃんと、大きくなってるんだね」
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自然と笑みがこぼれる。
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入院生活・数週間後
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「経過は順調です」
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医師の言葉。
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「ただし」
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やはり続く前提。
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「三つ子なので、いつ何があってもおかしくない」
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「……はい」
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分かっている。
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安心と不安は、いつも隣り合わせ。
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午後・病室
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「よっ」
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軽く手を上げて入ってくるのは、水上颯太。
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「今日も来た」
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「うん」
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桃華は少し笑う。
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「授業は?」
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「ちゃんと出てる」
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椅子に座る。
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「で」
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少し得意げな顔。
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「見つけた」
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「え?」
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「部屋」
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一瞬、空気が変わる。
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「ほんと?」
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「うん」
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スマホを見せる。
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小さめのマンション。
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落ち着いた外観。
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「ここなら」
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「人目も気にならないし」
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「静かだし」
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「……いいね」
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桃華の声が、少し明るくなる。
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「でしょ」
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「二人の拠点にちょうどいい」
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その言葉に、胸が温かくなる。
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その時
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コンコン。
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「失礼します」
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看護師ではない。
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スーツ姿の女性。
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「……?」
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桃華と颯太が同時に見る。
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「突然すみません」
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落ち着いた声。
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「私、出版社の者でして」
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その一言で、空気が凍る。
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数秒の沈黙
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「……出版社?」
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颯太が聞き返す。
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「はい」
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女性は微笑む。
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「最近、“斉藤ももさんの活動休止”について取材しておりまして」
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心臓が、強く跳ねる。
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(やばい……)
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「関係者の方に、お話を――」
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そこまで言った瞬間。
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「すみません」
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颯太が割って入る。
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「人違いじゃないですか?」
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「え?」
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「この人は、桜井桃華です」
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はっきりと言う。
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一切の迷いなく。
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「ただの大学生です」
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空気が張り詰める。
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女性は、じっと二人を見る。
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「……そう、ですか」
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少しだけ視線を細める。
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完全には納得していない。
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でも――
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「失礼しました」
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軽く頭を下げる。
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そして、部屋を出ていく。
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扉が閉まる音
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「……はぁ」
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颯太が深く息を吐く。
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「大丈夫か?」
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「うん……」
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でも、明らかに震えている。
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「今の……」
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「多分、勘」
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颯太が言う。
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「でも」
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顔が引き締まる。
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「近い」
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その一言が、重く響く。
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病室・沈黙
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「……どうしよう」
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桃華が呟く。
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「バレたら」
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言葉が続かない。
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「バレない」
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颯太が、即座に言う。
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「絶対守る」
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その目は、本気だった。
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その頃・病院の外
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スーツの女性がスマホを見る。
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「……桜井桃華」
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小さく呟く。
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「偶然……にしては」
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画面には、斉藤ももの写真。
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そして――
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(似てる)
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確信に近い違和感。
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「……もう少し、追うか」
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静かに、そう決めた。
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病室・夜
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「……怖いね」
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桃華が小さく言う。
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「うん」
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颯太も否定しない。
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でも――
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「でも、守る」
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短く、強く。
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“外の世界”は、動き始めていた。
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そして――
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その影は、確実に近づいている。
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