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第117話 「“湯気の中の境界”と、選ばれ続ける日常」


■風呂場の静寂


浴室の扉が閉まる音が、家の中の空気を切り替えた。


⸻


外の世界とは完全に遮断された空間。


⸻


湯気がゆっくりと広がり、

照明の光をやわらかく歪ませていく。


水の音だけが一定のリズムで響いていた。


⸻


■二人の距離


水上颯太と、桜井桃華――そして“もも”。



同じ存在でありながら、

その切り替わりは呼吸のように自然だった。


⸻


桃華はまず、静かに眼鏡を外す

その仕草だけで、空気が変わる。


⸻


「今日は……ずっとこっちでいい?」



ももがそう言うと、颯太は一瞬だけ黙る。



(またこの流れか……)



■湯気の中の現実


シャワーの音が続く中で、ももは颯太の手を軽く取る。


その動きに迷いはない。



「今日さ」


「朝のこと、まだ引きずってる?」



颯太は少し視線を逸らす。



「引きずるとかじゃなくて……」



言葉を探すが、続かない。



■“日常”の崩れ方


ももは小さく笑う。



「でも、授業中に思い出して鼻血出してたでしょ」


「それ、普通にアウトじゃない?」


⸻


颯太は即座に反応する。


「言うなそれは」


そのやり取りに、少しだけ空気が緩む。


⸻


⸻


■距離の変化


ももは一歩近づく。

湯気の中で、輪郭が曖昧になる距離。



「でもさ」


静かな声。


「そういうふうに、ちゃんと反応してくれるのは嫌いじゃないよ」


⸻


⸻


■沈黙


颯太は何も言えない。

湯気だけが間を埋める。



(この距離は……あかんやつや)



理性はそう言っている。

でも身体は動かない。


⸻


⸻


■境界の曖昧化


ももはそっと手を伸ばし、颯太の頬に触れる。


熱と湿度の中で、

その触れ方だけが妙に現実的だった。



「ねえ」


「今日も、ちゃんと帰ってきたね」


⸻


⸻


■“選ばれた場所”


その言葉は軽いようで重い。

颯太はようやく小さく答える。



「……そら帰るやろ」


⸻


ももは少しだけ笑う。



「うん、それでいい」


⸻


⸻


■夜の確定


シャワーの音が止まり… 空気が少し静かになる。

その瞬間、ももは颯太の手を軽く引く。


⸻


「じゃあ、次はベッドで続きね」


⸻


颯太はため息を一つつく。


⸻


(今日は全部この流れやな)


⸻


抗うというより、受け入れる形。


風呂場の扉が開くと、外の世界が少しだけ遠く感じる。


家の中には、誰にも見えない“もう一つの時間”が流れている。


⸻


それは特別ではなく、もう日常として成立し始めていた。


そしてその中心には、変わらず三人がいる。


⸻


颯太と、桃華と、もも。


⸻


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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