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3.最悪のプロポーズ

 そして公開訓練の日に、カティの案内で皇女殿下は第三騎士団を訪れたらしい。らしいというのは、俺が第一だから見ていなくて、カティに聞いたから。

 騎士団の士気も上がって良かったし、団長と目も合わせたらしい。ん? 目だけ?


 そのペースで大丈夫?

 

 殿下の訪問の最初が第三だったこと、カティを連れていたことで、俺との妙な噂は落ち着いた。陛下の耳に入ったら命がやばいから、助かった。


 ◇ ◇ ◇ 


 次に殿下に呼ばれたときには、カティも一緒に行った。


「それでね、わたくし考えたの。カティ、私の近衛騎士にならない?」

「カティを近衛に? 平民からだと前例がないのでは」


 俺はちょっと驚いて、カティより先に答えてしまった。カティは優秀で良い子だけど、身分は簡単に変わらない。

 

「ドレフュス団長に相談してみるとか? 団長来てくれるかなぁ?」


 カティは案外乗り気だ。第三で街の治安を守るより、近衛のほうが平和な今は安全かもしれないなと、俺も考えた時だった。


「失礼します。お呼びでしょうか」


 噂のドレフュス団長だった。どうして。侍女長が気を回したのかな。何にしろこれで接点も出来る。

 

 黒い髪に青緑の瞳。微笑むと垂れる目に薄い唇。柔らかな雰囲気でルバスール団長とはタイプの違うイケメンだ。


「あ、あの! わたくしフロランスです」

「存じ上げておりますよ、殿下」


 殿下は緊張して舞い上がっておられる。どうするんだこれ。ドレフュス団長は次の言葉を待っている。


「団長! 私、近衛騎士に誘われてるんですけど、どうしたらいいですか?」


 埒が明かないと思っただろうカティが話をした。


「近衛ですかぁ。確かに女性騎士がいると殿下も心強いかもしれないですねぇ」

「そ、そうなんです!」


 殿下は明るい顔になって、同意した。そんなに表情に出してていいんかい。危なっかしいなぁ。


「でも近衛って貴族しかいないですよね。慣例だけで規定はなかったか? 第三としてもカティがいなくなると痛いんだけどなぁ」


 考える風でドレフュス団長が話すので、皆注目した。


「今みたいに時々貸し出すのではだめなんですかね?」

「カティは素敵な子だから、ずっと側にいてくれると安心だわ」


 殿下が言うとカティが照れて可愛い顔をする。ちょっと! 抱きしめたくなるから今はやめて。殿下を見ていたドレフュス団長がちらっとカティを見た気がした。


「カティを貴族にするのが手っ取り早いけど……。カティ、俺と結婚する?」


 なんて言った? ずっとドレフュス団長の顔を見てたけど、本気かどうかわからねぇ。しかも今カティの方は見ていない。


「その案は却下「ダメだ」」


 カティと俺は慌てて口にしたが、殿下は蒼白になっただけで何も言えない。少し開いた口が震えている。


「殿下、人を動かすにはよく考えなきゃいけないんですよ」


 ドレフュス団長は、真剣そうだった顔を崩して、殿下に笑顔を見せた。その優しそうな表情に意味を感じてしまうのは、俺の願望のせいなのか。


 瞳は殿下を射抜いていて、泣き出しそうな殿下と見つめ合っていた。


 俺はカティと結婚して平民になるつもりだった。殿下と関わるようになっても、気安い殿下に身分を考えることは少なかったけれど……でも、それじゃもう駄目なんだ。


 ドレフュス団長の言うとおり、もっと考えないといけない。

 その夜、俺は父親に直談判していた。


「お願いします。兄貴が次期伯爵なのはわかっている」

「他の爵位か。騎士家系だからないこともないけど、領地はないぞ」

「身分が必要なので、そこはいいんです」

「カティさんが近衛騎士か。フロランス殿下が降嫁なさるまでなら、どこかの家の養女でもいいんじゃないか?」

「一度貴族になったら、結婚相手も貴族になるかもしれないじゃないかぁ……」


 情けない声で俺は嘆いた。

 仕方なさそうに父が笑う。


「……意地悪を言ったよ。今度またカティさんを連れてきなさい」

「ありがとうございます!」


 その後も話し合って、俺はなんとか子爵位を譲ってもらえることになった。寛大な父には感謝しかない。俺は幸せ者だと浮かれていた。


 突然結婚したルバスール団長夫妻がやったように、書類だけでも夫婦にはなれる。でも、プロポーズはちゃんとしたい。そう思ってたのに、早く伝えたいと焦るとやらかすものだ。


 休憩時間に第三の訓練所に行った俺はカティを捕まえて言ったのだ。


「今日の帰り、時間をちょうだい。指輪を買いにいこう!」


 焦ってた。焦ってたけど、これはない。


「指輪?」

「そう! 結婚してほしいんだ!」


 間を置いて、カティの顔が赤くなった。そして、焦るばかりに今言うべきではないことをスルッと口走ったことに気がついた。

 

「ご……ごめん、こんなところで」


 俺の声はだんだん力をなくす。 

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