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痩せて欲しかった従妹は密かに焦る  作者: 神無桂花


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22/24

変わる日々への予感

 片付けは四人でせっせと黙々と行いすぐに終わった。あとは帰るだけ。

 校門前。佐倉さんと愛季を見送る。


「さて、桐藤くん。週明け、何かわかるよね」

「ん? ……あぁ、そうだ。テストだ」

「余裕そう、を通り越して忘れてたの?」

「今思い出した。まぁ、いつも通りやるだけだよ」

「……なるほど。テスト直前に慌てるようでは土俵にすら立ててないわけだ」

「なんの土俵だよ。まぁ、ノートだけでも読んでから行くよ」

「え、すいません。大事な時期に」

「いーのいーの。雪夜ちゃん。わたしがわかってて選んだことだから。桐藤くんだって同じ条件だし」

「将暉くんは、別に。どうせほぼ満点なので。気にするだけ無駄なので」


 雪夜の言葉に佐倉さんが引きつったような笑みを浮かべる。


「桐藤くん。覚悟しててね」

「あー……おう」


 ……何だろう。

 ずっと気になっていたこと、その点と点が結びつきそうな、そんな気配がある。


「賭けでもしよっか。わたしが勝ったら桐藤くんの質問、何でも答えてあげる。本当に何でもだよ」


 その質問に目を輝かせたのは愛季だった。


「スリーサイズもですか?」

「あはは……それは愛季ちゃんが桐藤くんに聞くように交渉してね」

「勝負か……」

「受ける?」

「俺は何を賭ければ良いんだ?」

「決めて良いの?」

「おう」

「……余裕だね。じゃあ」


 佐倉さんは耳元でぼそっと、俺だけに聞こえるように囁いた条件。

 雪夜も愛季も聞こえなかったようで首を傾げる。


「負けるわけにはいかなくなったでしょ」

「そうだな」

「ふふっ、次のテストでわたしに勝とうと必死になって勉強して来る桐藤くんを楽しみにしてるね。じゃねー」


 そう言って佐倉さんは夕陽に向かって走っていく。


「……佐倉先輩ってそんなに成績良いんですか?」

「どうだろ。自信はありそうだな」

「……佐倉先輩、近所みたいだし勉強教えてもらおうかな。ん? 雪夜ちゃんさっき、お兄さんはほぼ満点って……」

「うん。そうだよ、いつも勉強教えてもらってるし」

「なんですかそれ……あーなんか勉強した方が良い気がしてきた。帰って渡された分の夏休みの宿題やります。では」


 愛季はとぼとぼと肩を落としながら歩いて行く。


「じゃあ、帰るか」

「うん」


 駅の方向へ足を向ける。俺もしっかり疲れていたみたいだ。寄り道する気力すら起きないし。佐倉さんみたいに「勉強だー」って気分も起きない。


「そういえば、さっき言いかけてたことって」

「あ……覚えてたんだ」

「まぁ」

「佐倉さんのこと、好きになったきっかけ、聞いてみたいなって」

「あぁ。そうだな……」

「久々に会った将暉くん、体形かなり変わってて、正直ショックだった」

「……すまん」

「でも、本気で戻そうとしてるのがわかって、嬉しかった。そのきっかけが佐倉さんだって言うなら、聞いてみたいなって」

「そうだな……どこから話したものか」

「全部聞かせて」

「少し長くなるぞ」

「良いよ。電車少し待つことになるし」

「じゃあ。俺が結構な額の金持ってるって話しただろ。その理由から話すか。中一の頃、投資を始めたんだ。親の提案だった。それでまぁ、暇だったから本気で勉強して、本気で増やしてやろうって頑張ったんだよね。勉強には苦労してなかったし」


 あの頃の俺には、世界があまりに簡単に見えた。

 頭が良い。それだけで簡単に尊敬されたし。金も。小六の時までで余ってたお小遣いやお年玉も全部つぎ込んで。一年経つ頃には桁が二つ変わっていた。


「まぁ、その頃かな。多分、俺は親も周りも全部見下してたんだよね。無意識のうちに」

 この世界は簡単だ。学生の大きな悩みのひとつであるテストに困らず、さらに誰もが悩むお金についても俺は簡単に増やせる。人生イージーだ。


「だからまぁ、やり切ったなって。なんか気力を無くしたんだ。これから何を頑張って生きていけば良いんだろうと」


 そんな風にボーっとしてて暗い上に、暇さえあれば本を読んでて、話しかけても上の空の奴なんかに誰が話しかけるか。


「決定的だったのは中三の秋だったかな。色んな事が重なったんだ。それで俺は、他人に期待するのはやめたんだ」


 学校での孤独が決定的になり、家では月々家計にお金を入れて親ともまるで他人のような関係になった。

 でも。それでも。

 不思議な話だ。俺の中で雪夜だけは色褪せなかった。中三の冬休み。親ですら俺に余所余所しくしてたのに、今までと変わらず接してくれたのが嬉しかったんだ。せめて、この子に恥じるような自分にはならないようにしよう。そう思ってたんだけど。結局最近になるまで、この自分への誓いすら忘れていた。


「強制的に入れられてた部活をやめて。家に引きこもるようになって。食事も自分で用意するようになって。それでまぁ、今年の春、君と再会した頃の俺の出来上がりだ。ダイエット自体は高一の春から始めてたけど、殆ど効果を感じられなかったんだ」

「でも、一年将暉くんが頑張った積み重ねのおかげで、ちょっと食事を改善するだけで一気に効果が出たんだと思うよ」

「そ、そっか。それは嬉しいな」

「それで、佐倉さんに惹かれたきっかけは?」

「あぁ。入学してすぐの頃だったな。一年の頃も佐倉さんとは同じクラスだったんだけど、ひと目見た時からきれいだなって、話したことも無いのに思ってた。それで……ほんと、なんてことのないきっかけなんだけど。道に迷ってたんだ。図書室を探してたんだと思う。東校舎も西校舎も隅々まで探したのに見つからなくて、この学校は図書室も無いのかと本気で入る学校を間違えたと後悔し始めてたな」


 人に聞くってことができないやつだった。すれ違った先輩なり先生なりに素直に聞いていれば、時間を無駄にしなかっただろうに。


「あれ、君、クラスメイトだよね」

「え?」

「道に迷った感じ?」

「あ、あぁ、図書室に」

「図書室か。ちょっと待ってね。すいませーん」


 そう言って佐倉さんは近くを通りかかった先輩に話しかけに行ったんだ。無事に図書室に辿り着いてさ。


「本、好きなの?」

「まぁ。結構」

「そうなんだ。ふふ、わたしも今日、図書室の場所知れて良かったよ。ありがとね」

「え、いや、俺こそ。助かった」

「じゃあ、また明日、教室でね」


 それから、佐倉さんの姿を目で追うようになった。


「って感じかな。変な話だよな。目で追ってるうちに、佐倉さんが彼女だったら毎日楽しくなったりするのかなとか考えるようになったんだぜ」

「全然変じゃないよ」

「え?」

「全然変じゃない。雪夜だって……将暉くんみたいになりたくて。中学受験受けたし。読モにスカウトされた時やるって決めたし。将暉くんに何でもしてあげたい。貢ぎたいとか思っちゃったし」

「……貢ぎたい?」

「何でもない。と、とにかく。変じゃない。変なわけがない」


 雪夜はそう言って俺の手を取る。


「将暉くん」

「うん」

「将暉くんが助けてくれて、嬉しかった。雪夜の目標だよ、将暉くんは。だから、ね。例え将暉くんが佐倉さんを選んでも、雪夜は将暉くんのことがずっと好き、だよ。好きって、言い続ける。将暉くん以外の人、考えられないや」

「それは……予約してた告白?」

「ううん」


 雪夜は静かに首を横に振る。


「実はね、佐倉さんに提案されたんだ。雪夜から伝えて欲しいって言われたんだけど。えっと、これ見て」

『今、桐藤くんに告白されてそれをOKしたら、お金目当てで付き合い始めた自分みたいでいやなので、時間をおいてください。でも、夏休みは一緒に遊ぼうね。あ、事前に言っておくと割り勘だから、割り勘だからね、奢られようとか思って無いからね!』


 動画だった。雪夜のスマホに表示された佐倉さんはそう言って深々と頭を下げた。


『もっと仲良くなってからね。今は、お友達で』


 その言葉を最後に動画は終わる。


「……告っても無いのにフラれた」

「フラれてないよ、スタートラインにまだ立たないでくださいって言われたんだよ」

「んなっ……」

「それでまぁ、雪夜もフェアじゃないなと思ったので、予約少しだけ先送りさせてもらうね」

「うぐっ」

「あれ? 思ったよりダメージ受けてる。……雪夜意外と脈あり?」

「雪夜に告られて嬉しくないわけ無いだろ」


 はぁ……。

 でもまぁ、わりと安心している自分がいる。

 佐倉さんが夏休みも俺と会う気でいること。それと。

 最低な話だが、雪夜に告白された時、俺がどんな選択をするのか、自分でもわからないのだ。だからまぁ、今はとりあえず。夏休みが楽しみだった。

 きっと去年までとは違う夏休みが待っている。そんな気がした。


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