表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、恋愛ルートを無視して自立します  作者: 佐藤みさき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/7

大勝利確定演出です

 転生者の悪役(れい)(じよう)だーー! キタアアアーーーー!!

 勝ったぞ! 何にっていわれると困るけれど!


 おどろきに目を見開きながらも、わたしは思わず()(がお)になり、顔をすこし(はな)して、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)と目を合わせた。こくこく、と(うなず)いて応じる。

 それから、きょろきょろと辺りを見回した。モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)()()(れい)(じよう)たちの他にも、ここでは、帰宅したり放課後活動に向かったりする生徒が多すぎる。


「立ち話もなんですから、どこか、(すわ)れる場所でお話しませんか?」


 わたしがそう提案すると、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)(うなず)いて応じた。


***


 モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)に連れられて向かった先は、学園内のサロンだった。高位貴族のみが借りられる部屋だそうで、ソファやテーブルなどの調度品は、おおむね質素な外観・内装の多い学園の中で、特別に高価なものが使われているように見えた。


「ヴィオレーヌ(じよう)、マティルド(じよう)。席をはずしていただける? 今日は、先に帰ってもらって構わないわ」

「え。ですが、イザベル様…」

「心配ないわ。お話しするだけよ。さあ、行って」


 モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)に命じられると、()()(れい)(じよう)たちは(ため)()いながらもサロンを出た。(ろう)()を歩く足音が、静かに遠ざかっていく。

 足音が十分に遠ざかるまで待ったあと、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)はようやく口を開いた。


「……あなたも、転生者?」


 (おうぎ)をたたんで、わたしに向けながら(かの)(じよ)(たず)ねる。わたしは、こくこくと数回うなずいた。


「“も”ってことは、あなたも?」


 モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)が同じように小刻みにうなずく。先ほどまで(まと)っていた、どこか近づきがたいオーラは、今はなくなっていた。


「「よかったーー!!」」


 そう言ったのは、わたしたち二人とも同時だった。わたしは思わず(あく)(しゆ)を求めて手を出し、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)も快く(あく)(しゆ)に応じてくれた。がっしと強く手を(にぎ)り合うだけでは()()らず、わたしたちはハグまで()わした。(たが)いの(けん)(とう)をたたえ合うように、お(たが)いに相手の背中をぽんぽん(たた)く。

 ひとしきり元日本人同士の(かい)(こう)()みしめたあと、身体を(はな)して、わたしから言葉を()いだ。


「いくつか(かく)(にん)したいことがあるのだけれど、いい? モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)

「どうぞイザベルと呼んで。そして、もちろん構わないわ。わたくしもコレットと呼んでいいかしら?」

「もちろんよ、()()そう呼んで。あ、コルネリアって呼ばれたら無視することにしてるから、それだけ知っておいて」

「わかったわ。それで、(かく)(にん)したいことって?」

「うん。それなんだけど……」


 わたしは、息を大きく()()んだ。


「あなたは(おと)()ゲーム『(しら)()()の聖女と(げつ)(けい)(かん)(こい)(うた)』の大ファン・プレイヤーの一人で、十代の若さで事故死した元日本人の女性。この世界はその(おと)()ゲームに(こく)()した異世界であり、あなたは悪役(れい)(じよう)のモンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)に転生した、ということを前世の()(おく)(いつ)(しよ)に思い出した。それからあなたは本来の悪役(れい)(じよう)と異なる行動、つまり常識的な()()いや善行を心がけ、(こん)(やく)(しや)の王太子殿(でん)()や他の(こう)(りやく)対象キャラである王太子の側近たちとの関係が悪くならないよう努めた。でもヒロインの行動やシナリオの強制力によって本来の悪役(れい)(じよう)と同じ運命を辿(たど)るんじゃないかとあなたは()(ねん)している。そのゲームのヒロインというのはこのわたし。わたしの入学と同時にシナリオがスタートした。でもわたしの言動や行動はシナリオと異なっていた。そこであなたは、わたしもあなたと同じ転生者ではないかと推測した。あなたの目的は、ヒロインであるわたしと協力関係を結び、この先に待ち受けているかもしれない死や追放の運命を(かい)()することにある。

 ――ここまで、合っているかしら?」


 わたしは、ほとんど(いき)()ぎをいれず早口でそこまで話しきり、最後に質問をつけくわえた。話している間、イザベルは目をまたたかせながら口をあんぐり開けて、ぽかんとした表情を()かべていた。


「……シャーロック・ホームズ?」


 少し間を空けて、(かの)(じよ)はそう聞き返してきた。わたしは思わず笑った。


「“初歩的なことだよ、ワトソンくん”と言いたいところだけれど、推理したわけじゃないわ。わたしの事情も説明するわね。

 というか、立ち話もなんなのでって言ったのに、立ったまま話してたわ。ごめんなさい、(すわ)りましょう。そうだ、お茶いれる? わたし()れようか?」

「そ、そうね。(すわ)りましょう。お茶なら、学園の(きゆう)()(たの)めるはずよ。ほら、あそこの通話機で、(きゆう)()室に(れん)(らく)できるの」

「おおっ、ほんとだ。(こう)(かん)(しゆ)がいたころの電話っぽいものがある…!」

「ね? わたくし、(れん)(らく)するわ。どうぞ先に(すわ)って」

「それじゃ、お言葉に(あま)えて」


 イザベルが通話機のもとに向かう間、わたしはサロン・ソファのひとつに(こし)をしずめた。()()まれた(そう)(しよく)(せん)(さい)で、クッションは(すわ)(ごこ)()がいい。学園の()()のほとんどを()める、(かた)い木の座面とはかなり(ちが)う。

 教会のように質素で禁欲的な学園にあって、ここの調度だけは、貴族の(てい)(たく)にあってもおかしくないものにされている。すべての国民に()(へだ)てなく開かれた教会の()(せつ)とはいえ、寄付金のほとんどが(おう)(こう)貴族によって(まかな)われることを考えると、(かれ)らを(ないがし)ろにできないのだろう。


 (ほど)なくして、イザベルの命を受けた(きゆう)()たちが、うやうやしく紅茶とお(ちや)()()を用意してくれる。それを二人で静かに見守ったあと、ふたたび二人きりとなった。

 わたしはまた、先に話し始めた。


 わたしが知る、悪役(れい)(じよう)に転生した人物を主役とした小説作品のこと。その作品におけるヒロイン像と、わたしとの(ちが)いのこと。今世の父親に腹を立てているということ。(れん)(あい)ルートに入るつもりはなく、前世のように働いて、独身のまま自立したいと思っていること、などだ。

 それからもちろん、イザベルの断罪や(しよ)(けい)(かい)()するために、よろこんで協力するつもりだという話もした。


「――それじゃあ、あなたにとって、別人が転生した悪役(れい)(じよう)も、見知った物語の一部に過ぎないのね……。前世の日本も、わたくしとあなたとで(ちが)っていて、いわば(パラ)(レル)(・ワー)(ルド)の関係なのだわ」


 イザベルの言葉に、わたしは(うなず)きを返す。


「よくわかったわ。あなたが転生者だって、実はそこまで確信を持てなかったの。わたくしの知る(おと)()ゲームの中では、ヒロインは新入生代表じゃなかったし、コレットという名前は、仲良くなった(こう)(りやく)対象にだけ明かして、そう呼んで()しいって(たの)むものだったし……。父の不義の子っていう()(ぐう)な生まれも、ひた(かく)しにして(けな)()()えて(がん)()るキャラクターで、もどかしいけど(おう)(えん)したくなるっていう……そんな感じだったのよ」

「実際に見てみたら、全生徒と教師たち相手に『コレット・ルブランと呼べ』と宣言してくるし、父親のことを(かく)そうともせず堂々とキレ散らかしてる、やべぇ女で引いた、と」

「そ、そこまでは思っていないわ! あまりにも強者で、無敵すぎるタイプっていうか、その…、わたくしの知るヒロインちゃんとは、全然ちがう性格だなって思っただけ。

 あれだけ大勢を前にスピーチするのだって、全然(きん)(ちよう)していないっていうか……、むしろ、こちらが(あつ)(とう)されるオーラをまとっているというか。(もう)()が如くって(ふん)()()で、すごく(おどろ)いたけれど」


 (もう)()て。


「前世でも勉強は好きなほうだったから、新入生代表で(あい)(さつ)したことがあったの。昔とった(きね)(づか)ってだけ」

「そうだったのね。前世のわたくしは、勉強苦手だったわ。今世では、(しよ)(けい)(かい)()のために(がん)()っているけれど」


 話すうち、前世が(よみがえ)ってきたのか、無意識に口調が(くだ)けていく。


「いいじゃない。前世は10代の若さで()くなったのだから、今世は(ろう)()になるまで生き延びてやりましょう。努力して学んだことは、決してあなたを裏切らないわ。

 わたしは自分がいつ・どうして死んだか覚えていないけれど、すくなくとも30代までは前世を生きたの。今世では年下だけど、中身は年上のつもりで(たよ)ってくれて構わないからね」

「ありがとう、コレット…! とっても助かるわ。まさかここまで話がスムーズに進むと思わなかった」

「わたしのほうこそ、あなたが(おと)()ゲーム(じゆん)(きよ)の悪役(れい)(じよう)なのか、小説(じゆん)(きよ)の転生者なのか、さっぱりわからなかったのだけれど、後者で本当に助かったわ。

 わたしが王太子に声をかけられたときのこと、覚えてる? イザベルったら、わたしを真顔で(にら)んでるように見えたから、『(おと)()ゲームそのままの悪役(れい)(じよう)なんじゃ…』って思って、こわかったんだから」

「まあ、それはごめんなさい。(にら)んでいるつもりはなかったのだけれど、他人からはそう見えやすいみたいで…」

「いいの、(あやま)らないで。悪役(れい)(じよう)のガワが悪さしたのね」


 それから、イザベルとわたしの会話は(はず)みに(はず)んだ。お(たが)い、前世の()(おく)という秘密を打ち明けられる初めての人間同士で、話したいことが山ほどあった。


 (しよう)(ろう)(かね)()(ひび)いて、ふと窓の外を見れば、辺りはすっかり真っ赤に染まっていた。もう日が暮れてしまう。


「いけない、もうこんな時間。さすがに帰らないと、うちのクソ(おや)()()()んでくるかも」

「あははっ、そうね。また、いくらでもお話しできるんだし、今日は帰りましょう。帰りは、わたくしの馬車に乗ってちょうだい。家まで送るわ」

「ありがと、イザベル」

「ベルって呼んで、コレット。親しい人には、そう呼んでもらっているの」

「うん! わかったわ、ベル」


 こうして、わたしたちは友人関係、かつ同盟関係を結び、(たが)いの幸福と明るい未来のために協力を()しまないことを約束した。

 このさき王太子()となる現(こう)(しやく)(れい)(じよう)(ゆう)()を結べるだなんて、もはや、学園で得るべき人脈はすべて手に入れたといってもいい。

 勝ちました、今世。大勝利確定演出です。


 喜びを胸に()()(よう)(よう)と、わたしはイザベルの(ごう)()な馬車に同乗させてもらい、ヴァロワ(はく)(しやく)()への帰路につくのだった。


***


 後日、わたしたちは再びサロンに集まっていた。イザベルは(ちん)(つう)(おも)()ちを()かべており、わたしも頭を(かか)えていた。


「今日…殿(でん)()に、『ルブラン(じよう)(そく)()にして構わないか』と聞かれたわ…」

「わたしは同意してないんです…! そんなつもりじゃなかったんです…!」


 これから一体どうすべきか、わたしたちは(しん)(けん)に話し合わなくてはならなくなっていた。

みなさんはどのシャーロック・ホームズが好きですか?

筆者は、BBCドラマの現代版シャーロック・ホームズ(ベネディクト・カンバーバッチ主演)が大好きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ