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辺境領主の転生者、助けた魔王に溺愛される ~ただの人間が『魔王を操る闇軍師』と呼ばれるまで~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志


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第1話:水魚の始まり


 俺の安眠は一人の"死"により終わりを告げる。


「──魔王様が、崩御なされたと報告が」

「──都で反乱が発生し、王太后様、宰相閣下が殺されたと。首謀者は、大将軍であるらしく」


 その報告は、ほぼ同時に届いた。

 恐れていた事態が起きた。俺は寝台から飛び起き、剣を手に取り、駆けだす。


 くそったれ。転生して二十二年、もっと平和で平穏な世界に生まれたかった。

 君主の代替わりに"政変"はつきもの。"前世で学んだ歴史の知識"が、それを物語っている。


 例えばアレクサンドロス大王の急逝後に起きた、ディアドコイ戦争。


 例えば武帝"司馬炎"の崩御の後に起きた、八王の乱、そして永嘉の乱。


 例えば天智天皇の崩御の後に起きた、壬申の乱。


 もうじき王は死ぬだろうと思って待っていたが、死ぬな、と願ってもいた。

 ちなみに俺は死にたくない。だから死なないために死ぬほど準備し、努力しないといけない。


 辺境の領主としてスローライフを送るのは、どうにも難しいらしい。





 王都では反乱軍が蜂起し、宮城は火の海に飲まれる。

 敗走する四代目魔王の軍勢は、西へ逃れて態勢の立て直しを図っていた。


 敵は、この国の大将軍 "鄂牙 全千(がくが ぜんせん)"の率いる精鋭部隊。

 四代目魔王の即位を認められないと挙兵し、アッというまに王都を焼野原にしたのである。


 そして四代目の魔王に即位し、今まさに王都を追われているのが、 "鄂牙 雪蘭(がくが せつらん)"。

 褐色の肌に、燃える練炭を思わせる赤黒い長髪。額には二本の短い角が生えている。

 まだ若い、成人したばかりの女性であった。


 加えてこの雪蘭の母は人間族。

 大鬼オーガ族を出身母体とする王朝において、その混血に不満を持つ者は多い。


「報告! 殿軍を指揮されていた"蒼嶺 巌(そうれい がん)"将軍の部隊は壊滅! 将軍も討たれたと!」


 まさか。そんな。

 天幕の中。居並ぶ将軍達はざわざわとどよめく。


 魔王を護衛する親衛隊長の精鋭部隊が、僅かに敵を足止めすることすらできないのか。


 雪蘭は隣に侍る、"獣人族 大狼種"の彼女に目を移した。

 短く切り揃えた白銀の髪と、狼の獣耳。強い意志を感じさせる大きな瞳。

 いましがた戦死の報告が入ったのは、彼女の父である。


 その大きな目は赤く充血しているが、一切動じず、涙も零れていない。

 申し訳なさを押し殺し、雪蘭は心中で敬意を払う。


「……皆に問う。賊を如何にして食い止める」


 空気は重く、静かだった。

 反乱軍の勢いが強すぎる。


 西都の民衆を徴し、編成する時間も、各所に配されている兵士を招集する時間もない。

 どう搔き集めても、今動かせる兵力は5千。対して、敵は2万。


 しかもただの2万ではない。"不敗将軍"と謳われる"鄂牙全千(がくがぜんせん)"の鍛え上げた魔族部隊。

 この国の主力である。十倍の兵力を用意して初めて抗しえる部隊であると言っていい。



「さ、先に決戦の地に陣を構えているのはこちらだ。走り疲れた敵を急襲し、全千ぜんせんの首級を」

「馬鹿を言うな!大王様をお守りせねばならんときに、博打に出ることなど出来ん!」

「座して待つ方が危険である!動いて活路を見出す他に道はない!」

「いやここは陣を放棄し、もっと西へ」

「この西都より"鄂牙がくが王朝"は飛躍したのだ!先祖よりの地を放棄するなど言語道断!」



 喧々諤々《けんけんがくがく》。諸将の意見が割れる。

 誰もが血走った眼をして、耳を塞ぎたくなるような喧騒を繰り広げた。


 雪蘭は目を閉じる。自分の胸の鼓動だけに耳を傾けた。


 己の胸に「余は死ぬのか」と問う。


 激しい怒りのみがその胸を満たしていた。


 父が亡くなった矢先、あの男は自らが魔王になると号し、宮中に兵を入れ、略奪と殺戮の限りを尽くした。

 燃える宮中を遮二無二逃げ、護衛軍に保護された雪蘭が目にしたのは、父の遺骸と共に燃える宮殿と、城門に吊るされた母や親しい者達の首。


 絶対に、あの男を殺さなければならない。

 そのために、こんなところで死ぬわけにはいかなかった。


「報告! 林氏領当主『林 明浩(りん めいこう)』様が御着陣!」


「余が許す、早く通せ!」


 皆の顔に喜色が宿る。

 天下北西の端の辺境。そこは人間族の"りん"という姓の一族の領地であった。


 中央に居る時には気にもしなかった、田舎の没落領主。

 しかしこの状況を考えれば、誰であろうと助力はありがたいことこの上なかった。


 深緑色の戦袍マントを靡かせ、ひょろりとした長身の男が天幕に入り、雪蘭の前で膝をつく。

 なんとなく不気味であった。まとう空気もどよんとしていて、不健康そうな猫背で。


 これが"林 明浩(りん めいこう)"。

 少しだけ、皆の笑みは引きつっていた。


「危急の事態にて、軍装のままで失礼します。林氏領が領主の"明浩めいこう"に御座います」


「して、援軍の兵数はいかほどか!?」


 上席に座る大鬼オーガ族の将校が身を乗り出して声を上げる。

 すると、明浩と雪蘭の目が合った。歳は、明浩のほうが雪蘭よりも2つ上。


 やつれた顔に、眠そうに光のない瞳。

 何を考えているのか悟らせないような無表情が口を開く。


「三百騎です」


 一瞬の静寂。皆の顔から喜色が消えた。


 ありがたいが、とても戦況を覆せる数ではない。

 雪蘭は明浩を睨み、ギリリと歯噛みをする。


「なにぶん急な出来事でしたので、ご容赦を。大王様」


「……他の都市から、増援は来ていないのか」


「我が領地が最も離れているのです。我が軍より遅参する西方の部隊は、恐らく居ないかと」


「もういいっ!」


 まるで他人事のように、自分は関係ないといった顔で淡々と語る明浩に、雪蘭は我慢ならなかった。

 明浩は頭を下げ、しかしそのまま引き下がらず言葉を続ける。


「恐れながら。大王様にはどうか我が林氏領まで後退し、再起の力を蓄えていただきたく進言に参りました」


「大王!この者の策を聞いてはなりませぬ!己が利しか考えておりませんぞ!」


 諸将の一人が、怒りの声を張り上げる。

 大鬼族の老将であった。明浩はそれでもまだ引き下がらない。


「利ではなく流れの話です。敵の勢いは破竹。勝ちの勢いに乗る兵は強い。どう見ても戦うべき時は今ではありません、どうかご冷静に」


「ええい黙れい!賊にこれ以上、背を向けてなるものか!!」


 大鬼族は「実力主義」の種族で、魔王はその頂に立つ者。

 女でも王に立てるのはそれゆえであり、だからこそ雪蘭は退けないという事情もあった。


 敵に背を向けるのはこの上ない恥辱。

 つまり明浩の説得は火に油を注ぐ様なものである。


 すると雪蘭の隣に侍る獣人の従者「蒼嶺 寧(そうれい ねい)」は身を屈め、耳打ちをする。


(大王様、林氏は"裏切者"の一族。良い評判も聞きません、ご注意を)


 雪蘭は立ち上がり、長弓を手に取って、伏している明浩を見る。

 影に呑まれるように、暗く、不気味な男である。

 それを見下ろす雪蘭は、揺れる長い髪が火の明かりに透けて赤く光っていた。


「西公(林氏領の領主に対する敬称)よ、援軍大義である。しかし、その進言は聞けないな」


「大王様、どうかご再考を」


「父上であればどうなされたか、"魔王"とはこういう時どうすべきか、それを考えていた。そして決めた、余は戦う。西公、お前の部隊には先鋒を任せたい」


「……であれば、もう何も言いますまい。この身命を大王様にお捧げ致します」


 居並ぶ魔族系の将校らは当然だと言わんばかりに鼻息を荒くし、人間族の将校らは明浩に冷ややかな目を向けている。

 そこで明浩はようやく引き下がり、一応、用意された上座に並ぶも、これ以降はひとつも発言することは無かった。



 敵の追撃部隊、襲来の報告。

 その数およそ三千。


 軍議が終わり、それぞれの将校は西都を背に、隘路を塞ぐように布陣。


 北には河川、南には山。包囲が難しく、大軍の利を活かせない地形。

 林明浩の部隊三百騎は中央最前線に布陣。


 誰が見ても明らかに使い捨ての消耗品扱いと言えるだろう。

 敵の突撃を、体を張って止めて来いという肉壁の役割だ。


「若君、流石ですな!危険な役目をわざわざ買って出るとは、まさしく忠義の烈士!武人の誉れに御座います!」


「え、違うぞ?普通に貧乏くじを押し付けられただけだぞ?」


「え?」


 明浩の傍らで満面の笑みを浮かべるのは、大鬼族出身の武人「梁牙 彪(りょうが ひょう)」。

 四角い顔に、むさくるしい顎鬚。2メートルの巨躯を誇る猛将の容貌だが、これくらいの武将は大鬼オーガ族では珍しくない。


「大王様には我が領地までの後退を進言したが、拒まれた」


「そういえば大王様との面会は初めてで?」


「そうだな」


「自分は、以前は王都軍の出身でしたので何度かお見かけしたことがございます。小柄ながら意志の強い目をした御方でしたなぁ」


「小柄?まぁ、そっか、お前達だとそうか」


 成人の平均身長が、2メートルを数えるのが大鬼族である。

 明浩が見た雪蘭は確かに自分よりも小さく、しかし長身のモデルのようであったが、大鬼族として見ると小柄なのだろう。


「若君から見た大王様は、どのような御方でしたか?」


「うーん」


 思い浮かぶのは外見の感想ばかり。

 とにもかくにも美人だ。軍装が似合うタイプの。


 でもそんな変態じみた回答をするわけにもいかず、「意志が強そうだった」と梁牙彪の感想をオウム返しすることしかできなかった。

 変な回答だ。梁牙彪はドギマギしてる主君の様子に首をかしげる。


「早馬に御座る!」


 そんな会話をしている最中にも、絶え間なく放っていた斥候より報告が届いていた。

 そろそろ頃合いだと、明浩は頷く。


 敵影と、巻き上がる砂塵。


 背後には丘に陣取る本陣がある。遠くながら白銀の大狼に跨る、やたら目立つ将が一人。

 遠目からでもあれが魔王"雪蘭"であると一目で分かる出で立ちだった。


「じゃあ、始めようか。予定通りに、つつがなく」


「言っておきますけど、自分は若君のやり方に納得してるわけじゃないですからね」


「別にそれでいいさ。戦場なんて綺麗なものじゃないんだ」


 響く馬蹄、威圧する両軍の将兵の怒号。

 僅かに地は揺れており、明浩は馬に跨ると合図を出すように手を挙げる。


 すると後方に控えていた「林」の文字の旗が大きく振られ、そして下げられた。

 敵軍もその合図に合わせるかのように速度を落とし、旗を振っている。



 林明浩。何をするつもりだ。


 高い位置より戦場を見る雪蘭は、背筋に冷たいものを当てられたかのような、恐ろしい寒気を覚える。

 気づけば鳥肌が立っていた。


 突如、林明浩の三百の騎馬部隊が駆けだした。

 敵は迫っているが、動き出すにはまだ早い。


 いや、違う。


 あれは「逃げ出した」のだ。

 予め敵と通じていた者の動きであった。


「アイツら、南の山中へ……」


「大王様、やはりヤツ(林明浩)は裏切っていたのです!如何なさいますか、中央前方が手薄にっ」


「クソッ!!」


 林の旗を掲げる騎馬隊は敵に向って行ったと思えば、進路を大きく南へ逸らした。

 敵もそれをただ見過ごし、素通りさせる。


 馬ほどの大きさの狼に"変身"している蒼嶺寧(そうれいねい)は、牙を剥き出しにして唸っていた。

 あの旗は、まさしく裏切りの合図だったのだろう。


 迫る敵軍は、報告によれば3千。それは反乱軍先鋒を務める精鋭"巨馬"部隊である。

 大鬼族でも騎乗できる巨馬を揃え、金と時間を費やして鍛え上げられた、鄂牙全千(がくがぜんせん)の軍が誇る最強の矛。


 いずれも一騎当千の強者揃いの精鋭兵。

 人間族や魔族混合の寄せ集めの五千の軍勢で、破ることなど、果たして。


「敵は数で劣る!三百程度の弱兵が逃げ出したところで大勢に影響はない!迎え撃つぞ!!」


 目を血走らせ、雪蘭は声を張り上げる。

 その叫びは己を奮い立たせるものでもあった。


 濠と逆茂木、柵を構えた野外陣地。

 左右が地形に制限される以上、敵は正面から攻めかかる他ない。


 騎兵はこれを越えられまい。


 普通であれば、だれもがそう思う。だからこそここに陣を構えた。

 野外で敵のこの先鋒を破り、士気を上げ、西都の城郭で籠城戦を行う。


 これが雪蘭の下した決断。

 兵法通りの常套手段。


 しかしここは戦場。

 想定通りに事が運ぶことのほうが珍しい地獄の世界。


 一切速度を落とさない、騎馬隊の進撃。


 先頭が跳ね、突っ込み、柵を粉砕。

 続く騎兵は次々と馬を降り、浅く粗末な濠を越え、その突破口より浸透する。


 左右の陣が動き、敵部隊を挟み込む。

 三方向からの迎撃。しかし、これを押し返す。


 何もかもが違う。

 全千の率いる本隊はまだ後方にいるというのに、数で劣る先鋒相手にこのザマか。


 目前で次々と殺されていく仲間が見えた。

 どうして。なぜ、天は自分にこんな地獄を突き付けるのだ。


 涙が溢れ、激情が口から出てしまいそうだった。

 殺してやる。絶対にだ。何が何でも。


ねい!余は前線に行く!このままじゃ、総崩れになる!!」


「大王様、危険ですっ!ここは退却し、西都へ!」


「敵の先鋒を崩せないまま籠城をする魔王に、一体誰が付いてくると言うのだ!!」


 雪蘭が怒鳴った、その瞬間だった。

 明らかに敵の足が止まったのだ。


 しかしそれは自軍が防ぎ止めたという感じではなく、敵兵が自分達で足を止めたという、不自然な光景であった。


 砂煙が舞う戦場。

 何が起きているのか、雪蘭もいまいち掴めていない。

 そんな中、更に奇妙なことに、喉元にまで迫っていたはずの敵兵が慌てて退いて行くのが見えた。


「なんだ、これは。ねい、何が起きて……?」


「わ、わかりません。罠、にも見えませんが」



 砂煙が晴れる。


 遠くに靡く旗が見えた。


 あれは「林」の字。

 深緑を基調とした「林」の旗がいくつも靡いていた。



「まさか逃げたはずの林明浩(りんめいこう)が、敵の背後を突いたのか?」


「い、いえ、大王様!ヤツら、馬を!」


 普通、大鬼オーガ族は騎兵になれない。

 なれても部隊を編成するほどの数を揃えられない。


 理由は単純で、重く大柄な大鬼オーガ族が騎乗できるような馬は極めて希少であるからだ。


 速く遠くまで走るには、馬上の兵は軽い方が良い。

 故に膂力と体力のある大鬼族は、馬に乗るよりも足で駆けるほうがずっと遠くまで進める。


 その大鬼族が騎馬部隊を編成した。

 取り揃えられた馬は巨躯の名馬ばかりで、一頭で一つの都市を買えるような値がついている。


 そこで林明浩は、一つの策を立てていた。

 この反乱軍に味方すると見せかけ、反乱軍が下馬したその馬を背後より奪取せしめるというもの。


 そもそもこの馬を売っているのは名馬の産地を抑える林氏なのだ。故に、騙すのも容易い。

 いつか来るかもしれないときのために始めた、入念な準備のうちのひとつ。


 これは「虚実」の策。

 孫子曰く「兵の勝は実を避けて虚を撃つ」ことにあり。


 かの有名な"孫子の兵法"にある、戦いの極意。戦いは、敵の隙を突いた方が勝つ。

 林明浩はその極意を「知っていた」。


 結果、敵兵は目の前の"魔王"の首よりも、自分達の馬を取り戻す方に心を動かしてしまったのだ。

 その結果が、この光景である。


「ふふっ、アハハハハッ!!」


「だ、大王様?」


 闇に身を屈めていたあの男が、一人で地獄の戦場をかき回している。

 おかしくてたまらない。雪蘭は笑い、涙を拭う。


 気づけば、心を奪われていた。


 自分を裏切ったように見せ、敵を裏切ってみせた。

 卑怯極まりないヤツだ。しかしそれを、雪蘭は「美しい」と思った。


 思ってしまった。


 地獄に等しい戦場で、敵も味方も関係無く「林」の旗は駆けまわる。

 そして一団は戦場を搔き乱すだけ搔き乱して、巨馬を散り散りに放った。

 その瞬間、雪蘭は鏑矢(音の鳴る矢)を曇り空に向かって射かける。



「──敵の足並みが乱れている!総攻撃だ!」



 ここからの戦いは一方的であった。というよりも戦いにはならなかった。

 敵兵は形勢の不利を悟るとそのまま退却したのである。


 そして悠々とこちらに向かってくる林の旗。


 明浩は一騎で駆け寄り、雪蘭の前で下馬し、平伏した。

 雪蘭もまた"白銀の大狼(そうれいねい)"から降り、明浩の体を手ずから起こす。


「大王様、勝手な行動をしました。どうかお許しを」


「実に、実に見事であった。余の命は、お前に救われたようなもの」


「過分なお言葉に御座います」


「西公、いや、明浩と呼ぼう。余は分かったぞ。余には、お前が必要だ。余が魚なら、お前は水なのだ!もはや余から離れることなど叶わぬと思え!」


「え、あ、いや、えーっと……」


 初めて明浩の顔に動揺が見えた気がした。

 その瞬間、雪蘭は明浩を抱き寄せ、苦しくなるほどに力を籠める。


 魔王になって、初めての勝利なのだ。

 地獄の中に見た一筋の希望。この希望だけは手放してはならないと、雪蘭は強く思った。


 対する明浩。

 だらしなく解れてしまいそうな己の顔を、引き締めることで精一杯という表情をしていた。


 たぶんここで理性が消えて口角が僅かにでも上がろうものなら、牙を剥き出しにして唸り声を上げているあの狼に食い殺されるのが分かっていたからだ。


 そして、共に立ち上がる明浩と雪蘭。


 ここから魔王の反撃が始まる。

 誰もがそれを予感していた、はずだった。


 雪蘭は明浩の視線が自分ではなく、その後方に向いた瞬間を見た。

 握っていた肩が、固く強張っている。


 どうしたのだろう。


 雪蘭は振り向くと、曇天は赤く染まり、遠くの城郭からもうもうと煙が立ち上っていたのであった。


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