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1.ドニーの受難

 誰か、助けてください。ピンチです。一介の騎士なのに、どういうわけかフロランス第二皇女殿下に呼び出されました。


「ドニーと話してみたかったの」

「光栄です、皇女殿下。俺……私のどのようなお話をご所望でしょうか」


 俺、ドニー・コーベットは第一騎士団に所属するごくごく普通の騎士である。てんで呼び出される心当たりがない。


「堅いわ、フロランスでいいのに」

「その呼び方は、ごく親しい方に取っておいてください」

「そういうものなのね」


 少し頬を染める姿は、若い女性らしく、お可愛らしい。確か18歳だったろうか。ふわふわの金髪にくりっとした大きな目。紫の瞳は純粋そうで、こちらを見ている。


「あのね、ドニーがルバスール公爵夫妻の仲を取り持ったと聞いたのだけれど」


 ぶっ! 緊張で口を濡らそうとした紅茶を吹きそうになって、慌てて飲み込んだ。


「どどど、どういう話になっているのですか、それは」

「詳しくは知らないわ。何かお膳立て? をしたと聞いたわ」

「だ……だれに?」

「お父様が前公爵から聞いて、それで愚痴をこぼしていたのよ」

「……というと」

「お父様は国内ならルバスール公爵に嫁入りさせたかったみたいなのよ。私はあんな怖そうな人は嫌だけれど」


 怖そうな人……。確かにルバスール公爵——第一騎士団長は美形だけど冷徹そうで威圧感がすごい。年齢も殿下とは離れている。だけどああ見えて結構かわいいんですよ。ということは今は置いておいて。


「殿下には思う方がいらっしゃるのですか?」

「わたくしは、黒髪の素敵なランベール様が好きなのですわ。あの青にも緑にも見える瞳に見つめられたいの」


 ランベール・ドレフュス第三騎士団長! どうやってか、若くして荒くれ者の多い第三騎士団をまとめる伯爵子息だ。


 俺は崩れ落ちそうになるのを我慢した。彼は、端的に言うとチャラい。女性にモテて浮名が絶えない人なのだ。ただ、不思議なことに実際に付き合っているらしい人は分からない。どちらも噂だけれど。


「皇女殿下は思い人について陛下と何かお話をされたことはあるのですか?」

「お父様は、末っ子だから国内の貴族のお嫁さんになるといいとおっしゃっていたの。だから、ランベール様がいいなって」


 きゃ————っとご自身の言葉に照れているご様子だが、俺は気が気ではない。


「ランベール様と両思いになる妙案はないかしら? ドニーならできると思うのよ」


 やっぱりか〜。俺は天を仰いだ。運良く両思いになれたとしても、伯爵家では降嫁先として家格が足りないんじゃないか? それこそ特別な案が必要だ。


 俺は途方にくれながら、功績になっているらしい出来事に思いを馳せた。


 ルバスール公爵夫妻の話は、10日ほど前のことだ。今では夫人になった同期のナタリナが悩んでいたことが発端で、相談に乗りたいけどプライベートだからと声がかけられないルバスール公爵——団長に、ちょっと提案をしてみたのだ。


 匿名相談所を市井に用意して、別人よろしく店主のフリをしてもらうという、簡単にバレるものだった。


 ナタリナがそこに行くように俺が誘導した。堅物だけど擦れてないナタリナは案外ちょろいんだよな。


 団長によると、匿名相談しようとしたナタリナの変装は大変可愛かったらしい。一方ナタリナによると、やけに愛想のいい団長は気味が悪かったとか。


 俺も気味の悪い団長を見てみたかったし、笑える。それなのに、何を話したのか三日で結婚するとは、誰も思わないじゃないか。


 団長とその事務官のナタリナ、もともと距離が近かったんだよ。いきなりくっつけようとしてやったわけじゃないから、結果論なんだよな。


 それ、なんで俺がまとめたことになってるんだよ……

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