第25話「病室の日常と、迫る新たな試練」
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病室・朝
「……おはよう」
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白い天井。
規則正しい機械音。
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桜井桃華は、ゆっくりと目を開けた。
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入院生活は、まだ慣れない。
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でも――
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お腹に手を当てると、少し安心する。
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(三人、ここにいる)
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その実感だけが、支えだった。
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午前・病室
コンコン。
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「入るよ」
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扉が開く。
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「……颯太くん」
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水上颯太が、少し息を切らしながら入ってくる。
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「授業終わってすぐ来た」
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「無理しなくていいのに」
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「無理じゃない」
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即答。
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「来たいから来てる」
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その言葉に、少しだけ笑う。
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「ありがとう」
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病室の空気
「どう?」
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颯太が椅子に座る。
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「ちょっと楽」
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「でもずっと寝てるの退屈」
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「それは仕方ない」
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軽く笑う。
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でも、その空気の中で――
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「……なあ」
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颯太が少し真面目な声になる。
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「何?」
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「事務所の方、動きあった」
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一瞬で空気が変わる。
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「え?」
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「休業、正式に進めてる」
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「そうなんだ……」
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安心と不安が混ざる。
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その時
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「あとさ」
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颯太が少し言いにくそうに続ける。
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「大学の方なんだけど」
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「うん」
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「相沢玲奈」
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その名前で、空気が少し冷える。
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「まだ見てる」
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「……やっぱり」
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桃華の表情が固まる。
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「完全には引いてない」
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「ただ」
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少しだけ間を置く。
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「今は動いてない」
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「え?」
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「千香が牽制した」
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「千香が?」
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「うん」
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回想・学内
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「それ以上はやめときな」
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春日千香の声。
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相沢玲奈と向かい合う廊下。
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「これ以上踏み込むと、面倒になるよ」
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静かだが強い圧。
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玲奈は、しばらく沈黙した後――
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「……分かった」
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それだけ言って去った。
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病室・現在
「千香……」
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桃華は息を吐く。
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「助けられてばっかだね」
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「今はそれでいい」
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颯太が即答する。
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午後
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看護師が入ってくる。
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「体調どうですか?」
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「大丈夫です」
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そう答えるが――
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軽い違和感。
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お腹が、少し張る。
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(……ん?)
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「少し張りがありますね」
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看護師の一言。
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「安静、もう少し徹底しましょう」
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夜
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颯太は帰り際。
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「また来る」
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「うん」
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少しの沈黙。
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「なあ」
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颯太が立ち止まる。
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「何?」
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「絶対、無理すんなよ」
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真っ直ぐな目。
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「……うん」
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短く答える。
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でも――
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その言葉は、深く残った。
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病室・夜中
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静かな部屋。
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機械音だけが響く。
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桃華は、天井を見つめる。
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「……守れてるのかな」
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小さく呟く。
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でもすぐに――
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お腹に手を当てる。
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「守るよ」
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静かに、強く。
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その時。
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(ぴくっ)
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お腹の中に、小さな動き。
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「……っ」
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涙が滲む。
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「いる……」
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確かに、そこにいる。
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“守ること”は、簡単じゃない。
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でも――
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やめる理由にはならない。
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二人の時間は、静かに続いていく。
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そして――
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その裏で、確実に“次の波”が近づいていた。
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