閑話②(後編) 「選ぶ覚悟と、同じ始まり」
■控室・会話の続き
桃華は少しだけ間を置いてから、もう一度口を開いた。
「ねえ、美咲さん」
「ん?」
美咲は鏡越しに目を向ける。メイクを直す手は止めない。
桃華は言葉を探すように視線を落とす。
「もし……好きな人から」
「うん」
「“子供が欲しい”って言われたら」
一瞬、控室の空気がわずかに変わる。
美咲の手が止まる。
「……うん?」
「どう、しますか?」
少しだけ声が小さい。
でも、逃げてはいない。
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■美咲の即答
美咲はほんの数秒だけ考える。
それから、迷いなく言う。
「好きなら、作るよ」
「……」
桃華は言葉を失う。
美咲は軽く笑う。
「だってさ」
「その人と一緒に生きるってことじゃん」
「未来ごと、選ぶってこと」
桃華はゆっくり聞き返す。
「怖くないんですか?」
「怖いよ」
即答だった。
その速さに逆に現実味がある。
「でも」
美咲は鏡の中で目を合わせる。
「怖いより、一緒にいたいが勝ったら」
「もうそれしか選べないでしょ」
その言葉は、強いというより“自然”だった。
⸻
■桃華の沈黙
桃華は少しだけ息を吸う。
「……すごいですね」
「すごくはないよ」
美咲は肩をすくめる。
「選んだだけ」
「選ぶって、そんな簡単にできるんですか?」
「簡単じゃないよ」
すぐに否定が返る。
「でもね」
「逃げるよりは、よっぽどシンプル」
その言い方に、桃華は言葉を失う。
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■美咲の“追加情報”
ふと思い出したように、美咲が言う。
「あ、そういえば」
「はい?」
「私たち、交際0日婚だから」
桃華の目が一瞬だけ見開く。
「……え?」
美咲は笑う。
「出会って、そのまま結婚」
「……本当にそんなことあるんですか」
「あるよ」
「現にここにいるし」
その軽さが、逆に重い現実感を持つ。
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■桃華の告白
しばらく沈黙のあと。
桃華がぽつりと口を開く。
「……実は」
美咲が視線を向ける。
「うん」
「私も、交際0日婚です」
美咲の眉がわずかに上がる。
「へぇ……」
興味と驚きが混ざった声。
「どういう?」
桃華は少しだけ呼吸を整える。
⸻
■桃華の過去
「水着の撮影会で」
「ファンの人にプロポーズされて」
「その日に、夫婦になりました」
静かに、でも逃げずに言う。
美咲は目を細める。
「すごいね、それ」
「普通じゃないよね」
「うん、普通じゃない」
即答。
でも否定はない。
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■現実の補足
桃華は少しだけ視線を落とす。
「ただ……」
「うん」
「婚姻届はまだ出せてなくて」
「一緒にも住めてないです」
「遠距離で……」
言葉が少しだけ途切れる。
「夫婦って言っていいのか、分からない時もあります」
その本音が、静かに落ちる。
⸻
■美咲の受け止め方
美咲はしばらく黙る。
それから、優しく言う。
「いいじゃん」
「え?」
「形なんてあとでいい」
桃華は顔を上げる。
「でも……」
美咲は被せるように続ける。
「大事なのはさ」
「ちゃんと“選んでるかどうか”だよ」
「……選ぶ?」
「うん」
少しだけ真剣な目になる。
⸻
■美咲の価値観
「逃げてないなら」
「流されてないなら」
「ちゃんとその人を選び続けてるなら」
「それはもう夫婦だよ」
その言葉は、断定ではなく“基準”だった。
桃華は黙る。
何かが静かに整理されていく感覚。
⸻
■桃華の小さな確認
「……選び続ける、ですか」
「そう」
美咲は頷く。
「一回じゃなくて、毎日ね」
「結婚って、そういうもん」
その言葉に、桃華は少しだけ息を吐く。
⸻
■美咲の問い返し
「で、桃華ちゃんは?」
「はい?」
「選んでる?」
少しだけ鋭い問い。
でも責めていない。
桃華は迷う。
そして、ゆっくり答える。
「……選んでます」
美咲は小さく笑う。
「じゃあ大丈夫」
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■美咲の最後の一言
少し軽くなる空気の中で、美咲が言う。
「ね、ちょっと安心した」
「安心、ですか?」
「うん」
「同じタイプがいるとさ」
「変じゃないって思えるでしょ」
桃華は少しだけ笑う。
「……確かに」
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■締めの会話
美咲は鏡を見ながら、ぽつりと付け加える。
「結局さ」
「普通って、誰かが決めるもんじゃないから」
桃華が聞き返す。
「じゃあ何ですか?」
美咲は軽く振り返る。
「“続いてるかどうか”じゃない?」
その言葉に、控室の空気が静かに落ち着く。
桃華は小さく頷く。
「……そうですね」
⸻
二人は同時に立ち上がる。
メイク直しの時間が終わる。
カメラの前に戻る準備。
でも、さっきまでの会話は消えない。
むしろ、静かに残る。
“選び続けるかどうか”
その一言だけが、控室の空気の底に沈んでいた。
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