閑話④(後編) 「台所の灯りと、病室の未来」
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夜・病室
静かな機械音だけが響く部屋。
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桜井桃華は、ベッドの上でスマホを見つめていた。
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(そろそろ……来るかな)
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その時。
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プルルル……
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着信。
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「……颯太くん」
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「今、大丈夫?」
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「うん」
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すぐに答える。
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通話
「さっきの続きなんだけどさ」
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颯太の声は、少しだけ明るい。
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「家族に、食べてもらった」
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「どうだった?」
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「普通に好評」
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その言葉に、桃華は小さく笑う。
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「よかったね」
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「うん」
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少しの沈黙。
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でも、その間は心地いい。
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颯太の部屋
颯太はベッドに座りながら、天井を見上げていた。
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「なあ」
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「うん?」
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「今度さ」
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少しだけ間を置く。
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「退院したら、一緒に住むじゃん?」
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その言葉に、桃華の胸が少しだけ跳ねる。
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「うん」
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「その時さ」
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颯太は続ける。
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「毎日、作るわ」
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「料理?」
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「うん」
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少し照れたように笑う。
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「朝も夜も」
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「ちゃんと食わせる」
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その言葉に、桃華は自然と笑っていた。
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「楽しみすぎる」
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病室
天井を見上げながら。
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桃華はお腹に手を当てる。
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「聞いた?」
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小さく呟く。
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「パパ、頑張るって」
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その瞬間。
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(……ぽこっ)
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ほんの小さな反応。
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「……っ」
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思わず息を飲む。
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「動いた」
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涙が、少し滲む。
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「ちゃんと、聞いてるんだね」
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颯太の家
一方その頃。
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颯太は机に向かっていた。
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開かれたノート。
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そこにはメモ。
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・肉じゃが
・ポテトサラダ
・ミルフィーユ鍋
・栄養バランス
・妊娠中の食事
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(ちゃんと調べないとな)
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真剣な顔。
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“守る”という言葉が、ただの気持ちじゃなくなっている。
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通話再び
「ねえ」
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桃華が言う。
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「ん?」
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「私さ」
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少し間を置く。
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「退院したらさ」
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「うん」
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「ちゃんと家族になるんだよね」
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その言葉に、颯太は一瞬止まる。
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でも――
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すぐに答えた。
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「もうなってるよ」
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静かに。
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でも確かに。
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「え?」
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「結婚してる時点で」
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少し笑う。
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「もう家族だろ」
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その言葉に、胸がいっぱいになる。
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「……そうだね」
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夜更け
通話が終わる。
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「じゃあな」
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「うん、おやすみ」
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プツッ。
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静寂。
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颯太はスマホを置く。
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そして、もう一度机を見る。
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切り抜きの雑誌。
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そこにいる“斉藤もも”。
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でも今は違う。
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「……ほんと、人生変わったな」
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小さく笑う。
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その目は、もう迷っていなかった。
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病室
桃華はスマホを胸に置く。
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お腹に手を当てる。
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「家族、か……」
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少しだけ涙が滲む。
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でも、それは不安ではなかった。
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「うん」
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静かに頷く。
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「ちゃんと、なるよ」
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外は静かに夜を迎えていた。
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でもその中で――
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確かに、何かが“家族”へと変わっていっていた。
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