2.秘密の任務
皇女殿下とのお茶会が終わってから食堂に行くと、ちょうどナタリナとカティがいた。
ふたりとも同期で俺とも仲がいい。カティは俺の恋人だし、ナタリナは先日まで俺と同じ第一騎士団でルバスール団長の事務官をしていた。
今は結婚を理由に第三騎士団に異動になっているし、カティは元々第三騎士団だから一緒にいるのだろう。
「聞いたわよ、皇女殿下に呼ばれていたんですって?」
「早耳だな、そうなんだよう」
俺は嘆いて机に突っ伏してみせた。
「気に入られちゃったの?」
心配そうに聞いてくるカティにあわてて答える。
「ないない。俺にはカティだけだよ。ちょっと、やっかいな相談を受けただけで」
「そうなの」
「守秘義務ってやつがあるからな」
興味を持ったであろうカティと、耳をそばだてている周囲を牽制する。恋バナだったとか、言えるわけがないじゃないか。
「ナタリナは第三は慣れたのか?」
「ええ。団長という人が書類から逃げようとするのは同じだとわかったわ」
ナタリナにかかると、ルバスール団長もドレフュス団長も同じ扱いなのか。
「なぁ、ドレフュス団長ってどんな人なんだ?」
二人の顔を見やって聞いてみた。まずは敵を知らなくては。
「気遣いが出来て優しいわよ? でも、カンは鋭い感じね。たまに恋人のフリをして潜入捜査をしたりするわ」
「初耳だぞ、カティ」
「だって、フリの任務だけだからいいかと思って」
カティは平民出身の騎士だ。女性騎士は少ないから、何かと重宝されるのかもしれない。
「偽デートのときは、屋台のお菓子をよく奢ってくれるわね。伯爵家の嫡男とは聞いてるけれど、ワイルドな雰囲気もあって、怒ると怖いのよ」
偽デート……。あぁ、カティに他意はないし、妬いちゃダメだ。ちょっと言葉が耳を通り抜けようとするけど、ナタリナの声で我に返った。
「最近まで、事務官の代わりは副団長がやっていたみたいなの。女性の事務官はドレフュス団長の色香に惑うのですって」
そう語るのはナタリナ。
恋人のいない女性は、ドレフュス団長に惚れちゃうのかぁ。手強そう。
「そのモテモテの団長サマの好きな女性のタイプってどうなのさ」
「「知らないわ。興味ないもの」」
声を揃えた二人に、俺は思わず笑った。まずは、第二皇女殿下とドレフュス団長の接点を作らないとな。
◇ ◇ ◇
ドニーは第二皇女殿下のお気に入り。
でも、伯爵家の次男じゃ無理じゃない?
そんな噂が聞こえるようになったころ、俺はまた皇女殿下とお茶をしていた。人払いをしようとするので止める。
「殿下、何を考えてるんですか。恋バナが恥ずかしくても侍女は下げちゃだめです」
「ドニーは、いろんなことを知っているのねぇ」
おっとりと殿下が答えるけれど、殿下がポンコツなだけだろ。部屋に二人きりとかやめてくれ。侍女も止めろよ。泣いちゃうぞ。
「そういえば殿下はなぜドレフュス団長が好きなんですか?」
「それは……二年前に市井で危ないところを助けてもらったり……」
お約束のやつか。というか誰だよ、このお姫様をお忍びで連れ出したの。学園帰りかもしれないけど。
「あとは、八年前ね。お城の庭園で泣いていたら、頭を撫でてくれたの」
十歳の時かよ。守備範囲広いなぁ。
じゃなくて、片思い歴が思ったより長いぞ。うっとりと語る殿下に微笑ましさを感じ、応援したくなる。
「じゃあさ、殿下は騎士団の見学から始めてみませんか? 訓練の見学ができる日があるんですよ」
「わたくしが行ってもいいのかしら」
「準公務のような顔して、順番に全部の騎士団を回るといいかと思います」
なるほどという顔をして、殿下は近くの侍女に笑いかける。
「差し入れは何がいいかしら」
そこで俺はお願いをすることにした。
「次はカティを呼んでもらえませんか? 私の恋人で第三騎士団に所属しています。今までのことを話してよければ、お役に立つと思いますよ」
っていうか、話させてくれ。そろそろカティに誤解を受けそうだし、多方面にまずい。
そうして、その夜にカティに経緯を話すと爆笑された。良かった。笑われるだけで済んで。
「私が皇女殿下を案内するよ。まさか殿下がドレフュス団長をねぇ」
「恩に着るよ。変な噂が回りきらないうちに団長と会わせたい」
カティも巻き込んでしまったけれど、きっとこの方がいい。俺はカティが大好きだなと改めて思った。




