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乙女ゲームのヒロインに転生しましたが、恋愛ルートを無視して自立します  作者: 佐藤みさき


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5/12

登校2日目、呼び出されました

「コルネリア、入学式はどうだったんだ?」

「…………」

「……コレット、入学式はどうだった?」

「別に、どうもしません。()(つう)です」


 夕食をとる合間にアルマンから(たず)ねられ、いつものように塩対応する。

 実際には大分どうかしていたし()(つう)には(ほど)(とお)かったけれど、今の(かれ)には話す気になれない。おかあさんと暮らしていたころだったら……。感傷に(ひた)っても仕方がないけれど。


「あー、セリーヌ? 入学式はどうだったかな。コレットのスピーチはどうだった?」

「つつがなく。コレットはとてもよくやっておりましたわ、お父様」


 セリーヌお姉様は(りち)()に、(たん)(たん)と簡潔に返事する。王太子殿(でん)()や、側近の高位貴族令息たちとの会話が(はず)んでいたことは、(くわ)しく説明するつもりがないようだ。

 下手にそんな情報を(わた)せば、わたしかセリーヌお姉様の(えん)(だん)を申し入れるとかアルマンは言い出しかねない。お姉様はともかく、わたしには絶対やめてほしい。


 会話はそれきりで、カチャカチャと静かな食器音だけが(ひび)いた。食事を終えれば、それぞれが席をたつ。


「おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

「おやすみなさい、二人とも」

「おやすみなさい。(みな)(さま)


「あ、(はく)(しやく)様。わたしをサント=ミレイユ()()(いん)にやってください」

「おやすみ、コレット」


 夜のあいさつを()わしたら、(おの)(おの)が自分の部屋に(もど)っていく。


 ()(じよ)たちに()()(たく)をしてもらい、大きな(てん)(がい)つきベッドに(しず)()む。毛布をかぶって目を閉じると、今日のことが頭の中をかけめぐった。

 スピーチへの周囲の反応、()けられなかった(こう)(りやく)対象との(せつ)(しよく)、悪役(れい)(じよう)のあの様子……。こちとら(れん)(あい)はお断りだというのに、(こう)(りやく)対象に(から)まれたり、悪役(れい)(じよう)と対立したりすることは()けられないのだろうか?

 これが(おと)()ゲームなら、ヒロインのわたし()(だい)で何でも選べるはず。でも、わたしの知る小説だったら、ヒロインの(おも)(わく)はむしろ通らない?


 ……考えても仕方がない。これからしばらくは極力無難にやり過ごしてみて、(こう)(りやく)対象たちの興味をうまくフェードアウトさせてもらえれば、(れん)(あい)ルートだのなんだのとは()(えん)でいられると信じよう。


 はじめての登校、入学式の(つか)れがどっと()()せ、わたしの意識は(ねむ)りに(しず)んでいった。


***


「おはよう、コレット・ルブランさん」

「はい、おはようございます」

「お、コレット・ルブラン! おはよう!」

「…はい。おはようございます」


「ねえ、あの子が昨日のあの……」

「ええ。コレット・ルブラン(じよう)、よね? ヴァロワ(はく)(しやく)(れい)(じよう)の」

「へえ、あれが……」


 今朝は、知らない人から名指しで(あい)(さつ)されまくり、別学年と思われる生徒たちからも、声をかけられたり(うわさ)されたりが絶えない。まるで芸能人だ。

 仕方ない。スピーチはちょっと失敗だった。しばらく無難にしていれば、みんなも()きてくれるだろう。そして、ほどほどの知名度だけ残ってくれれば、きっと将来の役に立つ。


「うふふ。コレットったら、すっかり学園の有名人ね」

「ははは……。(みな)さん、よっぽど退(たい)(くつ)していたんですかね」

「ふふ、そうかもしれないわね」


 セリーヌお姉様は、なぜかこの(じよう)(きよう)を楽しんでいるらしい。

 昨日の様子や、今の感じから察するに、お姉様は()(かく)(てき)わたしに好意的であるようだ。それは()(なお)にありがたい。お(たが)いの存在に思うところがないと言ったらウソになるけれど、同じ屋根の下で暮らす(あいだ)(がら)なのだし、良い関係でありたかったから。


「それじゃ、また帰りにね」

「はい。ではまた」


***


 中等部1年Aクラスに入ると、(みな)(いつ)(せい)()()くものの、それ以上なにかしようという生徒はいない。

 わたしは安心して、空いている席をとり、カバンを置いた。


「おはようございます、ルブラン(じよう)

「おはようございます」


 (となり)(れい)(じよう)(あい)(さつ)までしてくれる。名前なんだっけ。ごめん、覚えていなくて…。

 どうも、人の名前を覚えるのは難しい。日本の小学校みたいに、名札をつけていてくれたらな。


 授業は予定どおりに(しゆく)(しゆく)と進み、前世で習得済みの内容だったり、社交ダンスやこの国の歴史なんかの初めて習う内容だったりを学んだ。

 昨日は色々と(しよう)(げき)展開だったけれど、授業中は()(かく)(てき)(へい)(おん)に過ごせそう。(こう)(りやく)対象たちは別学年だし、こちらから積極的に関わろうとさえしなければ、意外と問題ないのかも。

 悪役(れい)(じよう)転生ものだと、こういう消極的な試みは失敗に終わりがちだけれど、わたしはヒロイン様だ。わたしが()せば成る、のかもしれない。


 何事もなく授業を終え、クラスメートと平和的かつ無難に軽いやりとりをしたら、帰り()(たく)を整える。あとは、馬車留めに無事たどりつき、一刻も早く直帰するだけだ。セリーヌお姉様が(おそ)くなるようなら、馬車の中で(ろう)(じよう)して待てばいい。

 そう思ったときだった。


「コルネリア・ド・ヴァロワ(はく)(しやく)(れい)(じよう)。――いえ失礼、ルブラン(じよう)


 気の強そうな声が、教室の出入り口からわたしを呼んだ。そちらを見やると、見覚えのある豊かな(きん)(ぱつ)が目に入った。

 イザベル・ド・モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)だ。()()いの(れい)(じよう)を2人つれ、(おうぎ)で口元を(かく)した(かの)(じよ)が、(ゆう)(ぜん)と立っている。


 呼び出しだーー! ちょっと展開はやくない??

 エッ…まだ…まだじゃないか? まだ登校2日目だぞ。王太子殿(でん)()だって、まだそれほどわたしに興味もってないんじゃないか? すくなくとも、異性としては。

 アレですか。「(こん)(やく)(しや)のある殿(との)(がた)に近づくなんて!」ですか。ちゃいますやん。呼ばれたら行くしかないですやん。身分の低い人間なのですから。


「……はい。ごきげんよう、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)。どのようなご用件でしょうか」


 おそるおそる(かの)(じよ)の近くに(おもむ)き、出入り口の(しき)()(はさ)んで向かい合う。

 (かの)(じよ)の氷のような(ひとみ)が、わたしを()()くように見つめていた。


「お話がありますの。お時間をいただけて?」


 かなりイヤだ。帰りたい。帰りたいが、身分的にも情報収集的にも従うほかない。

 (かの)(じよ)(おと)()ゲーム(じゆん)(きよ)の悪役(れい)(じよう)だとすると、王太子の関心を引くわたしが気に食わないはず。(しつ)()(しん)から(ひど)(いや)がらせを受けるのは()けたいし、(かの)(じよ)を断罪する事態もできれば()けたい。罪を(おか)した者には(ばつ)(あた)えなければいけないけれど、そのきっかけがわたしであってほしくないのだ。

 どうにか(こう)(しよう)の糸口を見つけなくては。


「……わかりました。先に、(おそ)くなると姉に伝えてきたいのですが」

「気にしないでよくってよ。セリーヌ様には、もうお伝えしてあります」


 用意がいい。そういえば、王太子もモンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)も、セリーヌお姉様と同学年だった。ひょっとしたら、クラスも同じかも。

 わたしは、()(いき)がでそうなのを()(まん)して、教室の外に一歩ふみだした。


「お話とは?」


 わたしが(うなが)すと、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)は、ちょいちょいと手招きをしてきた。耳を貸せ、といいたいらしい。

 指示に従って顔を寄せると、モンフォール(こう)(しやく)(れい)(じよう)は、(おうぎ)でわたしたちの口元を(かく)し、ちいさな声で語りかけた。


「あなた、“日本”を知っていて?」

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