冬の思い出
思い出すのは雪夜がまだ小学生の頃、四年生だったかな。将暉くんが中学二年の頃だっただろうか。
親戚の集まりで当時は冬。⒓月だ。⒓月は嫌いだった。誕生日が⒓月24日だから。毎年親戚で集まって、クリスマスの飾りをして、誕生日会と並んで祝われる。プレゼントもクリスマスと誕生日の兼用で、次の日からは年末に向けて買い物したり大掃除したり、年末年始のイベントに飲み込まれて誕生日なんて忘れられてしまう。自分の誕生日を楽しみに思ったことなんて無くて、クリスマスに心を躍らせた事なんて無くて、親戚の家に行くから友達やクラスメイトに祝ってもらうなんてことも無くて。
「はぁ」
気づかれないように溜息を吐いていた。
その年も、おじいちゃんおばあちゃんの家に着いてすぐにクリスマスツリーの飾りつけをしていた。パパもママもサンタの砂糖菓子が乗ったケーキを貰いに行っている。
泊り用に割り当てられた部屋にこもって、冬休みの宿題を開いていた。チキンを焼く良い匂いがする。あと一時間もすれば夕飯の時間だろうか。
「雪夜ちゃん、いる?」
トントンと扉を叩く音ともに聞こえた声。将暉くんだ。着いたんだ。桐藤家は少し遠いから到着が夕方頃になるのは毎年のことだった。
「はい、お久しぶりです。将暉くん」
「やっ、久しぶり。早速だけど入って良い?」
「あ、うん」
背が高くて、年上の男の人は苦手だったけど、流石に少しは耐性がついてきた。去年までは母の後ろに隠れてて、話す機会なんて両親や祖父母と一緒にいた時くらいだったと思う。
「あ、よかった。じゃあ失礼して」
将暉くんはほっと胸を撫で下ろしながら、部屋の中央の丸机の前に腰かけ。
「じゃじゃんっと、はい、雪夜ちゃん、誕生日、おめでと」
「え……?」
「夕飯前だけどケーキ、一緒に食べない? 親には内緒だぞ」
白い箱、そこから取り出されたのは、『ハッピーバースデー雪夜ちゃん』と書かれたチョコの板が乗っていたサイズは小さい、本当に二人だけで食べるつもりで用意された、予約して取りに行ったのがわかるケーキで。
親には内緒って、どうやって買ってきたのだろう。そんな疑問が湧くけど。
「あと、これ。誕プレとあと、クリスマスプレゼント」
小箱が二つ、テーブルに並べられる。
「ふ、二つも?」
「折角だからね」
「あ、開けて良い?」
「もちろん」
中身は財布とキーケースだった。どっちも今も使っている。将暉くんは気づいてないみたいだけど。
ケーキを切り分け、二人で食べる。ちょっとした誕生日パーティー。なのに将暉くんは何か言おうとしてすぐに困ったように口を噤む。そして黙々とケーキを食べる。
何か言わなきゃ、って考えてそうだけど、気にしなくて良いのに。将暉くんと一緒の空間での沈黙が、心地良い。でも、うん。このまま困らせておくのもあれだし。
「どうやってケーキ、買ってきたの?」と聞いてみると。
「毎年途中で絶対に寄るコンビニがあるんだ。そこで受け取れるように事前に予約しておいた」
「コンビニで誕生日ケーキの予約ってできるんだ」
「うん。俺も調べて驚いたよ」
「雪夜は思いついても実行しないと思う」
今振り返って思う。この時の将暉くんも相当勇気を振り絞ったんだって。
慣れないこと、やったことないこと。でも、踏み出せる。ちゃんと道筋を考えて歩き出せる。そんな将暉くんに憧れたんだ。
気がつけば夕方になっていた。学校が閉まるとのことで、今日のまとめのミーティングを行う。進行状況の共有と明日やるべきことの確認だ。
「明日一日で今言った準備を終わらせるとして、問題は当日か。俺と佐倉さんが参加できれば話は簡単ではあるが、今この状況ですらイレギュラーなんだよなぁ」
正直、今日この時間まで準備に携われたことすら驚いている。明日の準備ですら手伝えるか怪しい状況だ。
「……とりあえず先生方は何してんだマジで」
愚痴なんて言うリソースですら思考に回すべきなのに思わずにはいられない。
「とにかく当日、恐らく雪夜と愛季二人で回すことになると思う。だから一人でも問題無く運営できるようにする。それを念頭に置いて設営を行う」
雪夜と愛季が小さく頷く。
「じゃあ帰るか。先生方に遭遇する前に」
結局来なかったし、もう来ないのではないだろうか、これ。
……いや、そうだ。そういうことなら。




