第15話「再会と、本音の衝突」
■夜・ビジネスホテル
カーテンの隙間から、都市の光が細く差し込んでいる。
颯太はドアの前で、一度だけ息を吐いた。
「……久しぶり」
自分でも驚くくらい、声が硬い。
桃華は少しだけ間を置いてから頷いた。
「うん。久しぶり」
「……入るで」
「うん」
その“うん”だけで、部屋の中に戻ってくる。
⸻
■沈黙
ベッドの端に並んで座る。
颯太が先に口を開く。
「疲れてる?」
「普通」
「またそれか」
「ほんまに普通やねん」
「普通って便利な言葉やな」
「便利に使ってるわけちゃうし」
「でもそれしか言ってへんやん」
「……じゃあ何て言えばええん」
⸻
一瞬、止まる。
颯太が少し声を落とす。
「しんどい、とか」
「しんどいよ」
即答だった。
颯太は少しだけ黙る。
「……そっか」
「でも言っても変わらへんやん」
「変わるやろ」
「何が?」
「俺の気持ち」
その一言に、桃華の目が揺れる。
⸻
「それでええん?」
「ええよ」
「仕事は?」
「仕事は仕事やろ」
「軽く言うな」
「軽く言ってない」
「でもそう聞こえる」
「……じゃあどう言えばええねん」
⸻
また沈黙。
颯太は視線を落とす。
「距離、感じる」
「だから仕事やって」
「それは分かってる」
「分かってるならええやん」
「分かってても寂しいって言ってるんや」
その言葉で、空気が一段重くなる。
⸻
桃華は少しだけ唇を噛む。
「……私だって余裕ない」
「分かってる」
「ほんまに?」
「分かってるつもりやけど」
「その“つもり”が一番しんどいねん」
⸻
颯太は息を吐く。
「じゃあどうすればええん」
桃華は一瞬黙る。
「何も求めんといてほしい時もある」
「俺は求めてるつもりない」
「でも結果的に求めてる」
「それは違うやろ」
「違わへん」
⸻
声が少しだけ重なる。
でも、叫びではない。
“分かり合えなさ”のぶつかりだった。
⸻
颯太が少しだけ言う。
「じゃあ、俺いらんってこと?」
桃華の目が一気に揺れる。
「そんなこと言ってない」
「でもそう聞こえる」
「……違う」
「じゃあ何やねん」
⸻
桃華は息を吸う。
「両方欲しいねん」
「仕事も」
「颯太くんも」
「でも両方うまく持てへん」
その声が少しだけ震える。
⸻
颯太はそこでようやく気づく。
(これ、怒りちゃう)
(余裕のなさや)
⸻
少しだけ声を落とす。
「……しんどいんやな」
桃華は小さく頷く。
「しんどい」
「言えや」
「言ったやん」
「今やろ」
「今も前も同じや」
⸻
また沈黙。
でもさっきより柔らかい。
⸻
颯太が言う。
「俺も言い方悪かった」
「うん」
「寂しいだけやった」
「うん」
「責めたいわけちゃう」
「……うん」
⸻
桃華が少しだけ視線を上げる。
「ほんまに?」
「ほんまに」
「怒ってない?」
「怒ってない」
「ほんま?」
「ほんま」
⸻
少し間。
桃華が小さく笑う。
「……よかった」
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颯太は少しだけ肩の力を抜く。
「なあ」
「うん?」
「どうしたいん?」
桃華は少し考える。
「一緒にいたい」
即答だった。
⸻
「でもな」
続ける。
「うまくやれる自信はない」
「それでも?」
「それでも」
⸻
颯太は少し笑う。
「俺も同じや」
「え?」
「うまくはできへんと思う」
「でも?」
「一緒におるのはやめたくない」
⸻
その瞬間、空気が少しだけ変わる。
“衝突”から“共有”へ。
⸻
桃華が小さく息を吐く。
「……それでええんかな」
「ええんちゃう?」
「適当やな」
「でも本音やろ」
「本音やけど」
「じゃあそれでええやん」
⸻
少しだけ沈黙。
桃華がぽつりと言う。
「颯太くん」
「うん?」
「寂しいって言ってくれて、ありがとう」
颯太は少し驚く。
「いや、別に礼言われることちゃう」
「でも大事やん」
「そうなん?」
「そうやで」
⸻
少し笑う。
空気がようやく軽くなる。
⸻
■距離が戻る瞬間
桃華が少しだけ近づく。
「こっち来て」
「ん?」
「いいから」
颯太は素直に動く。
肩が触れる。
距離が消える。
⸻
「これでええ?」
「……何が」
「ちゃんと繋がってる感じ」
颯太は少し笑う。
「まあ、悪くない」
「雑やな」
「お前もやろ」
「うるさい」
⸻
でも笑っている。
さっきまでの張り詰めは、もうない。
⸻
■夜の続き
颯太が小さく言う。
「なあ」
「うん」
「しんどくても、一緒におるってことやろ?」
「うん」
「それって結構えぐいな」
「今さら気づいたん?」
「うるさい」
「事実やん」
⸻
少し沈黙。
颯太が続ける。
「でもさ」
「うん?」
「それでもええと思ってる自分おるんやけど」
桃華は少しだけ目を細める。
「私も」
⸻
その一言で、空気が完全に落ち着く。
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■最後
颯太が小さく言う。
「結局さ」
「うん」
「戻るんじゃなくて、作ってく感じやな」
桃華は少し笑う。
「なにそれ」
「知らん」
「またそれ」
「でもそうやろ」
⸻
桃華は頷く。
「……うん」
「たぶん、それやな」
⸻
二人はベッドの上で並ぶ。
距離は近い。
でも、以前よりちゃんと“言葉で繋がっている”。
⸻
それはまだ不完全で、まだ揺れている関係。
でも――
確かに続いていく形だった。
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