↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/180

閑話⑲ 「“記録と現実の境界”と、写真に残らないもの」


“斉藤もも”として切り取られた30枚の写真は、ただの記録では終わらなかった。

そこに写っていたのは姿形だけではなく、「その瞬間の温度」そのものだった。


だが、どれだけ精密に残そうとしても、写真は現実のすべてを写さない。

むしろ残るほどに、“残らなかったもの”が浮かび上がっていく。


この閑話は、記録と現実が交差したあとに生まれる静かな違和感の話である。



■夜・撮影後の静けさ


シャッター音が止んだあと、部屋は急に静かになった。


⸻


さっきまで確かに“被写体”だった空気が、ゆっくりと日常へ戻ろうとしている。


⸻


しかし完全には戻らない。


⸻


⸻


そこにいるのは桜井桃華であり、斉藤ももでもある。


⸻


そしてそのどちらでもない“撮られた直後の人間”だった。


⸻


⸻


■カメラの余韻


⸻


颯太はカメラを机に置く。


⸻


⸻


液晶にはさっき撮った30枚のサムネイルが並んでいる。


⸻


⸻


同じ人物。


⸻


同じ部屋。


⸻


同じ時間。


⸻


⸻


それなのに、全部違う。


⸻


⸻


■ももの沈黙


⸻


ももはソファに座ったまま動かない。


⸻


⸻


少しだけ髪を整える仕草。


⸻


⸻


そして小さく息を吐く。


⸻


⸻


「……変な感じ」


⸻


⸻


その声は、さっきまでの“もも”より少しだけ低い。


⸻


⸻


■颯太の視線


⸻


颯太はカメラ越しではなく、直接彼女を見る。


⸻


⸻


(写真の中のももと、今ここにいるももは違う)


⸻


⸻


それは当たり前のことなのに、


⸻


なぜか強く実感として残る。


⸻


⸻


■ももの問い


⸻


ももがぽつりと聞く。


⸻


⸻


「ねえ」


⸻


⸻


「さっきの写真って、“私”なの?」


⸻


⸻


曖昧な問い。


⸻


⸻


でも核心を突いている。


⸻


⸻


■颯太の答え


⸻


少しだけ間を置いて、颯太は答える。


⸻


⸻


「“お前”だけど、“全部じゃない”」


⸻


⸻


「でも“本物”ではある」


⸻


⸻


矛盾しているようで、矛盾していない言葉。


⸻


⸻


■沈黙の理解


⸻


ももはそれを聞いて、少しだけ目を細める。


⸻


⸻


「よくわかんないけど……嫌じゃない」


⸻


⸻


その言葉に、部屋の空気が少し緩む。


⸻


⸻


■現実と写真のズレ


⸻


颯太は思う。


⸻


⸻


写真は“残るもの”だ。


⸻


だが現実は“流れていくもの”だ。


⸻


⸻


そして今夜は、その両方が同時に存在している。


⸻


⸻


■距離の変化


⸻


ももがゆっくり立ち上がる。


⸻


⸻


そして颯太の隣に来る。


⸻


⸻


カメラはもう触られない。


⸻


⸻


それなのに、まだ“撮られている気配”だけが残っている。


⸻


⸻


■ももの声


⸻


「ねえ、颯太」


⸻


⸻


「これ、誰にも見せないよね?」


⸻


⸻


少しだけ不安を含んだ問い。


⸻


⸻


■颯太の即答


⸻


「見せない」


⸻


⸻


迷いのない返答。


⸻


⸻


その瞬間、ももの肩から少し力が抜ける。


⸻


⸻


■写真に残らないもの


⸻


ももは小さく笑う。


⸻


⸻


「じゃあいいや」


⸻


⸻


そして続ける。


⸻


⸻


「でもさ」


⸻


⸻


「写真って、残るのに“全部じゃない”の、変だよね」


⸻


⸻


颯太は頷く。


⸻


⸻


「だから撮るんだろ」


⸻


⸻


■沈む夜


⸻


時計の針だけが動いている。


⸻


⸻


外の世界は何も知らないまま進む。


⸻


⸻


しかしこの部屋では、


⸻


“残るもの”と“残らないもの”の境界が静かに揺れていた。


⸻


⸻


■最後の一枚の余韻


⸻


ももがふと机の上のカメラを見る。


⸻


⸻


「ねえ、もう一回だけ見ていい?」


⸻


⸻


颯太は無言でカメラを渡す。


⸻


⸻


ももは液晶をスクロールする。


⸻


⸻


自分の写真。


⸻


⸻


でもそこにいるのは、知らない自分でもある。


⸻


⸻


■締め


⸻


ももはぽつりと言う。


⸻


⸻


「これ、私なのに……ちょっと他人みたい」


⸻


⸻


颯太は静かに答える。


⸻


⸻


「それでも、お前だよ」


⸻


⸻


その言葉だけが、部屋に残る。


⸻


⸻


夜は深くなり、


⸻


“記録された存在”と“生きている存在”が、同じ空間に並んでいた。


⸻ 


写真は記録でありながら、同時に「解釈」でもある。

同じ人物を撮っても、見る側によって意味は変わり、残る印象も変わる。


颯太にとっての30枚は“保存”であり、桃華にとっては“分裂”に近い体験だったかもしれない。

それでも二人の間では、その違和感さえ共有されていく。


現実は流れていく。

しかし写真は残る。

そして、その間にあるものだけが、言葉にならずに積み重なっていく。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。