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4.企みのはじまり

「いいわよ。結婚してあげる」


 仕方なさそうなカティに俺は、嬉しくなって、つい彼女を持ち上げてくるくる回った。


「ありがとう、カティ!! ありがとう!」


「なんの騒ぎだ」


 ピリッとした空気とともにドレフュス団長がやってきた。普段ゆるりとしたドレフュス団長の締まった声は、うちの団長より怖かった。


「いや、あの、休憩時間にすみませんでしたぁ!」


 俺は勢い良くお辞儀をすると、第一に戻った。父は、俺が貴族ばかりの第一に所属した時から爵位のことは考えていたらしい。俺がカティを選び、平民になる気満々だったから、何も言わなかったんだと。感謝しかない。



 そして勤務が終わり、気を利かせたカティが、迎えに行く前に第一に来てくれた。

 

「もう! あのあと大変だったんだよ?」


 可愛く怒るカティにニヤケが止まらない。大好きだよカティ。


「大好き」

「もう、ドニーは仕方ない人ね」


 街の宝飾店に行くと、婚約指輪と結婚指輪を選んだ。


「私のための結婚なのよね。宝石のついた指輪までは要らないわ」

「俺がカティを誰にも渡したくなかったんだ。それは本当だよ。形だけでも貴族になるから、宝飾品はある方がいいよ」

「……ドニー」

「皇女殿下にも報告しよう。あ! ご両親へのご挨拶の日も決めないとね」


 言葉に詰まるカティに俺は慌てて次の言葉を言うことにした。


「このシトリンなんかどうかな?」

「ドニーの瞳の色と似ているわ」

「貴族ってそういう贈り物をするらしいんだ。こっちのピンクの石も似合いそうだけどね」

「……実感が湧いてきたわ」


 そういうカティの目は赤くなっていた。肩を抱くと、見ていた店員さんが張り切りだした。

 結局、シトリンの指輪にお揃いのネックレスとイヤリング、それからシンプルな結婚指輪に決めた。ピンクのイヤリングも可愛いけれど、今度にしよう。


 次の休みの日に、改めてカティを屋敷に呼んで父母と話をした。カティは以前にも呼んだことがあって、悪くは思われてなかったけれど、皇女殿下の近衛騎士と聞いて、母は喜んだ。


 父は今回の事情を汲んで、婚姻や爵位に関する書類を揃えてくれていた。


「書類はこれで問題ないが、二人は結婚式についてどう思ってる?」


 平民がドレスを着ることは稀だ。だから今まで考えていなかった。でも……。


「カティさんも貴族になるのだし、遠慮せずに結婚式をすればいいと思うわ。急ぐなら、古いけれど私の着たドレスを着てちょうだい」


 迷っていると、母が提案してくれた。そうして家族だけの結婚式を慌ただしくしたあと、カティは子爵夫人になった。


 カティのドレス姿は美しかったし、カティも俺も泣いたしで、ちょっと大変だったけど感動した。皇女殿下がきっかけだけど、結婚できて良かった。そんなこんなで、カティは近衛騎士になった。


 ◇ ◇ ◇


「ありがとう。カティ。貴方が近衛になってくれて嬉しい」

「フロランス殿下、これから精一杯務めます。よろしくお願いします!」


 カティと、殿下は仲良く声を掛け合ったらしい。良かった。


 付き合っていたとはいえ、急な結婚だったので、子供が出来たのかと思う人もいたようだけど、カティの近衛騎士への異動で皆が納得した。


 さて、幸せはお裾分けしないとな。何か方法はないかな?

 俺は考える。ちょっと不確かで危ない方法だけれど、ドレフュス団長の強さを知らしめるのが近道ではないかと思い至った。

 

 ナタリナとは所属が変わった今でもたまに話す。彼女は今はドレフュス団長の事務官だ。こっそりナタリナにお願いした。


「ちょっとドレフュス団長を誘惑してみてよ」

「は? 急に何を言っているの?」

「意味深に見つめるだけでいいんだよ」

「今度は何なの?」

「団長の強さって気になるよね。ちょっと考えてることがあるんだ。ただ、うまく行くかわからないから内緒」


 一か八かではあるんだけど、俺なりにシナリオを考えてみたのだ。ドレフュス団長が気づけば乗ってくるはずだ。なぜか確信があった。


 ◇ ◇ ◇

 


「ドニーは時々、第三まで行っているようだけどどうだ?」


 ルバスール団長に声をかけられた。ルバスール団長は奥さんになったナタリナを溺愛している。俺にはわかる。


「皇女殿下の呼び出しは減ったようだけど」

「はい。カティが近衛になりましたから」

「そうか……」

「ナタリナもすぐに仕事に慣れたらしいですよ」

「本人から聞いていても、心配になるものだな」

「そうだ! 第三に持っていく書類を団長が持っていったらどうですか?」


 しばらく考えた団長は『そうしよう』と執務室に戻って行った。


 俺はというと、書類を持って出てきたルバスール団長の後をいそいそとつけて行く。団長ともなれば気配で尾行に気づく気がするが、まあ大丈夫だろう。


 もうすぐ第三の執務室に着きそうな時、ドレフュス団長がナタリナの腰に手を回し、執務室に入ろうとするのが見えた。俺から見えるということは、当然ルバスール団長からも見えてるわけで。


 っていうか、ドレフュス団長はこちらを一瞬見なかったか? 口角も上がってたように見えた。

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