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君が国を取れ ~辺境領主の転生者、兵法で無双して『闇軍師』と恐れられる~  作者: 久保カズヤ@試験に出る三国志


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第12話:天水の戦い1 ──士気と芝居


 西都より軍が発した。


 鄂牙全千の率いる本軍の4万が先んじて東へ、そして遅れて威景の率いる2万が西へ。

 全千は鄴城にて軍勢を集め、急速に膨らむ烏文軍を叩くべく動いた。

 そしてその息子である威景は、魔王"雪蘭"を擁するこの俺を討つべく軍勢を西へ向けたのだ。


 対する烏文軍は20万の軍を集めつつあり、東公もこの烏文軍に加わるべく動いているらしい。

 一方の俺だけど、急ぎ兵を集めてみてはいるが、その兵力は2万に達するかどうかという状況。


 というのもウチ、林氏領の軍制は少しややこしいんだ。


 基本的に林氏領の全軍が俺の指揮下に入っている、というのはあくまでも建前。

 実質、林氏が直接集められるのはこの天水城、そして西に隣接する"城"の兵士だけであった。


 林氏領は北西に細く長く伸びており、さらに砂漠や山岳や高原地帯の入り乱れる複雑な地形となっていて、その全域にあまねく目を配るのは極めて難しい。

 故に現地で力を有する氏族や豪族に細かい統治権は任せており、俺が兵を招集すると布告を出しても、彼らからすれば積極的に協力する必要は無いのだ。


 ちなみにキッチリとした徴兵を行うには、戸籍を取らないといけない。

 しかし戸籍を取られると、税や兵役で負担を強いられる形となる現地領主はそれを当然嫌がる。

 俺が最終的にやりたい制度改革はここなんだけど、まぁ、簡単じゃあない。


 というのもまだまだこの時代は、国家とかそういう形で社会が結束できるような「枠組み」の意識が薄い。というかほぼ無い。

 人々が「自分は国家に属する国民である」という意識が無い状態で兵力を集めるのはとにかく難儀。


 その支配域も面で領地に色を塗るわけではなく、城郭を中心としたまだら模様になっており、それ故に地方都市にまで影響力が届かない。

 恐らく時代感で言えば、隋・唐代より少し前の中国って感じ。まだ重火器どころか火薬もないような時代だ。


「つまり、です。決戦で勝利し力を見せつけなければなりません。そうすれば人々も日和見を止め、去就を定めます」


 軍議の場で俺はそう魔王せつらんに説明を尽くす。

 この場には魔王せつらんだけでなく、林氏の譜代の臣下達、呼びかけに応じた各地の首長達も居並んでおり、この説明はどちらかというと彼らに向けたものでもあった。


 既に作戦の概要に関して、既に魔王せつらんへの共有は済んでいる。つまりこれは芝居だ。

 一人の少女が、自分の足で王として立つための最初の一歩であると考えている。


「ならば明浩、ここに居並ぶ者達は皆、日和見をせず余に力を貸してくれる者達であるのだな」


「左様に御座います」


「相分かった。皆の名、そして顔を余は決して忘れぬ。この魔王"雪蘭"は、必ず君たちのその覚悟に報いることをここに約束する。働き次第で官位、領地、全てを望みのままに与えようぞ!」


 皆顔を見合わせ、そして色めき立つ。こういう発破をかける「役」は、やはり俺には向かない仕事だった。

 その点、彼女は適任である。有名無実の身ながら、その言葉には力が籠っている。生まれ持った器の違いなんだろうな。


 赤黒い長髪、銀色の軍装、深緑の戦袍マント。老朽化してみすぼらしいウチの役所の中で、その出で立ちは光り輝いていた。

 その性格も物怖じしないスッキリとした大将の気質。劣勢の状況にありながら、何とも心強い主君である。


「しかし大王様、そのためにもまずは目前の戦いに勝利せねばなりません」


「明浩、敵の威景が率いるのは報告によれば2万だ。こちらの軍勢も同じ2万。勝つには工夫が必要だろう」


「戦に関しては、兵力はやはり多いに越したことは無く、被害は少ない方が良い。同数の衝突では被害も相当生じるかと」


「確かに、流石は明浩だ。それで策はあるのか」


「ございます。我が林氏領は国境防衛のために、中央より常時10万人の辺境防衛部隊を借り受けております。彼らを動員すれば兵数で敵を圧倒出来ましょう。当然、ご協力いただけますな、田忠でんちゅう殿」


 呼ばれて前に進み出たのは、大鬼オーガ族に劣らない体躯をした人間族の役人であったが、顔を青くしてオドオドとしており、如何にも気の弱そうな"おじさん"であった。

 綺麗の整えられた髭や衣服からして、生まれと育ちの良さが伺える。


 彼の出身は南公こと趙氏の領地であり、中央に引き上げられ、10万の辺境防衛部隊の実質的な総司令官になった人物。

 ただ、こんな体格ながら彼は将ではなく官僚で、しかも結構偉い大臣クラスの御方だ。


「わ、我が役目は兵役の任期を終えた兵と、新たに徴兵された兵の交代をつつがなく行うことであり、軍の指揮権は中央にありまして、故に私の一存では如何ともお答えしづらく……」


「貴殿の目の前に在らせられるこの御方は、その中央の主たる大王様だぞ。大王様のために働くことになんの差し障りがあろうか。それともあれか?貴殿は全千の指示で動くのか?」


「めめめ滅相も御座いません!ただ、その、私はあくまで役人であり、非常時の決定権は各部隊長の合議の下で」


「貴殿にその指示を出す中央政権が賊軍に壊され、それでいて悠長に合議を図るなど馬鹿げているだろうが!」


「明浩!下がれ!!」


 魔王せつらんは一喝の声を上げ、俺は一歩退く。

 シンと静まり返り、田忠はその巨体を慌てて平伏させた。


 立ち上がった魔王せつらんはそんな田忠の近くまで歩き、怯えている彼の手を優しく握って、微笑む。

 こんな顔も出来るのか。思わず息を呑む。


「余は分かっている。国境警備の兵士は故郷を一年以上も離れ、戦地に身を置いて警備を続け、命を危険に晒す厳しい生活をする。それを耐えてきた勇士たちを、余の我儘で更に戦場に駆り出すのは心苦しいものだ」


「大王様……っ」


「そして明浩の言葉も余への忠義ゆえであることを、分かってくれ。案ずるな、田忠。戦えと無理を強いるつもりはない。戦わないからと言って罰を与えることもない。ただひたすらに皆の忠義に感謝する。そう、兵士達に伝えてくれ」


「必ず、必ず、皆に知らせます。大王様、どうかご武運をっ!」


 気づけば田忠はボロボロと涙を流してえずいていた。生真面目で、感情が豊かな人なのだろう。

 すると魔王せつらんが俺の方に目配せをしてきたので、こっちを見るなという意味で少し睨んだ。


 台本通りだってバレたら困るだろ。


 兵士というのは、数も重要だが、数だけ揃えても意味がない。

 最も大事なのは自ら戦うという意思を持たせること。殺しを躊躇しないこと。これを「士気」という。


 こればっかりはいくら軍規を厳しく締め上げたところで意味はない。

 勉強しなさいと怒鳴られた子供が、さぁ勉強やるぞ!って気持ちにならないのと同じように。


 まだドローンも銃も無い戦場。敵を殺すときは、己の手で相手の息の根を断ち切らないといけないことが多い。

 そういう白兵戦の時代に、臆せず前に進み、躊躇なく敵を殺せる兵を「精鋭」と呼ぶ。

 魔王せつらんは王として、兵をそのような存在に作り替えないといけなかった。全ては、勝利のために。

 この芝居は、そういう残酷な意味を持つ芝居である。


「明浩もこれでいいな」


「大王様に従います」


「苦労を掛ける。では、本題に移ろう。今回の作戦の説明を頼む」


「承知しました。それじゃあ各々方、そして大王様、これより作戦の詳細をお伝えいたします」



 力のある大鬼族を主力とし、器用で組織力の高い人間族は弓兵や工兵に、迅速な意思伝達が可能な小鬼族は斥候に。

 残念ながら獣人族は少なく、種族によって扱いも若干異なるから遊撃隊として分割しまとめておくしかない。


 そして俺の指揮する直属部隊が千人。いずれも人間族の軽騎兵であり、林氏譜代臣下の氏族出身者が多い。

 維持には結構お金がかかるが、辺境警備で紛争の絶えないウチだからこそ必要な、迅速に動かせる精鋭部隊であった。


「少しでも深く穴を掘れ!一本でも多く木を打ち込め!死にたくなければ死ぬほど働け!!」


 声を張り上げているのは梁牙彪の部下、大鬼族の指揮官であった。

 うーん、なんちゅうブラック企業。トラウマが蘇りそうな罵声だが、怠ければ本当に死ぬわけで。


 ここは戦場。そして敵は精強な兵士で、それに比べればウチは弱い。比べるまでもない。

 そんな弱兵が精鋭と戦うためには、とにかく堅固な陣地を築く以外になかった。


「若君、斥候の報告によれば敵は推測通りこの主要道を通るみたいだ」


「恐らく別動隊も隠して動かしている。俺ならそうする。引き続き警戒を続けてくれ」


「了解」


 西都と天水を繋ぐ河川"渭水イスイ"に沿って通る主要道。大軍を進ませるのならここを通るのが一番良い。

 そこで俺は主要道を塞ぐのではなく、敵を見渡せる高地に野戦築城を行わせ、ここに主力部隊を置くことにした。

 林氏領東部は木材の産地としても有名で、築城を行うための資材はすぐに調達可能である。


 兵士達は種族を問わず土に塗れながら穴を掘り、土を積み上げ、延々と連なる柵を打ち立てている。

 十数名の直属部隊を引き連れながら、俺は一日中各陣営に足を運び続けた。


 違反者の報告があれば迅速に軍法に則って処罰し、諍いがあれば金を握らせ、時には脅し、更には戦術の細かな修正を続ける。

 万を数える軍勢をまとめるというのはかくも難しいものなのかと、夜な夜なゲロを吐きながら頭を抱えた。


 俺にとってこれは初めての決戦の指揮である。数百、千余りの部隊の小競り合いの指揮なら経験があった。

 しかし万を越える大軍勢同士の戦いの指揮は執ったことが無い。まるで別物だ。こんなにも眠れないものなのか。


「……ひどい顔ですな、若君」


「あぁ、おかげで些細なことで陳情にくる将校や族長も減ってきたよ」


「皆、怯えておりますぞ。まぁ、ですがそれでいい。大将が敵よりも恐ろしくなくば、兵は前に進もうとしませんからな」


 梁牙彪は苦い顔で笑っていた。早朝の執務室、ふと鏡を見る。

 そこには髪も乱れて、目の下を黒く染め、頬の肉は削げ、しかし眼光だけは鋭い男が映っている。


 これが俺か。確かに恐ろしい。まるで薬物依存の殺人犯だ。

 しかし同時に「良かった」とも思った。こんな顔を魔王せつらんに見られたくはない。


 俺らが今からやるのは防衛戦。栄誉ある派手な侵略戦争ではなく、恥辱に塗れた耐えるだけの戦。

 こういう戦いには、たぶん彼女は不向きだ。だったら後方でどっしりと構えてもらっていた方が良い。


「それで、何の用だ」


「戦です。敵の斥候と我が軍の斥候が既に接敵。威景軍の到着はもう間もなく」


「各陣営に伝令を飛ばせ。予定通りに、つつがなく、と」


「御意」


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面白いと思っていただけましたら、レビュー、ブクマ、評価など、よろしくお願いします。

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