閑話㉔ 「“動揺の授業中”と、隠せない記憶」
■午前の講義室
大学の教室は、いつも通り静かだった。
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教授の声が一定のリズムで響く。
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ノートを取る音… 椅子がわずかに軋む音。
その中で、水上颯太は座っていた。
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しかし――
(……あかん)
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颯太の脳裏に、今朝の光景がよみがえる。
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キッチン。朝の光。
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そして―― “もも”。
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眼鏡を外し、ゆっくりと姿を変えた彼女。
服のボタンを外して、まっすぐにこちらを見たあの瞬間。
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(あれは……反則やろ)
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思い出した瞬間… 鼻の奥が熱くなる。
「……っ」
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ポタッ。
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机の上に落ちる小さな赤。
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(え?)
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颯太は自分の鼻を押さえる。
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鼻血。
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■同級生の反応
すぐに気づいたのは、前列の二人。
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石井 晷久
才木 大翔
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「おい颯太!」
「大丈夫か!?」
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晷久がすぐに立ち上がる。
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大翔も椅子を蹴るように立つ。
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■教室のざわつき
周囲がざわつく。
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「え、どうした?」
「鼻血?」
「倒れそう?」
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■一時中断
教授は黒板の前で腕を組む。
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(静かに見守っている)
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そして一言。
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「……一旦中断しましょう」
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■医務室へ
颯太は二人に支えられながら廊下を歩く。
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足元が少しふらつく。
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(いや、別に体調悪いわけやないねんけどな……)
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■医務室
学内医務室にて看護師がすぐ対応する。
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看護師:藤原 美智子・30歳
「はい、ちょっと上向いてくださいね」
ティッシュで止血される。
「疲れとかストレスですか?」
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颯太は曖昧に頷く。
(ストレスというより記憶やけどな……)
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■復帰
処置後。
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ティッシュを鼻に当てたまま教室へ戻る。
少し気まずい空気。
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■授業再開
席に戻る。
するとすぐ後ろから声。
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亀井 芳子
「大丈夫?」
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左後ろから別の声。
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西 佳菜子
「なんか変なこと考えてたんじゃないの?」
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■否定
颯太は即答する。
「いや、そんなことないって」
だが声が少し裏返る。
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■正論の一撃
前の席、晷久が振り返る。
「いやいや」
「鼻血って普通、そういう時しか出んやろ」
静かな正論。
颯太、無言。
■追い打ち
大翔が小声で言う。
「そこ突っ込むのやめたれ」
そして村上 智慧が続ける。
「教授まだ止める気ないから、授業戻ろ」
黒板の前。
教授は腕を組んだまま。
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完全に“待ち姿勢”。
(説明する気はない)
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■颯太の内心
(言えるわけないやろ……)
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朝の出来事にももの姿。
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そして夜に続く“約束”。
その全部が頭の中で重なっている。
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■沈黙の選択
颯太はただノートを開く。
何も言わない。
何も説明しない。
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■締め
授業は再開された。
だが颯太の中だけは、まだ止まっている。
朝の“もも” … そして夜に待つ“もう一つの顔”。
その二つが、静かに重なり続けている。
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