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あぁ、魔王様の寵愛が重い。~戦乱を避けてただけなのに『魔王を操る闇軍師』と呼ばれてしまう~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志


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第2話:俺は夢を語る


 西都が燃えている。


 雪蘭せつらんの曾祖父、鄂牙がくが王朝の開祖、初代魔王「鄂牙 隗(がくが かい)」はこの地を根拠地に定め、天下を一統した。


 その象徴たる都が燃えている。

 誰もが言葉を発せず、曇天に上る煙を見る事しか出来なかった。


「どうして……」


 雪蘭は空虚な瞳で小さくそう呟く。

 眉間に深い皺を刻む明浩めいこうは声を張り上げた。


「大王!西都は敵に陥落させられたのです!」


「敵は、今退けたじゃないか!?」


 考えられる経緯としては、西都を守る人物の誰かが内応して門を開き、そこに反乱軍の別動隊が突入したのだろう。

 しかし今、正確な情報を掴むことにあまり意味は無かった。


 状況は予断を許さない。


 そんな中で前に進み出たのは、軍議の席で明浩に強く当たっていたあの大鬼オーガ族の老将であった。

 長く白い髭を血で汚している。最前線で剣を振るっていた証だ。


「西公(林氏領の領主に対する敬称)よ、大王をお連れし逃げてくれ。我らも西都が落ちてなお、抗戦を叫ぶつもりもない。貴殿に全てを託す」


「将軍方は」


「我ら将校は皆、身内に等しい部下や兵を率いる責務がある。置いてはゆけぬ。そんな中で西公の部隊だけが全員を騎兵で揃えており、足が速い。大王をお守りできるのは貴殿だけだ」


「爺や、駄目だ、駄目だぞ!これ以上、余の前から誰もいなくならないでくれ!」


蒼嶺寧そうれいねい、大王をお連れせよ。我らは遅れて続く」


「ご安心ください、命に代えてもお守りします」


 周囲の将校らは皆、涙を流す雪蘭に優しく微笑んでいた。

 そして老将は明浩に目を移し、睨む。ご武運を。その視線に、短くそう答えた。



 馬に跨った魔王せつらんはただただ、前を見ていた。

 自分の命の重さを、王の責務を、よく分かっている。


 果たして同じ立場になった時、自分はここまで強く在れるだろうか。

 焼ける西都に目をやる。まだ敵がこちらに向かってきている様子は見えない。


「えっと、それで、そこの方」


蒼嶺寧そうれいねいです。大王様に近侍する護衛兵で御座います」


「分かった。ではねい殿、申し訳ないが"獣化"を解き、獣人の姿に戻ってください。その姿は目立ちすぎる。馬の扱いは?」


「問題ありません。我が"蒼嶺そうれい"家は武門の名家ですので、馬術も当然嗜んでおります」


 白銀の大狼は発光すると、数秒で獣人の姿へと変化した。まるで変身ヒーローのようだ。

 いや、女性だからこういうときは魔法少女といった方がいいか?


 短く切り揃えた白銀の短髪、頭に生えた狼の獣耳。人の耳もある。

 狼の姿の時は怖かったが、人型になると大きく丸い瞳がどこか人懐っこい大型犬を思わせる風貌をしていた。


 ちなみにこの"獣化"は獣人族のみが扱える"魔術"である。

 "生態"ではなく、"魔術"だ。


 だから獣化が解けたからといって服を着ていないとかそういうことはない。獣化する前の軍装のままだった。

 あ、別にそれ以上の意味はないよ。変なことを考えられる状況でもないからね!


梁牙彪りょうがひょう!間道より部隊を先行させてくれ!」


「了解!」


「斥候部隊は関所に走って、守備隊が敵対していないかを見てきてくれ。問題がなければそのまま突っ切る」


「かしこまりました」


 本当に西都が陥落しているのかどうか、反乱軍がどのような規模で動いているのか、天下の情勢がどうなっているのか。

 それを精査している暇はない。僅かな逡巡で命を落とす。今は、そう言う状況にあるのだろうと思う。


 騎馬隊を小隊ごとに散開させ、西都方面の主要道ではなく南の山林に入り、迂回路より西へ向かう。先導するのは梁牙彪の部隊。

 中軍を駆ける俺の部隊に魔王せつらんねい殿が居て、もう既に別れた護衛軍の将校らは見えなくなっていた。


「大王様、我ら林氏の者達は、彼らが逃げるための援護も手を尽くす所存です。一人でも多くの者を生きて帰らせます。ご心配なく」


「まさか林氏がここまでの忠義の者だとは思っていなかった。頼む、明浩めいこう。余の全て、貴方に託す」


 ドキッとする言い方だ。この魔王、もしかして分かってやってるのだろうか?

 まだ抱きしめられた感覚が、鈍い痛みとして残っている。


 腕の筋肉や鎧の硬さ、赤黒い髪、汗と血の"すえた"臭い。まだ鮮明に覚えている。

 あと、さすが大鬼オーガ族。力が強いよね。


「変なことを考えてないだろうな」


 寧殿はほんとに目ざといね。違う意味でドキッとしちゃった。


「そんなことよりも西公、関所を突っ切ると言っていたが、大丈夫か?」


「たぶん、大丈夫かと」


 まぁ、その心配も十分に分かる。

 こちらが捕捉できていない別動隊が西都に入った。それだけ手際の良い相手だ。


 更に魔王が西へ逃げないよう、関所を封じるのは当然の一手。

 この西都は広大な盆地であり、東西に渡って一本の大河が通っているという地形だ。


 つまり魔王を更に西へ逃がさないためには、出入り口たる関所を封じるのは非常に重要。

 勿論、敵もそれは分かっているだろうから、そこに敢えて突っ込むのは悪手と考えるのが自然だ。


「たぶん、では困るのだが」


「恐らくこの西都周辺に侵入している敵兵はそこまで多くない。本軍がぞろぞろやって来てたら目視で分かりますから。故に大軍で関所を塞いでいるとは思えない。ただ、何かしらの手は打ってるでしょう」


「そこを突っ切るわけか。それで明浩、次はどんな策を考えているんだ?」


「うーん、まぁ、今更隠すことでもないですし正直にお話ししますと、我ら林氏は反乱軍の首魁"鄂牙全千がくがぜんせん"とズブズブの関係にあります」


「ズブ、え?」


 林氏領は北西の辺境に位置する地域だ。

 東部の端は西都に繋がる河川もあって栄えているが、そこから西はほとんどが砂漠や高原地帯。


 点々とあるオアシスに人が住み、北の砂漠からは厄介な魔族が侵略してきて、定住するのが非常に難しい大地が広がっている。

 その土地柄上、農耕ではなく畜産がウチの主な産業で、"軍用馬の生産"が林氏領の経済を支えていた。


 そして軍用馬を欲するのは軍部。鄂牙全千がくがぜんせんはこの国の軍部の統括者。

 というわけで関係性だけで見ればズブズブなんだな、ウチと反乱軍大将は。


「さっきの戦いで敵の騎馬隊がウチをあっさりと警戒対象から外してたのも、この背景があるためです。恐らくまだ敵の方も我らが本当に手を切ってきたのか、半信半疑の状況でしょう。此度もその混乱を突きます」


「じゃ、じゃあ、どうしてお前は余を選んだのだ」


「……俺は毎日同じ時間に寝て起きて、仕事もほどほどで済ます、そんな生活を送りたいだけです。されど此度の反乱を許せば、天下は乱世になる。乱世じゃそんな生活は望めない」


 どうしてこの美人二人は、奇人変人を見るような眼で俺を見てるんだろう。

 そんなに変なこと言ってるかしらん?

 気まずい。


梁牙りょうが将軍より伝令!関所の守備兵の去就不明!突入するかどうかのご指示を!」


「予定通りに、つつがなく。そう伝えよ」


「御意!」


 先頭を駆ける小隊は更に速度を上げ、逆に俺は少し速度を下げるように合図を出す。

 もし先頭の梁牙彪の部隊が押し通れず戦闘に発展した場合、俺達は山中に入ったまま間道を通って迂回する必要があるためだ。


 勿論そうなれば、敵の追撃に追いつかれる危険も、回り込まれる危険も跳ね上がる。

 祈るしかない。結局この魔王を生かすも殺すも、全ては天次第なのだ。


明浩めいこう


「え、はい」


 薄暗い山林を慎重に駆けながら、緊張が張り詰める空気の中で魔王は俺の名を呼ぶ。

 馬は横並びに。俺だけに投げかけるような、力の抜けた小さな声だったから少しびっくりした。


「余も、そんな生活を送ってみたいな。魔王にそんな日々は許されないと、どこかで思っていた気がする」


「やめてください。だらしのない暗君と呼ばれますよ」


「ふふっ、そのときはお前が叱ってくれ」


 たぶんこっちを見てくれている彼女の顔を、俺は見ることが出来なかった。

 なんでなんだろうね。


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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